IPv6インターネットの世界を拡げる縁の下の力持ち
JPNEのエンジニア社長石田慶樹氏に聞いた「v6プラス」に至る道
IPv4アドレスが枯渇しなかった結果として生まれたv6プラス
大谷:2010年にIPv6のVNEとしての事業がスタートするわけですが、立ち上がりはどうでしたか?
石田:実は業界含めて、当初は低迷します。もともとの建て付けが「IPv4が枯渇してしまうので、みんなIPv6に移行する」という前提で事業がスタートしたのですが、ご存じの通り、アドレス変換の技術によってIPv4が延命してしまいました。だから、IPv6だけのサービスの卸売りは事業的に厳しかったんです。
そこで延命しているIPv4をIPv6上で提供するIPv4 over IPv6を始めました。この仕組みが「v6プラス」になります。つまり、ISPはv6プラスを使っていただければ、IPv4もIPv6も両方とも扱えることになります。これにより、徐々にビジネスが伸びてきたという背景があります。
大谷:v6プラスというと、IPv4に加えてIPv6が使えるようなイメージがありますが、実際はIPv6に加えてIPv4が使えるサービスなんですね。
石田:はい。たとえば、VNEの仲間であるインターネットマルチフィードやBBIXもADSLから光回線への移行などを見据えて、いろいろなやり方でIPv4 over IPv6を展開しています。
大谷:では御社のエントランスにあるようなブロードバンドルーターは、そのv6プラスに対応しているということなんですね。
石田:現状多くの事業者でMAP-Eという方式を採用しているのですが、それぞれ中身は少しずつ異なります。また、MAP-Eだけではなく、コンフィグを流し込むためのプロビジョンの方式もv6プラス独自のものになります。ですから、それらをNDAベースでベンダーに開示して、対応ルーターを作ってもらい、うちで動作確認しています。
サービス提供側にとってもメリットの大きなIPv6
大谷:サービス開始から10年経って、どうなりましたか?
石田:はい。各社とも加入者数は明らかにしていないのですが、NTT-NGNにおけるアクセス網のIPv6化率だけを見れば、PPPoE・IPoEあわせて7割を超えています。それ以外のFTTHサービス、具体的にはKDDIの「auひかり」、オプテージの「eo光」、中部テレコミュニケーション「コミュファ光」などは、エンドユーザーも意識することなく、IPv6で接続されています。
FTTHに関しては大手はほぼIPv6に対応しているし、ケーブルテレビ事業者やモバイル事業者も徐々にではありますがIPv6対応が進んでいます。
大谷:気がつかないうちにIPv6化は進んでいるのですね。
石田:実はNTT-NGNに関して言うと普及が加速したのは2015年に登場したコラボ光のおかげです。フレッツ光とスマホサービスがバンドルできるコラボ光が、NTTドコモとソフトバンクのショップでスマホといっしょに売れるようになったので、FTTHの切り替えとIPv6への移行が一気に進んだのです。
大谷:こうしたIPv6インターネットで利用されているアプリケーションはどんなものなんでしょうか?
石田:IPv6のトラフィックのほとんどはいわゆるGAFA系。Googleは積極的にIPv6対応したこともあり、ボリュームとして一番大きいのはYouTubeです。新しいWebサービスを構築・運用する会社も、(IPv6対応が進んでいる)AWSやAzure、GCPを用いるので、IPv6レディと言えます。
逆に送信元に対して、それら以外の宛先すなわちコンテンツ側はまだまだIPv4が多いというのが実態です。歴史のあるWebサービスやコンテンツ事業者は、ユーザー認証や広告配信システムなどを作り替えなければならないので、なかなかIPv6をオンにしてくれません。今や自分たちのテクノロジーに連綿とこだわっている企業・組織がIPv6移行のボトルネックとなっている印象です。
大谷:IPv6の話って、必ず「これから普及するんでしょうか?」という話になるのですが、長らく業界にいる石田さんから見ていかがでしょうか?
石田:正直、IPv4のクオリティは落ちています。われわれが観測した限り、混雑時に性能が落ちるのはIPv4の方で、IPv6の方が安定したパフォーマンスが出ていると言えます。今後、レイテンシ(遅延)の観点で見たら、やはりIPv6の方が有利と評価された段階で、IPv6に一気に移行すると思います。
希少価値の高いIPv4アドレスは一時期価格も上がっていましたが、もはや値段はそれほど上がっていません。需要がそもそも減っているのではないかという印象です。
大谷:おもに性能面でIPv4の課題が大きくなっているのですね。
石田:今後、IPv6でしかサービスしないというニューカマーも登場するのではないかと考えています。ノウハウがないという点では確かにIPv6は弱いですが、IPv6の方がよい点はいっぱいあります。なにしろアドレス数が豊富なので、複数のサービスを統合する際にプライベートアドレスが衝突してしまうみたいな問題もないですし、アドレス変換がない分、ゲームやストリーミングはIPv6の方がオーバーヘッドが小さいです。(物理ネットワーク技術である)5Gとは関係ないですが、低遅延は今後大きなキーワードになります。
特にIPv6は大規模になればなるほどメリットが出ます。実際、FacebookではIPv6バックボーンを構築していて、IPv4はもはやエッジのみです。非常に合理的なネットワーク設計だと思います。
大谷:今後の展開についてお聞かせください。
石田:先ほどNTT-NGNの7割はIPv6対応という話をしましたが、逆に言えばまだ3割はIPv6は使えない。レイトマジョリティを抑えつつ、もっとラガード(遅滞層)にもアプローチしていきたいです。
(提供:日本ネットワークイネイブラー)
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