業務改善に効く最新ビジネスクラウド活用術 第30回
ビジネスチャットと違う「ゆるいつながり」を持ち込める
オフィスにいる感覚を再現する仮想オフィス「Remotty」
2020年05月22日 09時00分更新
新型コロナウィルスの影響で、リモートワークが大流行。とは言え、いきなり自宅での作業で切り替わったことで、経営者も従業員も戸惑っているという声も聞く。特に、1人で働いているという孤独感や、雑談もできないというコミュニケーション不足は問題だ。そんな課題を解決するのが、すでに8年にわたってリモートワークを実践しているソニックガーデンの「Remotty」。今回は「リモートワークのための仮想オフィス」を謳っている、一風変わったビジネスツールについて紹介しよう。
挨拶や声かけといったオープンで同期的なコミュニケーションを実現
「Remotty」(https://www.remotty.net/)の開発・販売をしているソニックガーデンは、「納品のない受託開発」や「リモートチームでうまくいく」などの書籍で有名な倉貫義人氏が立ち上げたソフトウェア開発会社だ。
ソニックガーデンの社員は42名(2020年5月7日現在)だが、なんと8年前から全員がリモートワークで働いている。それ以前は渋谷にオフィスを構えており、当たり前のようにみんな通勤する普通のスタイルだった。そんな中、1人の社員が海外で働きたいという要望を出した。当時は社員数は5名ほどだったので、1人が辞めると影響が大きかった。本人も仕事を辞めたいわけではなかったので、場所は好きにしてもらって、仕事を継続して続けられる形を整えようということで、リモートワークの取り組みが始まったという。
そんなリモートワークに関する豊富な知見を活かし、同社は3つの事業を展開している。1つ目は、リモートワーク専門のWebメディア「Remote Work Labo」(https://www.remotework-labo.jp/)で、リモートワークのノウハウや導入事例などを紹介している。2つ目が、「新型コロナウィルスの影響で突然リモートワークを導入したい」といった企業の支援事業で、3つ目が今回紹介するRemottyだ。
Remottyはリモートワークで必要にかられてソニックガーデンが作ったツールだ。少人数で働いていて、リモートワークをしている人がひとりふたりであれば、ZoomやSkypeでつなぎっぱなしにすれば、顔を見て仕事をできる。しかし、リモートワークをする人が増えてくると厳しくなってきたため、Slackなどのビジネスチャットツールを試すことになった。ただ、チャットだと「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」といったコミュニケーションは取れるのだが、それ以外の雑談や軽い声かけ、相談などがやりにくく、一緒に働いているという感覚が薄れるという課題が出た。そこで、チャットツールとは異なるコンセプトで「Remotty」を作ることになったという。
ソニックガーデンの野本氏は「コミュニケーションに関しては、リモートとオフィスで、なるべく状態を揃えて上げることが大事です。あの人はリモートワークしているから、顔が見えなくても仕方がないよね、という風に諦めてしまうと、オフィスとリモートの差が生まれてしまって、コミュニケーションがうまくいきにくいのです」と語る。
実際、オフィスをデジタル化して、同期的/非同期的、クローズド/オープンの4象限を図にしてビジネスツールを割り当ててみると、クローズドで同期的ならSkypeやZoomといったオンライン会議ツール、クローズドで非同期ならメールやSlackといったチャットツール、オープンで非同期ならSharePointといった社内ポータルが向いている。しかし、オープンで同期的なサービスの領域には、ほとんどビジネスツールがない。「そのため、4つの場所で行っていたコミュニケーションを3つで無理矢理行うと、歪みが生まれてしまうのです」と野本氏は指摘する。
もちろん、「利用しているビジネスチャットで雑談スレッドを作ればいいのでは?」という声もあるという。しかし、投稿すると全員に通知が飛んでしまうので気軽につぶやくことができないとか、相談事が1対1のプライベートになって周囲から見えないというネックがある。「Remottyは挨拶とか雑談を行なうツールなので、感覚としてはオフィスの代わり。勤務中はオフィスにいようがリモートワークだろうが、みんなが入って、仕事をする場所で。ビジネスチャットとは、そもそもコミュニケーションの場所が違うので共存する形になります」(野本氏)
ゆるいコミュニケーションの余地があることがメリット
さっそく試用してみよう。まず管理者から招待のメールを受け取ったら、まずはパスワードと名前、自分の画像を登録する。そのアカウントでRemottyのサービスページ(https://app.remotty.net/)にログインする。
画面はシンプルで、働いている人の画像が並び、左下にはメッセージを入力するフォームがある。右側には、チャットのようにつぶやいた内容が表示されている。
ブラウザにカメラへのアクセスを許可すると、自分の顔のサムネイルが表示される。これは2分おきに撮影される仕組みだ。動画ではないし、音声も通知されない。
試しに挨拶すると、右側に表示された。みんなも投稿し、まさにチャットツールのよう。Remottyらしいのが、セミクローズドな会話をできる点。自分のサムネイルの下には、小さなアイコンが表示されている。これが、今いる場所。通常は自分のサムネイル、つまり机になるが、他の人のところをクリックすると、その人のところにアイコンが移動する。この状況だと、その人とプライベートメッセージをやりとりできるのだ。
入力フォームの上に履歴の一覧が表示され、こちらもチャットルームのようだ。面白いのは、このメッセージも右側の全体に流れる一覧に表示されるのだ。これは、リアルなオフィスでも、隣の机での会話は聞こえるのと同じ思想。他の人がどんな会話をしているのかがおぼろげに把握できるのがリアルっぽい。
もちろん、他の作業をしていて、Remottyで話しかけられているのに気がつかないということもある。そんな時は、「トントン」とサウンドを鳴らす機能もあるので利用しよう。
相手の名前の横にある「プライベートメッセージ」をクリックすると、別ウィンドウが立ち上がり、プライベートなコミュニケーションができる。ここでの会話は他の所には表示されないので、秘密の話をする際に利用できる。
ビデオアイコンをクリックすると、ZoomやGoogle Meet、wherebyといったビデオ会議のURLを入力し、履歴から起動することも可能だ。
ビジネスチャットとは違う価値を評価できるかどうか
Remottyをしばらく使ってみたのだが、ビジネスチャットツールではない、ということに気がつくのに時間がかかった。せっかくの新サービスなので、Remottyで仕事の話をしたりしたのだが、検索できないし、ストックされないのでトラブルの元になる。Remottyでは、挨拶や雑談、声かけ、ストックする必要のない相談といった内容に適しているのだ。本格的なビジネスチャットツールやメール、ポータルサイトではやりにくい、「おはようございます」といった挨拶も、Remottyならぴったりだ。
2分おきに撮影され、サムネイルに表示されるのもあまり意識しなくていい。試用していた時、ある編集者が「○○なので離席します」なんて投稿していたが、そんな必要もなく、リアルなオフィスのように自由に動けばいい。相手の机に行って会話する機能も、プライベートメッセージも、業務で利用しているビジネスチャットやグループウェアとは内容をかぶらせないのが大前提だ。そうしないと、ツールの分散につながったり、余計な心理的負担を抱えかねない。空気のようにブラウザの1画面で立ち上げておくのが、いい感じだ。カメラの前で気を抜いても、撮影は2分に1度だし、画像は小さいし、音声は流れないので、そのうち気にならなくなる。
Remottyは監視ツールとしては作られていない。しかし、企業の経営者なら、「いきなりリモートワークに移行して大丈夫なのか? 遊んでないか?」というのは気になるところ。オフィスを見渡してみんないるな、と感じるように、Remottyでみんなの顔を見て安心するのもありだろう。もちろん、PCに向かってさぼっている可能性はあるが、それはリアルなオフィスでも同じことだ。
今回、サービスのコンセプトを伺い、使ってみるまで、どのように活用するのかがイメージしにくかった。でも、試用している中で、オフィス内でのゆるいつながりをリモートワークに持ち込めるのが、メリットなのだなとわかりはじめた。そのため、一般的なSaaSのように、Remottyでは無料アカウントを自動で配布するようなことはしていない。まずは、問い合わせをして、無料の初回相談とトライアルという流れになる。これは、まずサービスのコンセプトを理解してもらう必要があるため。単なるチャットサービスだと思い込まれると、フィットしないからだ。
利用料金はオフィスの坪数をイメージしており、10名までが2万円/月で、20名までが4万円/月。50名以上は応問い合わせになるという。リモートワーク需要の高まりで、Remottyへの問い合わせも急増しているようだ。リモートワークを導入する際、コミュニケーションに課題を感じたなら、原因を分析してみよう。そして、オープンで同期的なコミュニケーションが欠けているなと感じたら、Remottyの導入を検討してみよう。
この連載の記事
-
第44回
Team Leaders
従業員エンゲージメントを重視した社内SNSツール「TUNAG」を使ってみた -
第43回
Team Leaders
超簡単にプロフェッショナルなデザインを作成できる「Canva」 -
第42回
Team Leaders
さまざまなSaaSと連携し、データを集約する業務システムを構築できる「Yoom」 -
第41回
Team Leaders
「Notion AI」で文書の要約やアイデア出し、情報収集が爆速化する -
第40回
Team Leaders
LINE AiCallを使った「AIレセプション」を飲食店の予約に導入してみた -
第39回
Team Leaders
ビジネスでのタクシー利用を効率的に管理!「GO BUSINESS」を試してみた -
第38回
Team Leaders
工場や飲食、物流の現場にあふれる紙のチェックリストやレポートをデジタル化する「カミナシ」 -
第37回
Team Leaders
チームでの情報共有に効く国産のオンラインホワイトボード「Strap」 -
第36回
Team Leaders
高機能オンラインホワイトボードサービス「Miro」の使い方 -
第35回
デジタル
Dropbox Paperはチーム共有のドキュメント作成・管理に便利 -
第34回
デジタル
Dropbox Buisinessとウェブサービスを連携させて超絶便利に使いこなす技 - この連載の一覧へ