●自動車メーカー、特に高級車とアップルの不都合な関係
自動車メーカーにとっては、CarKeyやCarPlayなどで、スマホによる「体験の平準化」がもたらされます。これは大衆車にとっては体験を引き上げる非常にありがたい取り組みですが、高級車にとっては複雑な存在と言えるかもしれません。
たとえばメルセデスは2010年代前半から、UWBを使った自動車キーを実現していて、NFCベースのCarKeyより既によっぽど賢いんですね。カギが複数あったら、使っているカギに合わせてシートポジションを調節してくれますし、カギが車内にあるときには外側のドアノブのセンサーから施錠できないようにして、カギの閉じ込みも防いでくれます。
CarKeyは今後NFCベースからUWBベースへと移行していくことになりますが、せっかく高級車メーカーがいち早く実現していた「クルマのカギの未来」は、iPhoneやApple Watchを通じて大衆車にも入っていくことになります。
CarKeyによるデジタルキーの広がりは、もちろん自動車の文化、技術、体験という広い視点で見れば、歓迎すべきテクノロジーと言えます。しかし高級車メーカーとしては差別化のため、さらに先行く体験を先取りして実装していかなければならない……ということになります。
この点、BMWはなんとなくアップルの軍門に降った諦め感がありますが、BMWは米国ではドライバーズカーとして一番人気のブランドということもあり、対応したほうが顧客には喜ばれます。技術開発とマーケティングを天秤にかけた判断でしょうし、恐らく人気の機能になることから、デジタルキーの普及を加速するきっかけにもなりそうです。
アウディは純正ナビに早くからグーグルのマップを採用するなど、うまくグーグルを活用しようとしている感じです。
一方でメルセデスは、独自の音声アシスタントMBUXを採用し、アップル・グーグルにはできない独自の価値を作り出そうと躍起です。音声アシスタントでエアコンの操作などができるのは便利そうだなと思いますが、メルセデスではSクラスやEクラスだけでなくAクラスからMBUXを搭載し、Techに敏感な若年層の取り込みに活用しています。
こうした自動車技術のTech寄り視点については、引き続きフォローしていきたいと思います。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
この連載の記事
-
第317回
Apple
アップル初のApple Parkでの開発者イベント、初公開の「Loop Building」とは -
第316回
Apple
「Mac Studio」アップルの多様すぎる接尾語について考える -
第315回
Apple
アップル「Mac Studio」登場で生じる、ラインアップへの疑問 -
第152回
Apple
アップル「MacBook Pro」ポート増加は敗北なのか -
第151回
Apple
iPhone分解アートと、Appleが目指す未来 -
第150回
Apple
アップル新型「MacBook Pro」どの構成で買うべきか -
第149回
iPhone
アップル「iPhone 13」4つの魅力 -
第148回
iPhone
アップルiPhoneラインナップから浮かび上がる2つのこと -
第147回
iPhone
アップル製品ラッシュふたたび? -
第146回
iPhone
アップルはiOS 15で「時間の支配権」をユーザーの手に取り戻させようとしている -
第145回
Apple
アップル新型「iMac」驚きの電源 - この連載の一覧へ