トレンドマイクロは5月27日、オンラインで2020年度の事業戦略発表会を開催した。ビデオメッセージで登壇したエバ・チェンCEOはトレンドマイクロのコロナ対応とニューノーマルの世界への取り組みを披露。また、取締役副社長の大三川彰彦氏は来るべき「本格的なリモートマネジメント」の時代に向けた3つの重点施策を説明した。
急変する社会に対応してスピーディに製品を投入する
冒頭、ビデオメッセージで登場した代表取締役社長兼CEOのエバ・チェン氏は、コロナウイルス感染拡大時の同社の対応と従業員への指示、また外部の医療従事者などへの支援活動について説明した。
同社の従業員は、地方政府が規制する前からいち早く海外渡航の禁止、在宅勤務に移行した。その後の長引く在宅勤務に不安を募らせる従業員に対し、チェン氏は「同社は十分な現金を保有しており、1日約200万米ドルの運営コストを払い続けても2年間は会社を存続できる」というCFOのコメントを示し、安心させたという。
社外に対する活動では、世界各地の従業員にマスクや防護服などを送り、彼らが現地の医療従事者に届ける支援活動を行なった。また、従業員による寄付を受け付け、その10倍の金額を会社が上乗せする「Give and Match Program」も実施中で、現在までに50万米ドルを寄付している。
チェン氏は、コロナを機に自社の存在意義について自ら問い直したという。
「トレンドマイクロは創業以来、デジタルインフォメーションを安全に交換できる世界を目指して活動してきた。その目的は、コロナウイルスの感染拡大で一層重要度を増している。急変するビジネスインフラのセキュリティ対策が求められる一方、コロナに乗じた犯罪や攻撃が急増している。我々はサイバーセキュリティの専門家として使命を果たしていく」
コロナ後の「ニューノーマル」の世界においては、「よりシームレスに、どこからでも重要な情報につながることができる社会になる」として、新しい脅威から情報を保護することが非常に重要になると指摘、とくにクラウドセキュリティに関してこれまで進めてきた取り組みをさらに強化していくことを表明した。
またチェン氏は、顧客志向をさらに強化するため、突如として変化するセキュリティ環境に対応したスピーディな製品の導入と、スムーズな運用の両立が欠かせないとし、製品開発においてDevOpsへの取り組みに力を入れると表明した。
日本市場のDXに欠かせないクラウドセキュリティ
続いて、取締役副社長の大三川彰彦氏が、日本市場のビジネス戦略について説明した。
大三川氏は、コロナ後の日本のビジネス環境は本格的なリモートマネジメント時代が来る、という見通しを示し、日本市場のビジネス戦略として「クラウドセキュリティの拡張」「従来製品のSaaSモデルへの移行とリモート監視ツールの強化」「IoTセキュリティ」という3つの重点テーマを挙げた。
クラウドセキュリティでは、「Trend Micro Cloud One」を6月より順次販売開始する。これは企業のシステムがマルチクラウドに分散するストレージ、コンテナやサーバレスなどオープンソースの開発環境、仮想マシンなど、さまざまなITの組み合わせによって複雑化している問題に対応するソリューションだ。複雑な環境下でもセキュリティ運用を統合、可視化し、世界各国の安全規格に適合するための監査や統制をはかることができる。
従来からのエンドポイント保護やメールセキュリティなど企業向けセキュリティ製品のSaaSへの移行も強化する。SaaS化によって、従来のオンプレミス製品ではオンサイトでの対応が必要だったメンテナンスや更新作業を完全リモートで実現し、コスト削減もできる。同時にセキュリティ管理者が出社できないときでも遠隔で行えるメリットがある。「テレワークだけでなく、あらゆる分野の『リモートビジネス』がコロナ後のキーワードだ。セキュリティ運用もリモートがデファクトになる」(大三川氏)
また、エンドポイントやメール、サーバーセキュリティなど複数のSaaS製品のログをクラウド上に集めることで、さまざまな接点からの脅威情報を一元化することができる。同社ではこの仕組みを「Trend Micro XDR」と呼んでいる。
「検知ポイントを増やしただけではアラートの数も増えて、それを処理する管理者の負担が重くなる。そこでクラウド上に集めたログは当社の脅威インテリジェンスである『Smart Protection Network』のデータを元に分析し、可視化することで、本当に脅威となる情報だけに絞り込んで管理者に渡す。そうすることで、迅速な対処が可能になる。30年の歴史を持つセキュリティ企業としての実績が生かされる」(大三川氏)
IoT領域に関しては、個人向けのネットセキュリティ、コネクテッドカー、そしてスマートファクトリーの3分野に注力する。個人向けには通信事業者などと提携し、ホームセキュリティ、PCやネット端末向けの「ウィルスバスタークラウド」製品を連携したマネージドサービスを提供する基盤を作る。
スマートファクトリー向けには、工場の機器の運用管理(OT)を行うベンダーともパートナーシップを結ぶ。ITとOTの両面で実施する多層セキュリティ対策と、同社の脅威インテリジェンスを組み合わせた運用で工場の安定稼働を実現する。「トレンドマイクロはセキュリティ技術と脅威インテリジェンスを提供し、後方から支援する役割。セキュリティ運用管理はOTに強い専門のサービスプロバイダーに任せる」(大三川氏)
また大三川氏は、コロナによる在宅勤務で「自宅のネット環境が企業のセキュリティリスクに浮上している」点を指摘し、「対策として『ウイルスバスター for Home Network』という製品を一時的に使う方法もあるが、ビジネス利用を完全には満たしていない。リモートビジネス時代に対応した新しい製品が必要だという認識は持っており、社内で開発に着手したところだ」と述べた。