API提供に続く顔認証オープン戦略の第2弾はパートナープログラム
急成長する市場に向けてパナソニックが顔認証クラウドのパートナー制度を整備
2020年12月01日 12時00分更新
パナソニック コネクティッドソリューションズ社とパナソニックシステムソリューションズジャパンは、顔認証クラウドサービスパートナープログラムを発表した。パナソニックが持つ世界最高水準の認識率を持つ顔認証技術を活用したクラウドサービスを、パートナー企業を対象に提供するもので、2020年12月1日からスタートする。
個別提供だった顔認証をパートナー経由でスピーディに導入
発表会に登壇したパナソニック システムソリューションズ ジャパン パブリックシステム本部システム開発本部スマートセンシング事業センター長の新妻孝文氏は、「これまでの顔認証技術の提供は、顧客ごとにカスタマイズしたシステムやソューションのほか、モジュールやプロダクトによるパッケージでの提供に留まっていたが、新たに顔認証を広く利用してもらうため、組み込みやすい形でのソフトウェアサービスや機能提供を行なう」と説明。「顔認証に対するニーズが高まるなか、顔認証をすぐに導入したい、自社サービスに組み合わせたい、あるいは初期開発コストや導入コストを抑えたい、開発期間を短縮したいといった企業の要望にも応えることができる」とする。
具体的にはSaaSプラットフォームを通じて提供するパナソニックの顔認証サービスを再販および販売連携する「セールスパートナー」、顔認証SaaSプラットフォームを自社サービスとセットでソリューション展開する「ソリューションパートナー」、顔認証APIやSaaSプラットフォームを自社サービスに組み込み商品を開発する「テクノロジーパートナー」で構成される。
パナソニック システムソリューションズ ジャパン サービスインテグレーション本部サービス事業担当 執行役員の水野登志子氏は、「パナソニックとパートナー企業が顔認証技術を通じて、同じ未来を語り、その実現に向かって、ともに進んでいくことを基本方針とする。急拡大する顔認証市場に対して、柔軟に、スピーディーに対応することができる。さまざまな用途で顔認証を活用してもらい、新たなサービスが創出されることを期待している」と述べた。
プログラムに参加するパートナー企業は、サービス開発において、顔認証APIの無料トライアルを最大6カ月間まで利用できたり、マニュアルやガイドラインの提供を受けられるほか、顔認証の営業部門や開発部門のメンバーが、パートナー企業のビジネスをサポート。パートナー企業専用問い合わせ窓口を開設するほか、営業、開発が一体となって、ロードマップなどの情報を共有し、ビジネスを支援するという。
さらに、ウェブセミナーやワークショップ、イベント展示会を共同で行なうことで、パートナー企業の販路拡大を支援。パナソニックのウェブページでは、パートナー企業の会社ロゴを掲載し、共同プロモーションを実施。パートナー企業間の連携を促進し、新たな価値創造に向けた共創も支援する。「販売規模に応じて、ProfessionalやStandardといったレベル分けを行ない、Professionalパートナーには、より多くのベネフィットを提供する」とのこと。
2021年度には、パナソニックの施設内にパートナー企業の試作品の開発検証などができる共創ラボを設立する予定。「共創ラボは、パートナー企業がデモ環境として利用したり、商品を展示する場としても活用できるほか、タブレットやネットワークカメラ、入退ゲートなどを活用した検証、パートナー企業間のサービス連携に向けたシステム検証も行なえる」と水野氏は語る。
顔認証APIと点呼・勤怠管理アプリを提供
パナソニックは2020年11月に、顔認証APIエンタープライズエディションと、顔認証SaaSプラットフォームの第1弾となる点呼・勤怠管理用アプリの提供を開始している。新妻氏は、「顔認証APIや顔認証SaaSの発表は、顔認証クラウドのオープン戦略の第1ステップとなる。基本機能を提供することで、パートナーがサービスに利用しやすい環境を提供でき、さまざまな用途の顔認証アプリケーションを提供できる」と説明する。
今回発表したパートナープログラムがオープン戦略の第2ステップとなる。新妻氏は「パナソニックの開発、販売リソースだけでは急拡大する顔認証ニーズには対応できない。多くのパートナー企業に利用してもらうことで、さまざまな用途の顔認証アプリケーション、パッケージ、ソリューションが、スピード感を持って開発できるようになる」と語る。
SaaSプラットフォーム第一弾となる点呼・勤怠管理用アプリは、多様な働き方に対応し、従業員の労務管理を正確に行ないたいというニーズに対応できる。
さらに、2021年度以降には、学習塾などの教育現場において、生徒の出欠管理をスムーズに行なう「出欠確認」、オンライン上で身分証明書と顔写真を用いて本人確認を行なう「本人確認」、コンサート会場やスポーツ会場、商業施設でのショッピングや食事の際にスマートな決済手段を提供する「決済手段」、チケット所有者の本人確認や試験会場での受験者の本人確認など、非接触でなりすましの防止を行なう「なりすまし防止」、受付やチェックイン時の本人確認にかかる時間の削減や接触機会の低減につなげる「簡易入退」などのアプリをリリースする予定だ。
今回のパートナープログラムの開始を前に、2020年7月から、参加企業の募集を開始しており、これまでに約10社の企業が参加を表明しているという。セールスパートナーには、ITコンサルタントやITベンダー、ソリューションベンダーの参加を想定。また、ソリューションパートナーやテクノロジーパートナーには、ISVやSIer、企業のシステム部門、ハード機器メーカーの参加を見込んでいる。
現在、同プログラムへの参加を表明している企業は、イーリバースドットコム、学書、シー・エス・テクノロジー、JTAインフォコム、タップ、Tixplus、日本エンタープライズ、ネオレックス、パソナ・パナソニックビジネスサービス、日立製作所、メディネットとなっている。
イーリバースドットコムでは、建設現場入退場履歴管理システムに顔認証技術を採用する予定であるほか、ネオレックスではクラウド勤怠管理システム「バイバイタイムカード」で活用することで、なりすまし防止などに活用。Tixplusでは、電子チケットシステムにおける転売防止に活用し、入場ゲートに設置したカメラで、事前に登録した顔写真と照合して本人確認を行うという。タップでは、ホテル情報システムにおいて、顔認証技術を活用することで、宿泊時だけでなく、前後のサービスにも活用できるサービスにも利用したいという。
パナソニックでは、2025年度までに、250社のパートナー企業の参加を目指し、クラウドサービスで100億円以上の売上げを目指す。PaaSおよびSaaSの利用料金や支援サービスの提供などで収益を得る考えだ。
急成長する顔認証 公共機関からオフィス、アミューズメント施設、小売りへ
パナソニックでは、顔認証技術とセンシング技術、高性能エッジデバイスを組み合わせた現場センシングソリューション事業を推進。現場課題の見える化、現場での対応の効率化を実現している。「1957年の監視カメラの開発以来、認証端末などの高性能デバイス、それらを活用してシステム化したセンシング事業、顔認証事業など、60年以上に渡り、社会インフラを支えてきた。今回の取り組みは、顔認証に対する急速なニーズ拡大に対応したものになる」(新妻氏)とする。
国内の顔認証市場は、2020年は310億円の規模から、2025年には2300億円に拡大。そのうち、クラウドを活用した顔認証ソリューション市場は約350億円の規模が予測されている。新妻氏は、「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う非接触ニーズが、顔認証市場の拡大をさらに加速させると見ている。利用シーンについても、空港をはじめとした公共機関での利用だけでなく、オフィスやアミューズメント施設、小売業での利用など、業界、業種を問わずに拡大している。パナソニックは、ニューノーマル時代に向けた非接触ツールや、現場の課題解決のソリューションとして顔認証技術を提供し、モノや人との接触機会の削減、多様な働き方に対応した勤怠管理や、PCログインの手法にも活用するといった形でお役立ちしたいと考えている」と述べた。
同社の現場センシングリソューション事業は、2025年に約1000億円の事業規模を目標にしており、そのうち、顔認証では575億円、センシングで215億円、高性能エッジデバイスで217億円を想定している。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社の社長に、元日本マイクロソフト社長の樋口泰行氏が就任して以降、サービスやソフトウェアビジネスを積極化する動きがあることを示しながら、「現場センシングリソューションによって、社会課題の解決にお役立ちしたい」(水野氏)と述べた。