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マフラーでもターボでもない! HKS開発の自動で消毒を促す新型コロナ対策デバイス

2020年08月02日 12時00分更新

文● 栗原祥光(@yosh_kurihara) 編集●ASCII

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新型コロナウイルスの感染予防の為に、手や指の消毒を音声で促すHKSのIoTデバイス「Stronghold 001」とアルコール消毒液が置かれたとある会社の入口

 新型コロナウイルスは私たちの生活を一変させた。その中のひとつが、マスク着用とアルコール消毒の徹底だ。多くの店舗や会社はクラスター源とならぬよう「入店時はマスクを着用し、店舗入口のアルコール消毒液で手の消毒を」と、感染予防に余念がない。だが一方で、アルコール消毒液に見慣れて、つい忘れてしまうという方も多いのではないだろうか?

 自動車用アフターパーツメーカー大手「エッチ・ケー・エス」(以下、HKS)は、入口付近に消毒液と共に設置し、人やドアの動きを感知すると「手の消毒をお願いします」と自動で呼びかけ、ポンプを押し手の消毒が完了すると「ありがとうございました」と応答する「Stronghold 001」(税抜3万2500円、別途月額使用料(通信費)480円~)の販売を開始した。

 消毒喚起をしながら、入場者数のカウントや消毒液の残量管理を自動化し、安価かつ手軽に設置できるStronghold。開発担当者のところへうかがい、開発の経緯や利用方法について尋ねた。

パン屋のおばあさんを見て思いついた
クルマ屋の新型コロナ対策グッズ

東京オートサロン2020のHKSブース

HKSが製造・販売するトヨタGRスープラ用のパーツ群

HKSのパーツを搭載したGRスープラのデモカー

 HKSは静岡県富士宮市に拠を構え、40年以上の長きにわたり自動車用のマフラーやターボ、サスペンションといった機械部品を製造・販売する会社。クルマ好きの間では知られた存在だ。

HKS IoT開発室の大庭さん

 開発したのは、IoT開発室の室長を務める大庭さんとそのメンバーたち。クルマ好きが高じてHKSに入社したという大庭さんの専門分野は電気系。イマドキのクルマは電子制御が当たり前で、HKSからもそのようなアイテムは数多く出ている。ここで紹介する新型コロナ感染症IoTデバイス「Stronghold」は、そんなHKSが長年培ったセンシング技術を新型コロナ対策に活用した商品だ。

Stronghold001(税抜3万2500円、別途月額使用料(通信費)480円~)

 なぜ大庭さんたちIoT開発室のメンバーは、この機械を作ろうと考えたのだろうか。新型コロナウイルスが日本を襲った3月のこと。大庭さんは買い物のため、いつも行くパン屋に訪れた。アルコール消毒液が店舗入口に置かれていたのだが「おばあさんが来店された方に『手を消毒してください』『今、混雑しているので、外でお待ちください』とおっしゃっていたんですよ。しかも、朝から晩までずうっと。お年寄りにこれは大変だなと思いまして、人感センサーを使い消毒を促すアイテムができるのではと思い立ちました」。女性らしい優しい目線だ。

 大庭さん達IoT開発室のメンバーはすぐに設計に取り掛かった。人を感知し、アルコール消毒を促す機械はすぐにできた。しかし大庭さんはさらに、アルコールを使わないと自動ドアが開かないシステムにまで発展させてしまったばかりか、モバイル通信(LTE)を用いてアルコール残量と押された回数までカウントするシステムまで作り上げてしまったのである。驚くべきは開発期間で、なんとわずか1ヵ月間! とんでもない速さである。「その後の商品化の方に時間がかかっちゃいましたね」と大庭さんは笑う。

Stronghold001は、本体部、人感センサー部、専用ボードで構成する

人感センサー部

Stronghold001本体部。microUSB端子のほか、センサーとつなげる専用ケーブル端子が設けられている

人感センサーから延びるケーブル。端子は昔の携帯端末に使われていたマルチコネクターを彷彿させるものだ

 システムは本体と人感センサー部、そしてプラスチック製の専用ボードで構成。セッティングは、専用ボードの上に本体とアルコール消毒液を配置し、適当な場所に人感センサーを置くだけというカンタンなものだ。本体内部には傾きなどを掲出する9軸センサーとGPS、携帯電話端末を内蔵。給電はmicroUSBで、モバイルバッテリーでも動くので、電源が取れない場所でも利用可能だ。百聞は一見にしかず。実際にHKSが公開している動画をご覧頂きたい。

 まず、Strongholdの 人感センサ-が人を検出すると「手の消毒をお願いします」と呼びかける。来場者が消毒液のポンプを押すと、専用ボードがたわみ、本体がそれを検出する。すると「ありがとうございました」とお礼のメッセージを流すというが一連の流れだ。

消毒液の入ったポンプを押そうとしているところ

ポンプを押し切ると専用ボードがわずかにたわむ。本体内部のセンサーがそれを検知し、消毒が行なわれたと判断する

 このわずかなたわみすらも確実に検出してしまうのが、この機械の凄いところである。さらに外部機器との連携も可能。なんと消毒をしない限り自動ドアが開かないことも可能としている。

 「売り込みのため、夜のお店に持ち込んだのですが断られちゃったんですよ。うちにはドアマンがいるから大丈夫だって」と大庭さんは笑う。だが実際に、この機械のデモを見た方は「コレはいいね」と興味を持つそうだ。4万円程度のイニシャルコストで新型コロナ対策ができるんだから、興味を惹かないわけがない。

 さらに10分ごとに人感センサーが反応した数とポンプを押された回数とその時刻、設置位置情報(GPSと気圧)がクラウド上のサーバーに送られる。これらのデータは、ウェブアプリの「Stronghold Center」を用いたPCやスマートフォン、タブレットなどで閲覧可能とのこと。おおよその入場者数やアルコール消毒液の残量、入場者数の推移が一目で分かるようになっている。アラート機能もあり、入場者数が多く密になった時や、消毒液の残量が少なくなった時は、メールで通知するそうだ。今後は、密タイム、密ウイーク、密カレンダー機能を搭載し、「密ナビ」を完成させるのが夢だという。

ソフトウェアの様子(テスト版)。遠隔地の残量と入店者数がグラフ化されている

 カスタマイズも可能だ。センサーの感度などはいうに及ばず、音声は時刻によって切り替えることもできる。しかも4G回線を使い、問合せがあればすぐに設定を変更・反映できるそうだ。さらに新型コロナが収束した後も本機と何かを組み合わせたサービスの提供も可能としている。後述するが、本機を車載しリアルタイムの車両運用状況をPCで把握するシステムといった応用事例はすぐにできるようだ。

 Strongholdは、音声出力、LTE通信、9軸モーションセンサー、外部機器連動機能付きモデル「Stronghold 001」のほか、LTE通信や外部機器連動機能はないものの、よりコンパクトで安価のバージョンも用意される予定とのこと。販売はHKSコネクテッドのホームページから問い合わせてほしい。

損害保険会社からのオーダーで
安全運転診断装置も手掛けるHKS

 どうしてこのような商品がわずか1ヵ月で作り上げることができたのだろう。「弊社は以前からOB-LINKという車両診断コネクター(OBD2)と接続し、その信号をBluetooth通信を用いてAndroid端末(タブレットやスマートフォン)に送るアイテムを販売しています。もともとクルマが好きな方に向けた商品だったのですが、ある日、損害保険会社さんから“車に取り付けるだけで、安全運転診断ができる機械はできないか”という相談がありました」。

 IoT開発室のメンバーは、カメラやセンサーが検出した信号をLTE通信に乗せ、サーバーにデータを送るシステムを開発。LTE通信を入れたのは、事故発生時(衝撃感知時)に正確な場所と動画をサーバーに送り、迅速な事故処理に役立てられるからだ。「センサーを用いることで、急発進や急停車などから運転の荒さがわかるようになりました。損害保険会社は、そのデータを元に保険料が決定するようなのですが、値引きなどが行なわれるとあって、現在では数十万台を納品しています」という。とんでもない売り上げだ。

 同様のシステムはレンタカー業者にも採用された。「こちらはさらに、チェックイン/チェックアウト機能を付けました。ボタンを押したら利用開始で「安全運転してください」という音声が流れますし、チェックアウト後は「忘れ物はありませんか?」という音声を流すようにしました。レンタカー会社からは、クルマがどこにいるのか把握できるばかりか、カメラを搭載しているので事故時の原因もすぐにわかると好評です」という。

センシング技術を活用した車載用アイテムが好評
社内ベンチャーが立ち上がるまでに成長した

 ほかにもさまざまな大手企業への納品実績があるそうで、センシング技術とインターネット回線を結ぶ法人向け車載用アイテムの事業は軌道に乗り、現在は社内ベンチャー「HKSコネクティッドサービス」を立ち上げるまでに至った。今回のシステムは、これらの機械の応用したもの。1ヵ月ででき上がったというのも納得だ。

「ただ、今までは自己完結型だったんです。それですと発展はありません。センシングと何かを連携すれば、より新しいことができるようになります。今回は自動ドアと連携しましたが、電気を扱うものでしたら何でも連携できると思います。新しいものにチャレンジしたいですね」と大庭さんは笑いながらアフターコロナにおける自分の役割を語ってくれた。

 ちなみにクルマ好きでHKSに入社した大庭さんの初作品は、車載してラップタイムや最高速度、ラップ数を自動計測するサーキットアタックカウンターとのこと。「もともとサーキットで走るのが好きでして。当時はスタートラインを通過した時に初めてタイムが表示される機械しかなかったんですよ。でもF1中継のようにリアルタイムでカウントアップする表示なら“セクター1は〇秒”とかすぐにわかって運転が上手くなるかなと思って作りました。完成後、自分で使ったのですが運転は上手くなりませんでしたね(笑)」。

 お話をうかがいながら、コロナ禍が収束し、大庭さんが大好きなクルマで各地をドライブする姿が目に浮かんだ。Strongholdはそのような当たり前だった日常に戻すアイテムとなるだろう。

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