連載577回でTiger Lakeについて説明したが、記事を上げた後で、開発者の1人であるBoyd Phelps氏に、電話会議の形で30分ほど話をうかがう機会が得られたので、この内容を中心に前回の記事のアップデートをお届けしよう。
ちなみにBoyd Phelps氏、肩書はVP Client Engineering Group, GM Client and Core Development Groupになっているが、実際にはTiger Lakeの設計やシステム全体の最適化(コアそのものはWillow Coveで、これは先日辞任したJim Kelly氏の責任範囲)に携わっていたらしい。そういう意味では、Tiger Lakeの内部の詳細を確認するのに一番適切なお相手であった。
TDP表記をやめOperation Rangeに変更
放熱能力ではなく供給電力の限界を提示
さて、まずは動作周波数に関する話。Tiger Lakeのスペックそのものはジサトライッペイ氏の記事で詳しく説明しているので繰り返さないが、実はインテルはTDPという用語をTiger Lakeで使うのはやめ、Operation Rangeなる用語を採用した。
したがってイッペイ氏の「Tiger LakeはTDPによってUP3(12~28W)、UP4(7~15W)の2系統存在する」という文章は厳密には正しくなく、正確には「Tiger LakeはOperation RangeによってUP3(12~28W)、UP4(7~15W)の2系統存在する」となる。
そもそもなぜTDPという言葉を使うのを止めたのかという質問に対する回答は「Tiger Lakeでは、12~28WのUP3と、7~15WのUP4の2種類が用意されるが、ダイそのものはどちらも共通で、(消費電力が)低い所から高い所まで同一のダイでスケーラブルに対応できる。Operation Rangeの限界は、実はダイそのものではなくパッケージに依存する」そうである。
TDPはもともとThermal Design Power、つまり消費電力が熱にすべて変わることを前提に、何Wの熱源として捉えるべきかという指標として提供されているもので、放熱能力の限界がそのまま動作周波数の限界となっていたわけだが、今回の場合は放熱能力の限界なのではなく、パッケージの供給電力のレンジの限界が7~15Wなり12~28Wということになる。
それもあって、TDPという言い方ではなくOperation Rangeに切り替わったそうだ。
加えて言えば、「実際の放熱能力の限界というのは、OEMベンダーのデザイン(=筐体設計)次第で変わってくる」という話で、放熱能力の限界そのものは当然存在するが、それは各ベンダーで異なる数字であって、インテルからはOperation Rangeという言い方で消費電力枠を示し、あとはベンダーが自身の熱設計に合わせて動作周波数を選択するという形になったのだそうだ。
もっともインテル自身もこのあたりは完全に整理されていないようで、Intel ArkのCore i7-1185G7を見ると、Configurable TDP-up/downという表現が残されている。そのうちこのあたりもRange upper/Lower limitなどの表現に変わるのかもしれないが、とりあえずSpecificationを見ても、まだTDPという用語が残されているようで、このあたりが整理されるまで時間がかかりそうだ。
ちなみに気になるPL2の値であるが、SpecificationによればPL1(=28W)の1.25倍で35W、PL1 Tauはデフォルトで28秒と比較的穏当な数字であった。
ノート向けだとデスクトップと異なり、PL2をPL1の2倍などにはできないし、長時間連続も厳しいので、穏当にならざるを得ないのは理解できる
画像の出典は“11th Generation Intel Core Processor (UP3) Datasheet, Volume 1 of 2”
キャッシュは容量の問題で
MLC/LLCからNon-inclusiveに変更
次にキャッシュだ。連載577回で紹介したように、Tiger LakeではMLC/LLCがNon-inclusiveに変更された。この理由を確認したところ、やはり容量の問題とのこと。
さすがにL1のIFU/DCUはInclusiveのままである。ここをNon-Inclusiveにすると、性能へのインパクトが大きいし、そのわりに稼げるキャッシュ容量は大して大きくないからだろう
画像の出典は“11th Generation Intel Core Processor (UP3) Datasheet, Volume 1 of 2”
Tiger LakeはMLCが1.25MB/コア、LLCが3MB/コアであるが、Inclusive方式にしてしまうと、MLCの中身はLLCと完全に同一になるため、実質LLCが1.75MB相当になる計算である。
それでもIce Lakeまでの世代に比べると若干は増えている(Ice Lakeは512KB MLC/2MB LLCなので、実質1.5MB LLC/コアという計算になる)が、競合のZen 2ではコアあたり4MBのLLCを利用できることを考えると、大きな差が付いていることは否めない。
もっともZen 2ではMCM構成でメモリーコントローラーまでのアクセスが遅くなるため、これを補うための大容量3次キャッシュという側面もあるので同一に比較するのはどうかとも思うのだが、やはり効率的な利用を考えた場合はMLCとLLCをNon-Inclusiveにする方が適当、という判断だったらしい。

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