埼玉県および埼玉県産業振興公社は、喫緊の社会課題の解決を目指す「埼玉県社会課題解決型オープンイノベーション支援事業」を開始する。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が地方自治体による技術活用支援事業に初参画し、プロジェクトマネジメントを担当する。
JEITAが地方自治体による技術活用促進事業に初参画
埼玉県社会課題解決型オープンイノベーション支援事業は、先端技術を社会実装することで、成長産業の創出と社会課題の解決を目指すのが狙い。開発支援に加えて、埼玉県内の多種多様なフィールドを積極的に提供し、複数の企業や研究機関などによるオープンイノベーションを誘発。社会課題の解決につながるテクノロジーの社会実装を支援して、豊かな社会や暮らしの実現を図るという。
支援事業にはANAホールディングス初のスタートアップ企業であるavatarin(アバターイン)をはじめとする企業などが参画。「アバターロボットを活用した災害に強い社会の構築」、「小型無人搬送車を用いた無人配送システムの構築」、「超高齢化社会に求められるAI、ロボットを活用した医療・介護需要の低減」の3つのワーキンググループによる活動を行なう。2020年3月31日から4月22日まで公募を行い、3件の応募を採択した。事業委託期間は、2021年2月26日までとなる。
WG1の「アバターロボットを活用した災害に強い社会の構築」は、avatarinが中心となり、埼玉県内に本社を持つレンズメーカーのタムロンが参加する。avatarin は、2020年4月からアバターに特化した新事業会社としてANAホールディングスの持ち株会社として設立。アバターロボットは、2019年10月に開催されたCEATEC 2019の展示で、来場者から大きな注目を集めていたのが記憶に新しい。
今回の取り組みでは、新型コロナウイルス感染症拡大防止や、救急災害医療に対応した熱画像/温度カメラ搭載のアバターを開発。医療現場などでの利用を想定して、遠隔地から、非接触で、発熱や感染症などの疑いのある人を、温度や熱画像から検知する。
avatarinのテレプレゼンス型コミュニケーションアバター「newme」と、タムロンが開発した遠赤外線カメラモジュールを組み合わせて利用。平時はアバターを社会課題解決や経済活性化に繋がるサービスやツールとして利活用する一方で、災害やパンデミックの際は病院関係の利用に集中させたり、外出規制時にもアバターを活用して買い物に行けたりといったように、経済活動を止めないための対策にも活用できるようにする。
avatarin 代表取締役CEOの深堀昂氏は、「アバターロボットを、新型コロナウイルスに感染した患者が入院している6つの病院に無償で提供し、医師が利用したり、家族とのコミュニケーションで利用したりといった例がある。今回は、埼玉県で、このアバターロボットをどう社会実装できるかといった取り組みを行う。第2波、第3波の際にも、世界初の最先端デバイスを使って対応できる環境を埼玉県に作りたい。病院のほか、学校や商業施設などにも活用できるようにしたい」と述べた。
WG2では「小型無人配送車を用いた無人配送システムの構築」をテーマに、ステンレスアート共栄が取り組む。ステンレスアート共栄は、1963年に金属研磨業として設立。現在、2D/3D設計や解析、精密板金、溶接、アセンブリまでに事業を拡大している。今回の取り組みでは、アトラックラボが参画する。
GNSS(全球測位衛星システム)とLTE、画像センサーを用いて、設定されたコースを安全に自動で運転するためのAI技術を開発。これを活用して商品デリバリー用自律走行小型搬送車を開発する。
ステンレスアート共栄 代表取締役社長の永友義浩氏は、「埼玉県は高齢化が進む一方、都市部から山間部までさまざまな地形があり、高齢者や外出困難者、買い物難民が生まれやすい。研究、開発を行う自動走行ロボットは、人と共生ができるロボット車両の開発を目的としており、こうした人たちの手助けとなることを目指す。また、秩父ミューズパークの協力により、より社会に近い形で、安全性、走破性の走行試験を行うことができる。そこから課題を抽出し、新たな形の流通インフラを目指す。埼玉県からモデルケースを生み、社会に貢献したい」と語った。
WG3は、「超高齢化社会に求められるAI、ロボットを活用した医療・介護需要の低減」をテーマとし、RDSが取り組むことになる。RDSは、モータースポーツや医療、福祉、最先端ロボットの製品開発を進めており、グッドデザイン賞を受賞したドライカーボン松葉杖や、パラリンピックの種目でもある車いすレーサーの開発でも実績を持つ。具体的には、ロボットが人を追尾。そこから得た歩行データをもとに、疾患にかかっている可能性を指摘する。
RDS 代表取締役社長の杉原行里氏は、「疾患を持っている人の歩き方には一定の特徴があることが、国立障害者リハビリテーションセンターの研究でわかっている。RDSでは、それに関する1000近いデータを蓄積し、区分している。ロボットで追尾して、バイオマーカーから計測した歩行データをもとに、当社のデータバンクにアクセスして、疾患にかかっていることを発見する。未病を発見できる追尾型歩行解析ロボットを開発したい。研究を通じて、アルゴリズムの改善や、より確度の高い計算式の発見などにつなげたい」としている。
また杉原氏は、「車いすレーサーの開発もとに、人間の感覚値を可視化し、その人にとって快適な座席ポジションを抽出できるシートシミュレータのSS01を開発している。そうしたノウハウも活用する。埼玉県は人口1万人あたりの医師、看護師が日本で最も少ない。この課題の解決につながる。また、日本は先行して超高齢化社会を迎えるが、それはハード、ソフト、サービスを先行して開発でき、横展開できるということでもある。チャンスがある」などと述べた。WG3には、タクモス精機、R2、exiii design、マグネット、make senseが参加する。