LINE WORKSプロダクト担当インタビュー<第1回>
LINE WORKSのプロダクト担当に聞いた LINEと違うところ、似ているところ
2020年12月04日 11時00分更新
テレビCMも話題になっているLINE WORKS(ラインワークス)の設計思想やこだわりについて、ワークスモバイルジャパンのプロダクト担当者に聞いた。全3回となるインタビューの第1回目はユーザーの関心も高いLINEとの違いについてフォーカス。似て非なるLINEとLINE WORKSの違いにはさまざまなこだわりがあった(インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ 以下、敬称略)
カジュアルなLINEと異なるLINE WORKSの「見た目」
オオタニ:まずは他社製品とLINE WORKSの違いについて教えてください。さまざまなビジネスチャットツールがありますが、LINE WORKSでは差別化ポイントをどのように作っているのでしょうか?
一柳:よく「いろいろなビジネスチャットとぶつかるのでは?」と言われますが、実際のところあまりぶつかっていません。約8割は単独指名で、LINEからの移行がほとんどです。普段、ITツールを使ってなくて、社内でもLINEでやりとりしているんだけど、問題あるかもしれないので、LINE WORKSを使うというケースです。だからLINEとの機能の違いはかなり意識しています。
オオタニ:では、LINEとの機能の違いはなんですか?
一柳:一番大きいところで言うと、LINEは個人ユーザーが使いますが、LINE WORKSは組織のアカウントを開設して、そこに参加してもらいます。だから、根本的な考え方自体が違うのですが、ユーザーさんに理解してもらうのはけっこう苦労していますね。
田記:テレビCMの影響により、新規で流入してくださるお客さまの裾野も今まで以上に広がっています。LINEのような操作性を踏襲しつつ、組織向けに必要な機能はどのようなものかを決めるのが重要ですね。
LINE WORKS テレビCM<現場が動き出す・店舗編>
一柳:機能面の違いで言えば、組織を前提とした階層型アドレス帳にしたり、「友だち」ではなく「メンバー」という言い方にしたり、LINEにはない掲示板やカレンダーの機能を入れています。
オオタニ:トークのユーザーインターフェイスは基本的に踏襲してますね。
一柳:実は細かいところだとLINE WORKSはあえてデザインも四角くて、LINEよりもカチッとした印象を与えるようにしています。テキストボックスの縁もあまり曲線はないのですが、ユーザーさんは戸惑わないはず。カチッとした印象とカジュアルらしさのバランスが難しいです。最近は、もっとカジュアルに寄せた方がいいかなとも思っています。
オオタニ:デザインやカラーリングなど、アプリにもトレンドがありますから難しいですよね。逆にLINEと似せているところはどこらへんでしょうか?
一柳:LINE WORKSでも一番使うのはトークなので、レイアウトやボタン配置はLINEと違和感が出ないようにつねに意識しています。やはり「LINEを使っているから、LINE WORKSも使いこなせる」というのが、大前提にあるので。新機能を加えるときはすごく悩むのですが、LINEのフィーリングで、ユーザーが「ここを押したら、これが出てくるだろう」という予想の範囲できちんと動くようにしています。
田記:また、使い方や設定がわからない場合も、基本的にドキュメントやヘルプは1画面を参照するだけで、元に戻れるようにしています。文書が多くなりすぎず、調査の時間がかからないようなオンボーディングの仕方をつねに模索しています。
デフォルトの設定にもかなりこだわっています。カスタマー対応の部署において、ユーザーからヒアリングした内容に基づいて、デフォルト値を決めているので、特にカスタマイズしなくても、すぐにスタートできると思っています。ユーザーの声を聞く機会を頻繁に持ち、そのフィードバックを設定に落とし込んでいるのは、特に工夫しているところです。
前向きじゃない感情にも寄り添えるスタンプ
オオタニ:LINE WORKSはLINEゆずりのスタンプも便利です。
一柳:リリース前はいわゆる標準スタンプだけだったんです。でも、仕事のコミュニケーションって、標準だけではカバーできないよねという声が上がってきました。具体的に言うと、「承認します」や「今手が離せない」みたいなシチュエーションは少なかった。そこで、LINE FRIENDSのキャラクターを使用したセットをLINE WORKS用に描き下ろしてもらいました。
さらに、LINE WORKSならではのキャラクターやシチュエーションがほしいよねということで作ったのがLINE WORKSオリジナルのビジネス向けスタンプです。ユーザーの声を元に単語リストを作ったので、「いかがですか?」「出張中です」「電話ありました」などビジネスでしか使わないようなスタンプがいっぱいあります。
オオタニ:これはすごく日本のビジネス現場にフィットしていますよね。いろいろな場面をだいたいカバーできるという印象があります。
一柳:ありがとうございます。
田記:ビジネス向けスタンプはユーザーのヒアリングを重ねて作っています。私はチームに途中から入ったのですが、「よくこんなシーンにぴったりなスタンプを用意しているな」と驚きました。日本の中小企業において、仕事でよくあるリアクションをかなり調べて作ったものなので、使いやすいと思ってもらえるはずです。
オオタニ:面白いのは、ポジティブではないスタンプもあることです。
一柳:「コミュニケーションで組織をよくしよう」「楽しく仕事をしよう」というアプローチが前提だと思うのですが、個人的にはツールが過度に前向きさを強いることには違和感を持っています。仕事は確かに楽しいけど、大変なこともあるし、疲れたり、愚痴りたいこともある。そういったネガティブな感情や言動をツールで出しにくいように統制するのは、ちょっと違うかな。いい社会かもしれないけど、少なくとも、僕には無理だなと思ったりします(笑)。
オオタニ:愚痴るって、チーム内に心理的安全性が確保されてないと難しいじゃないですか。
一柳:そうなんです。その心理的安全性は開発の中でもけっこう大きなテーマです。普通に考えたら要らないんだけど、これがあることでなにかが円滑になるみたいなスタンプを入れています。
オオタニ:他社はユーザーでスタンプを作れるというのを売りにしていますが、LINE WORKSはやっていません。
一柳:はい。これにも理由があります。LINE上で利用できるスタンプは適切なコミュニケーションを促すように審査をしっかり行っています。暴力的な表現や著作権侵害に当たる表現が禁止されているだけではなく、絵と文字がセットなので文字だけもNGです。LINE WORKSからLINEのユーザーに送るケースもあるので、両者で体験を合わせる必要があります。
オオタニ:なるほど。LINE WORKSのユーザーだけではなく、LINEユーザーも想定しなければならないんですね。
一柳:はい。LINEの規約に準じたもので、LINEとLINE WORKSで一貫性を持たせて適切なクオリティを提供するために、今のところ提供スタンプのみにしています。
「アプリ=機能」にしない理由
オオタニ:お話を聞いたところ、LINEは意識しているけど、他社製品はあまり意識していないと……。
一柳:はい。正直なところ(笑)。
ただ、一点だけ意識しているのは、アプリを増やさないということです。たとえば、他社のグループウェアって、機能ごとにアプリがあるじゃないですか?
オオタニ:メールアプリとか、カレンダーアプリとか、そういうことですね。
一柳:はい。「1つの機能=アプリ」の方が開発は楽なんです。機能ごとにアップデートできるし、QA(品質管理)の工数もシンプルですからね。でも、LINE WORKSでは機能を増やしても、ユーザーが使いきれないということが見えています。リリース当初から1つのアプリで完結することを重視しているので、いきなり他のアプリやブラウザにジャンプするといったことがないはずです。
オオタニ:確かにそうですね。1つのアプリですべての機能が使えます。
一柳:そういう意味では、更新頻度やバージョンアップのポリシーも、かなり特徴的かもしれません。最近のモダンなビジネスアプリって2週間に1度くらいアップデートしますよね。小規模に、アジャイルに、バージョンを上げていくほうが機能も実装しやすいです。
でも、LINE WORKSのユーザーを見る限り、IT管理者がいなかったり、個人の端末を使っている人も多いので、「アプリのアップデートってなに?」と聞かれたりします。そんな職場でも問題が出ないようにリリースしていかなければならないので、LINE WORKSは年間のアップデート頻度もかなり低いと思います。大きな更新は年に3~4回くらいで、ホットフィックス含めても10回くらいですかね。
オオタニ:昔はSaaSも四半期ごとのバージョンアップでしたが、最近は頻度も高くなっていますよね。
一柳:あと、日本のユーザーの商習慣にあわせて、期末に更新を出さないというのもありますね。この数年、大きいバージョンアップはLINE WORKS DAYがある年始とか、7月とかに出しています。3月とかにリリースしちゃうと、たぶん現場が混乱してしまいますよね。
第2回はIT管理者が不在な環境を前提にした製品開発について聞く。