新CEOコーミア氏と前CEOのホワイトハースト氏が語る、「Red Hat Summit 2020」基調講演
Red Hat、IBMとのタッグで「オープンハイブリッドクラウド」推進
2020年05月11日 07時00分更新
米Red Hatは2020年4月28日、年次イベント「Red Hat Summit 2020 Virtual Experience」を開催した。初めてのオンライン開催となり、最終的に3万人以上が参加登録したという同イベントは、4月6日付でRed Hatのプレジデント兼最高経営責任者(CEO)に就任したばかりのポール・コーミア氏と、IBMのプレジデントとなったRed Hatの前CEO、ジム・ホワイトハースト氏の対談で幕を開けた。
コーミア氏は2001年の入社以降、サブスクリプションモデルビジネスの確立、企業向けLinux「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」販売戦略およびオープンハイブリッドクラウド戦略の推進、戦略的買収など辣腕を奮ってきたエンジニア上がりの功績者。「Red Hatに来て19年目にして、まったく新たな仕事を手に入れた」と微笑んだ。
IBMによるRed Hatの買収は2019年7月に完了した。それ以後、初めてとなる今年のRed Hat Summitでは、当然ながらRed HatとIBMの関係性が注目された。
ホワイトハースト氏は、IBMのクラウド&コグニティブソフトウェア事業の独立部門となるRed Hatについて、オープンなコミュニティ構築やテクノロジー発展に寄与してきたRed Hatが“OSSの流儀と精神”を貫き、発展し続けるためには、「IBMのビジネスに縛られることなく、IBMの競合他社とも中立的な立場で事業を推進することが重要」だと断言。そのうえで、「オープンハイブリッドクラウド」というビジョンのもと、IBMが持つAIや高度分析といった革新的なテクノロジーやポートフォリオによって、さまざまなイノベーションを包容し育てるRed Hatの強みを増幅し、「両社のタッグによって最大の価値を顧客企業に提供できる」と強調した。
さらにIBMの顧客は、新たな価値創造に向けてレガシーシステムをクラウドに移行したいと考えており、他方で新しいテクノロジーやイノベーションを享受できる基盤を求めているとして、Red Hatのコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift」やRHELをベースとしたオープンハイブリッドクラウドがそうした課題を解決すると述べた。
一方で、コーミア氏はオープンハイブリッドクラウドについて「あらゆるアーキテクチャが向かうべき未来」だと語る。Red HatとOSSの歴史を振り返りながら、「オープン」はコミュニティに協力/貢献しながら課題に対する最善のコード/ソリューションを構築すること、「ハイブリッド」はマルチクラウド間で共通する開発/運用環境や自動化、セキュリティの仕組みを実現すること、そして「クラウド」はビジネスの変化に即応して自在にアプリケーションを移動でき、一貫したエクスペリエンスと操作性、セキュリティを提供するものだと説明した。
そのうえで、オープンソースの隆盛と流行に便乗し、オープンコアやオープンコンポーネントといったものを“オープンソース”とうたうベンダーに対しては、プロプライエタリな環境の枠に押し込めるのはオープンとは言えないと苦言を呈する。オープンソースは、コミュニティ主導でテクノロジーの進化を支え、一社だけが権利を持つような独占性を排してこそ生み出されるものだと強調する。Red Hatは、すでに20年以上にわたってLinuxのアップストリームプロジェクトにフルコミットし、すでに1700社以上が利用するOpenShiftでもKubernetesコミュニティに深く携わるなど、“オープンソースの流儀”を貫いてきたことへの自負と優位性を示した。
「OpenShift Virtualization」発表ほか、COVID-19支援策を発表
本イベントで発表されたテクノロジーアップデートは、大きく3つだ。1つは、コンテナプラットフォーム最新版「Red Hat OpenShift 4.4」の提供開始。OpenShift 4.4はKubernetes 1.17バージョンがベースで、CI/CDパイプライン対応、HAProxy 2.0やDNSのサポートなどが含まれる。
2つめは、Kubernetes対応のハイブリッドクラウド管理ツール「Red Hat Advanced Cluster Management for Kubernetes」の提供開始である。KubernetesクラスターとOpenShiftクラスターのマルチクラスターのライフサイクルを管理できるほか、ポリシーベースのGRC(ガバナンス/リスク/コンプライアンス)適用やアプリケーションのデプロイ管理などを実現する。
3つめは、「OpenShift Virtualization」だ。アップストリームプロジェクトであるKubeVirtの機能群で、仮想マシンをLinuxコンテナ/オブジェクトとして扱うことで、OpenShift上でネイティブ実行可能にする。「これはインフラ仮想化の未来そのものだ」と説明する製品・技術担当上級副社長のマット・ヒックス(Matt Hicks)氏は、OpenShift上にネイティブ統合することでライセンス費用削減の効果も期待できると説明した。
そのほかに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴いビジネス活動に影響が出ている顧客の状況をふまえ、Red Hatポートフォリオの製品ライフサイクル延長や、新規顧客向けのTechnical Account Managementサービスの5割ディスカウントを発表。さらに顧客以外に対しても、SkillsBuild.orgと共同で一時解雇者や求職者向けに「Red Hat Certified System Administrator(RHCSA) Linuxラーニングパス」を無償提供するほか、無償オンライントレーニングコースの公開を発表。すでに4月時点で50万件を超えるトレーニングを実施しており、「LinuxやAnsible、Kubernetesなど、現在市場で求められるテクノロジースキルを身につけるチャンス」とヒックス氏は述べた。
なお、テクノロジーアップデートの詳細は、あらためて続報記事でご紹介する予定だ。