高齢化時代に合わせた“タクシー業界のアップデート”はどうあるべきか、日本MSのセミナーで講演
クラウド型タクシー配車センターの電脳交通が考える地域交通の未来
2020年11月16日 08時00分更新
日本マイクロソフト(日本MS)は2020年11月10日~13日の4日間、法人ユーザーを対象にしたオンラインセミナー「お客様の取り組みに学ぶ、ニューノーマル時代リモートワーク最前線」を開催した。各開催日には「ニューノーマル時代の組織改革およびコミュニケーション」「現場を止めない、現場社員の働き方改革とニューノーマル」「リモートワーク環境のセキュリティ&ガバナンス」「DXをあらゆる企業に ―中堅中小企業様向け特別セッション」といったテーマが設けられ、日本マイクロソフトによる講演のほか、導入顧客による事例紹介セッションが展開された。
中堅中小企業向けをテーマとした最終日のセミナーでは、クラウド型配車システム/配車センターのビジネスを展開する電脳交通の近藤洋祐社長による「タクシー業界で進むDX ~業務のリモート化で地域交通の課題解決」と題した講演が行われた。
タクシー業界の課題は「利用客の減少」「乗務員の高齢化」だけではない
電脳交通は徳島市に本社を置き、クラウド型タクシー配車システムや配車センター、さらに自治体/民間企業向けの地域交通ソリューションを提供している。
近藤氏の実家は、もともと徳島市で1968年から営業してきた「吉野川タクシー」というタクシー会社だ。25年連続で売上高が減少していたこの会社に近藤氏が入社し、2012年に同社代表取締役に就任。ITを積極的に取り入れた経営によって、債務超過寸前の状態から“V字回復”で再建させた。ここで活用したITの仕組みを全国の中小タクシー会社に提供することを目指して、2015年に設立したのが電脳交通である。
近藤氏はまず、タクシー業界の現状と課題について説明した。2018年度のタクシー業界の売上規模は1兆5700億円、年間13億9100万人が利用している。いまだ大きな数字ではあるが、実態としては右肩下がりだ。
「タクシー業界の課題は、売上が減少し、タクシー乗務員も減少していること。1989年(平成元年)には約3兆円の売上規模があったが、そこから43%にまで減少している。また全国で約6000社のタクシー会社が23万台のタクシーを保有し、約27万人の運転手が支えているが、平均年齢は60歳と高齢化している。また、タクシー会社のおよそ70%は中小規模の会社だ」(近藤氏)
タクシー利用客が年々減少し、乗務員(運転手)不足も深刻するなかで、より効率的な業務のあり方が課題となっている。その一方で、新たなテクノロジーを取り込めないためにビジネス成長の機会を失っているという側面もあったと、近藤氏は説明する。
「タクシー業界を支えていた業務管理ツールはコストが高いものが多く、さらにスマホを活用して配車や電子決済、ポイント付与などを実現する新たなサービスが誕生しても、それに接続できないという状況が発生した。業務効率を上げられず、新たなビジネスチャンスも生かせないというのが実態だった。利用者側から新たなテクノロジーを活用してタクシー利用を盛り上げようという動きが起きても、タクシー業界側がその動きを吸収できずにいた」(近藤氏)
つまり、業界としてアップデートが遅れているために、新たな利用者ニーズを取りこぼしているという指摘だ。
「少子高齢化が進むなかで、自宅の前から目的地までの移動に利用するドア・トゥ・ドアのニーズが高まるという新たな動きもある。こうしたニーズを積極的に取り込むためにも、タクシー業界の課題を解決しながら仕組みを変え、システムをアップデートする必要があることを、タクシー会社の経営再建に自ら取り組みながら考えていた」(近藤氏)
実家のタクシー会社を“V字回復”させた仕組みを他社にもクラウドで提供
タクシー業界に対するこうした課題意識をもとに設立されたのが電脳交通だ。同社では現在2つの事業に取り組んでおり、そのひとつが「クラウド型配車システム」だ。
「(スマートフォンの)配車アプリの誕生などにより、一般消費者がタクシーを利用する動機づくりができた。それにも関わらず、タクシー会社側が高額の配車システムに手を出せず、それが利用できない状況が生まれていた。そこで、この新たなサービスを、導入しやすい価格で利用できる配車システムがあれば、タクシー業界の業務効率化が進むと考えた」(近藤氏)
タクシー会社では、利用客から迎車の注文が入ると、登録してある顧客情報とタクシーの現在地情報を確認しながら乗務員に配信する。タクシー乗務員は、携行しているタブレットに配車情報を表示して、地図ナビゲーションに基づいて乗車場所まで迎車を行う。
もうひとつが「クラウド型配車センター」だ。これは電脳交通が運営するコールセンターを共同利用することで、中小のタクシー会社が個別にコールセンターを運用する負担を軽減するサービスである。
近藤氏は、とくに地方タクシー会社では電話配車が売上の75%を占めており、それが経営を支えていると説明する。そのため小規模事業者であってもコールセンターを運営せざるを得ず、そこにかかる人件費と人手不足もまた課題となっている。
「全国のタクシー会社でやっていることが同じであり、悩んでいることが同じであれば、タクシー業界全体が一緒になって取り組んだ方がいいと考えた。自社で人を雇用し、対応していたコールセンター業務をアウトソーシングすれば、タクシー会社が助かる。そこでクラウド配車システムに実装して、コールセンターの仕組みを提供することにした」(近藤氏)
このサービスを利用することで、タクシー会社が個別にコールセンターを設置し、人を雇用したり労務管理したりする必要がなくなる。これにより、10~40%のコスト削減が実現するという。遠隔地のコールセンターで対応しても、クラウド経由でその地域の乗務員(タブレット)に情報を配信すればよく、全国各地の配車対応が可能である。
現在は徳島県、岡山県、兵庫県、福岡県にコールセンターを設置。さらに2020年10月からはコールセンターのフランチャイズ展開を開始し、北海道、新潟県、香川県にもその輪を拡大したという。「Microsoft Teamsにより、コールセンター間のコミュニケーションを図ったり、ビデオ会議を活用した対応策の確認などを行い、サービス品質の維持などにつなげている」と語る。
さらに近藤氏は、上述したサービスによる経営効率化やコストメリットだけでなく、「タクシー業界全体をよりよくしていくことができないか」についても考えているという。
そのひとつが配車業務の自動化だ。これは利用客が待つ場所や小型車/大型車、さらに禁煙車がいい、乗り降りが楽な車がいい、足腰が弱いので自宅まで荷物を運んでほしいといった細かな要望までをシステム登録すると、それに合ったタクシーをシステムが自動的に探索して配車するものだ。条件に合った車両が見つかるまでシステムが探索を続けてくれるため、オペレーターの業務負荷削減にもつながる。「自動配車システム」と呼ぶこの仕組みにより、これまでの配車業務を40%削減できるという。
もうひとつが「配車データ解析基盤」だ。これまで紙ベースで記録/収集していた日々の営業データをデジタル化し、自社の営業解析データとしてモニタリングできる。
「タクシー会社がデータを活用して適切な経営判断を行い、自社の強みを分析するという状況を作るためのダッシュボードを提供している。多くの会社はまだ紙ベースでデータを処理しており、たとえば『日曜の深夜は外で飲む人が少ないから稼働人員を減らす』といった“感覚論”でマネジメントしている人も多い。だが実は、日曜日の夜には月曜早朝に利用する予約が入ることが多く、人を減らすことで年間数百万円の機会損失が生まれる――こうしたことがデータからわかる。データに基づいてアラートを上げることで、業務効率と売上を高め、機会損失をなくすという提案ができる」(近藤氏)