特別企画@プログラミング+ 第51回
Quoraムック発売記念連載 「コロナ後の世界をどう生きるか」第5回
なぜテスラはトヨタの時価総額を超えたのか。日本の歩むべき道を考察する
2020年07月14日 09時00分更新
コロナ時代、経済も未知の領域に踏み込んでいます。世界中で失業者数が激増し、それを支えるために給付金をバラ撒き、各国が抱える借金の残高が世界中で積み上がっています。
その結果、大手企業の株価は史上最高記録を更新し続けるという、とても奇妙で倒錯した状況が続いています。
消費者の心理は冷え込み、経済活動は落ちているにもかかわらず、なぜこのようなことが起きるのか? この連載では、新刊『Quora 世界最大級の知識共有プラットフォーム-ビジネスと人生の課題をすべて解決する-』の発売を記念して、Quoraをもとに、コロナ後に役立ついろいろな情報をお届けしていますが、今回は大手企業の株価が上がり続けている状態を読み解くヒントを紹介します。
不確実性の時代をどう生きるか
ペンシルベニア大学ウォートン校でMBAの学位を取得し、現在はニューヨーク近郊でヘッジファンドに勤務するMary Oakleyさんがこの件について詳細な分析をしています。
「1100兆円もある日本の借金、日本はどうして破綻していないのでしょうか。今後はどうなりますか?」(https://qr.ae/pNKlkg)
回答者:Mary Oakley
回答:
この問題、私も最近かなり考えています。アメリカ在住ですが、これは日本だけの問題ではありません。アメリカの国債もかなりやばいことになっています。特にコロナ禍対策で世界各国せっせと公債を増やしてお金を刷っています。年金を日本とアメリカ両方で払っている私にとって、これはかなり重大な問題です。このままで本当に大丈夫なのか?直感的には大丈夫なはずない、と思いますよね。また、この様な金融量的緩和や国家財政危機、またデフレ、インフレは直接金融資産の価値に影響してきます。私はアメリカで投資の仕事をしているので一度きちんと現状を理解しておく必要があると思いました。
そこで、いい機会なので、自分で納得いくまで調べてみることにしました。この回答は私が勝手に調べた情報のまとめです。自分で興味があったことを調べて考えたことを書いています。書く事によって理解が深まりました。Quoraのお陰です。私が出した結論から先に言うと、当面しばらくは大丈夫みたいだけど、永久にずっとこのままはまずい、です。いつか誰かがツケを払うことになるというのが私の結論です。(編集注:以下、省略)
この回答の中でMaryさんは、日本における対GDPの公債比率が高いことを確認した上で、過去もっとも儲かっていたバブル期にさえ財政収支がプラスになり公債の残高が減ったことはない、と指摘します(回答がとても長いので、ここでは省略しています。リンク先のQuoraを見てください)。
であれば、問題は、無限に借金を増やし続けても問題ないのか?というところです。自国通貨で国債を発行している国であれば破綻しない、と主張するのがMMTと呼ばれる現代貨幣理論ですが、お金をばらまけば需要が供給を超えてインフレが起きるはず。しかし、いくらお金を刷ってもそれは起きていない。
そこでMaryさんが目をつけたのは先進国の人口増加率の鈍化、人口の高齢化、そしてテクノロジーの進化です。これら3つのメガトレンドすべてがデフレ(需要減、あるいは供給増)を引き起こしており、刷ったお金はその相殺に使われているため、インフレが起きてないという考え方です。もしこれが事実ならば、いずれも長期的なトレンドなので、かなりの長期間にわたって借金を増やし続けても問題ないということになります。
では無限に続けられるかというと、やはり限度はあり、この麻薬のような劇的に効く痛み止めの後退症状というツケは未来の世代が払うことになるだろう、という見通しが語られています。仮に無限に続けられるならば、税金を徴収する必要すらないということになり、それでは国債の信用が徴税権と議会の信用力を背景にして決まることと矛盾してしまいます。
お金を刷り続けると国そのものの体力の低下も止まらず、いずれは他国に吸収される(イタリアがドイツに、日本は中国に)ことになる可能性も出てくるのでは?と、背筋の冷えるような発言も飛び出します。
この不確実性の時代をどう生きるか、経済の観点からヒントが詰まった回答だと思います。
2000年以降、シリコンバレーのコンピューター博物館に日本製のものは何もないという現実。
今、お金を刷り続けても実体経済の需要が増えないため、刷ったお金が行き場を失ってどんどん株式市場に流れ込んでいます。
そんな中、とうとうEVのテスラの時価総額がトヨタを超えて世界一の自動車会社になるという大ニュースまで飛び出しました (https://thebridge.jp/2020/06/tesla-becomes-most-valuable-automaker-worth-more-than-gm-ford-fca-combined-pickupnews)。日本最大の企業であるトヨタの時価総額は22兆円、テスラは27兆円です(7月7日現在)。
このテスラという会社、かつてのスティーブ・ジョブズを彷彿とさせるカリスマ性を有するイーロン・マスクが創業者として君臨しているのですが(ZOZO創業者の前澤友作氏が宇宙旅行に行くことで話題になったSpaceXの創業者でもある)、そのイーロン・マスク自身が5月2日の時点で、「現在のテスラの株価は高すぎる」とツイートした(https://twitter.com/elonmusk/status/1256239815256797184)ことでも話題になりました。彼は「ぶっとんだ」性格の持ち主で、お騒がせ発言をすることでもよく知られていますが、この発言からの2カ月で株価はさらに2倍近く上がっています。
日本経済の最後の砦と言われている自動車産業で、創業20年にも満たないスタートアップにあっという間に抜かれてしまう。
そんな状況のさなか、とても刺激的な質問が投げかけられます。
「日本人の能力が低いから、1億2000万人もいて誰一人Googleレベルのスタートアップが作れないんですか?」 (https://qr.ae/pNKz5m)
回答者:浅見幸宏
回答:
能力が低くなったと思います。1980年ごろの就活の服についてのアドバイスです(編集注:画像は省略)。このころは、見た目が50%だったんですね。紺の就活スーツは存在してませんでした。注目すべきは、採用する方も就活生も「人間中身が大事」だという価値観を共有していたことです。
実際にみんな服装はバラバラです。ここからは教育の話。
今必要なのは突き抜けた構想力なんですけど、その真逆に教育の舵を切ってしまい、題意を読み取り短期間で効果的な回答作成が得意な、無難な正解をひたすら量産するお利口な人ばかりを育成するようになってしまったと思います。
中学受験予備校の問題作成者の知性のレベルに合わせて、知的訓練をある限度を超えて懸命にしてるのは今の時代、一種の虐待に近いと私は思ってます。
(編集注:中略)
気がつくと、敗北しているのはインターネット市場だけではありません。コンピューターメーカーは国内にほとんどなく、携帯は京セラとソニーが細々と作ってるだけで、G5の戦争には一社も参加していません。
シリコンバレーのコンピューター博物館には、1990年代までは日本製あるいは日本人の作ったコンピューター製品が結構収蔵されています。シャープのザウルス、ソード社のコンピューター、MSXなどなど。2000年以降の収蔵品は探しましたが見つかりませんでした。インテルの最初のプロセッサ4004は、嶋正利 ら日本人(ビジコン社)の設計によるものです。インテル社の幹部は、日本から来た技術者を空港まで出迎えたそうです。今では考えられませんが、プロセッサーと言う基幹部品で競争に参加できていた時代があったのです。
頼みの綱の自動車も、勝ってほしいという願望はありますが、私はとても悲観的です。アメリカも中国もEVのベンチャーがすでに競争力を持ち始めています。自動車も、CADで設計して、コンビューターシミュレーションして、生産計画立ててロボットが作るという新しい作り方が形になりつつあります。テスラはサブライチェーンの構築と、量産ラインを驚くほど短期間で形にしました。
熟練工が全くいなくて、ロボットと機械と作業員で作っています。濃密なサプライヤーやディーラーとの関係や、熟練工を長期間かけて育成するというトヨタの資産はすでに負債です。テスラは店舗を閉鎖し、立ち上げにはかなり苦労したものの(ほぼ)マックジョブの作業員だけで車を量産し販売できることを証明しました。(編集注:以下、省略)
フルスタック・エンジニアの浅見幸宏さんは、画一化された教育に問題の根っこがあり、創造的な仕事ができなくなっていった、と言います。
シリコンバレーのコンピューター博物館には、1990年代まではシャープのザウルス、ソード社のコンピューター、MSXなど日本製あるいは日本人の作ったコンピューター製品が結構収蔵されているのに、2000年以降は何もないと書かれています。
そしてテスラの生産現場について言及し、熟練工ではなくロボットと機械をメインとして自動車を製造・販売できることを証明したと。日本の自動車産業で時間をかけて育ててきた関連企業などの資産が、すでに負債化しているというのです。
半導体業界で、日本企業がインテルの存在をおびやかしていた時代があった、ということを今の若い人は知らないかもしれません。しかしこの凋落は既定路線であり、この敗北をしっかり受け止めることが大切だと結んでいます。
そしてこのたびの、テスラがトヨタを超えたという象徴的な事件です。日本は今後どういった道を歩むべきなのか?それを私たち一人ひとりが考えていくヒントが、Quoraにはたくさん蓄積されています。
最後に、テスラで実際に働いていた方からの回答を最後に紹介します。
「実際働いてみてテスラはどんな会社でしたか?」 (https://qr.ae/pNKlWx)
果たして、日本からテスラのような経済界に革命を起こすスタートアップは出てくるのでしょうか。
Kenn Ejima
ソフトウェアエンジニア。香川県生まれ。小学生時代よりBASICおよびアセンブラでパソコンゲームを開発。京都大学工学部卒業。シリコンバレーやニューヨークで起業したのち帰国。現在、Quoraエバンジェリストとして日本進出を担当。
Quora: Kenn Ejima / Twitter:@kenn / GitHub:@kenn『Quora 世界最大級の知識共有プラットホーム-ビジネスと人生の課題をすべて解決する-』
24カ国、月間3億人が利用し、質の高い知識が集まるQuora。本書はその膨大な情報の中から、オバマ元大統領やポール・クルーグマン(ノーベル賞受賞エコノミスト)といった著名人のQ&A、若い創業者が起こす間違い、一流シェフと超一流シェフの違いなど、示唆に富むQ&Aを厳選してジャンル別に111本掲載。ビジネスと人生に役立つヒントがきっと見つかります。
・発行: 株式会社角川アスキー総合研究所
・発売: 株式会社KADOKAWA
・定価:1,650円(本体1,500円+税)
・発売日:2020年5月21日/電子版2020年5月28日
・判型:A4変形判
・商品形態:ムック/電子版
・総ページ数:144ページ
・ご購入はこちらまで
〈主な内容〉
・野口悠紀雄氏インタビュー「“いい質問”の重要性」
・Quoraの高品質を支える4つの要素
・アダム・ディアンジェロQuora CEOインタビュー「知の共有と、テクノロジーの進化」
・「まつもとゆきひろさん、Quoraをどんなふうに使っていますか?」
・Quoraの教科書:ユーザー登録の方法、回答の評価、質問のフォロー、スペースの使い方、統計のチェックなど
・Quoraからピックアップ 111のQ&A:ビジネス/起業、デザイン、エンタメ/旅行、グローバル/日本、マーケティング、世界はどう変わるか、環境/科学、人間関係/人生、テクノロジー、経済/働き方、人材/教育
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