ハイパースレッディングを無効にしたのは
ARM向けのスケジューラーを流用するため
今回のLakefieldは、Surface Neo向けというか、カスタマイズ版Windows10向けのSpecial Editionではないのかという気がする。その根拠は2つあって、まず1つはコア/スレッドが5/5構成なことだ。
連載538回でも書いたが、マイクロソフトはARM版Windows 10でbig.LITTLEをサポートしており、このスケジューラーをそのままx86に持ち込むのは可能だろうとしたわけだが、どうも本当にそのようだ。
なぜかと言えば、現状ARMのコアは自動車向けおよびサーバー向けの一部製品を除くとSMT(Simultaneous Multithreading:同時マルチスレッディング)に対応していない。これはQualcommのチップも同じである。
一方SunnyCoveにしろTremontにしろ、SMT(ハイパースレッディング)には標準対応である。もし今回マイクロソフトが、Lakefield向けに新規にスケジューラーを起こしたとすれば、当然SMT対応にするだろう。実際見かけ上はBig coreが2つ、Little coreが8つのシステムと扱えるからだ。
ところがbig.LITTLEは最大でもコアが8つまでしか扱えない(実際、QualcommのSnapdragon 8cxはKryo 495×8の構成である)。ハイパースレッディングを無効にした理由は、まさにARM向けのスケジューラーをそのまま流用したいためではないかと思われる。
今回のプレスリリースを読むと、中に「ハードウェアによりOSスケジューラーにガイドを提供:CPUとOSスケジューラーがリアルタイムに通信して、アプリケーションが必要とする正しいコアに割り当てられる」とあるのは、おそらくbig.LITTLEと同等のAPIをLakefieldが提供しており、Windows 10はこれを利用してスケジューリングを行なうものと思われる。
もう1つの理由は拡張命令である。SunnyCoveはSSEに加えてAVX/AVX2/AVX512までに対応しているが、TremontはSSE 4.2止まりである。したがって、AVXを利用するアプリケーションが来たらSunnyCoveに割り当てるような形になるだろうと予想したのだが、そうではなくLakefieldそのものがSSE 4.2までの対応になっている。
つまりSunnyCoveコアを搭載しているにも関わらず、AVX命令が一切使えないことになってしまったわけだ。AVXだけでなく、連載525回で説明したGNAも無効化されていると思われる。理由はこれもbig.LITTLEである。
ARMのbig.LITTLEでは、Big coreとLittle coreがサポートする命令セットは完全に同一でないといけない。この制限がLakefieldにもモロに引っかかることになったのだろう。
当初はAVX命令が来たらフックを掛けてSunny Coveコアにスレッドを移動する、という芸当をスケジューラーに組み込むと考えていたのだが、そうした芸当は一切不可能ということになる。
ただこれはbig.LITTLE互換のスケジューラーの制限であって、それ以外のスケジューラーを開発すれば、SMT対応、AVX対応も可能ということになる。
Linuxカーネルなどに向けて、そうしたカーネルスケジューラーを内部で現在開発中なのではないか、という気もする。
それが用意できたら、フルスペック(?)のLakefieldが登場するという可能性もありそうだ。もっとも、そうした製品が市場からどこまで要求されているのかは「?」である。
今回の構成を見ていると、なんとなくSurface Neo向けだけで終わりそうな予感もある。果たしてそれ以外の採用事例が出てくるだろうか?

この連載の記事
-
第852回
PC
Google最新TPU「Ironwood」は前世代比4.7倍の性能向上かつ160Wの低消費電力で圧倒的省エネを実現 -
第851回
PC
Instinct MI400/MI500登場でAI/HPC向けGPUはどう変わる? CoWoS-L採用の詳細も判明 AMD GPUロードマップ -
第850回
デジタル
Zen 6+Zen 6c、そしてZen 7へ! EPYCは256コアへ向かう AMD CPUロードマップ -
第849回
PC
d-MatrixのAIプロセッサーCorsairはNVIDIA GB200に匹敵する性能を600Wの消費電力で実現 -
第848回
PC
消えたTofinoの残響 Intel IPU E2200がつなぐイーサネットの未来 -
第847回
PC
国産プロセッサーのPEZY-SC4sが消費電力わずか212Wで高効率99.2%を記録! 次世代省電力チップの決定版に王手 -
第846回
PC
Eコア288基の次世代Xeon「Clearwater Forest」に見る効率設計の極意 インテル CPUロードマップ -
第845回
PC
最大256MB共有キャッシュ対応で大規模処理も快適! Cuzcoが実現する高性能・拡張自在なRISC-Vプロセッサーの秘密 -
第844回
PC
耐量子暗号対応でセキュリティ強化! IBMのPower11が叶えた高信頼性と高速AI推論 -
第843回
PC
NVIDIAとインテルの協業発表によりGB10のCPUをx86に置き換えた新世代AIチップが登場する? -
第842回
PC
双方向8Tbps伝送の次世代光インターコネクト! AyarLabsのTeraPHYがもたらす革新的光通信の詳細 - この連載の一覧へ











