IPv6 IPoE 10周年記念ミーティングでBBIX福智道一氏が講演
10年で30倍に増えるトラフィック 「分散化」実現にIPoEの価値
2021年12月3日、一般社団法人IPoE協議会が開催した「IPv6 IPoE 10周年記念ミーティング~IPoE温故知新~」において、CDNとIPoEの共存について講演したのがBBIXの専務取締役 兼 COO である福智 道一氏になる。コロナ禍で一気に伸び、今後も急増していくトラフィック増についてデータを披露し、分散化という現実解に向けた持論を披露した。
30倍増えるって、「それ、まじで言ってます?」
普段自社のユーザー会で講演会場を使っていることもあり、リラックスした雰囲気で講演をスタートしたBBIXの福智氏。冒頭、講演の依頼メールを紹介した福智氏は、「どう考えても、僕がやってもいいのかな? そんなCDNに詳しくないしなという感じだった」「IX事業者としてはCDNのお客さまにつないでもらっているが、本音を言えばJPNAPさんの方が得意なのではないか」といろいろコメントする。ただ、最終的には「返事は『ハイ』か、『YES』しかなかった(笑)」という経緯で講演を引き受けたという。
そんな福智氏がまず説明したのは、「これまでと現在のインターネットに関わる事実」だ。2019~2020年の国内のトラフィックを調べると、在宅時間が増えたことで、コロナ禍前に比べて固定通信は約2倍、移動通信も約1.3倍増えているという(総務省調べ)。さらに、総務省はデジタルインフラ整備に関する有識者会議の資料を見ると、今後10年で約30倍以上になると見込んでいるという。「今だいたい24Tbpsじゃないですか。これが10年で30倍になるので、720Tbpsです。それ、まじで言ってます? 勘弁してくださいよ。これが正直な感想」と福智氏は吐露する。
続いて出してきたのが、2012年のNANOG55で使われた「ムーアの法則とネットワーク」という資料。これはアリスタ(当時)にいたアンドリアス氏が提唱したもので、ムーアの法則においてCPUは18ヶ月~24ヶ月で処理能力がほぼ倍になるが、ネットワークの伝送帯域は一桁上がるのに12年かかるという内容。トラフィックをさばくプロセッサと、データを伝送するネットワークの処理能力には大きなギャップが存在しているわけだ。
10年経った現在、確かに100Gbps Ethernetは以前に比べたらコモディティ化してきた。しかし、ここまで来るのにやはり9年近くかかっているという。一方で、CPUはどんどんパフォーマンスを上げており、差は広がる一方。「このギャップ、本当にどうしましょう?という話です。この中でも答えを出せる人はなかなかいないと思う」と福智氏は指摘。その上で、「やっぱり分散しかないよね」と会場に問いかける。
すでに二極化していた日本のインターネット もっと分散を
続いて、福智氏が披露した資料は、ピアリングDBから集計したIXのキャパシティランキング(昨年)。アジアパシフィックエリアで見ると、1位はエクイニクスのシンガポールIXで、2位が福智氏の所属するBBIXの東京IXになる。ちなみに3位がJPNAP、4位がJPIX。都市で見ると、東京は全体では5位、アジアではもっともトラフィックが多く、シンガポールや香港をしのぐ。
東京、シンガポール、香港の3都市はコロナ禍を経て2~3倍以上の伸び率を示しているが、注目したいのはアジア4位につけた大阪。4倍近い伸び率が圧倒的で、シカゴやダラスなど北米の有数な都市のIXよりも大きいという。確かに近年、大阪はデータセンターラッシュで、クラウド事業者の拠点もどんどん増えている。「これまで日本のインターネットは東京一極集中と言われてきたが、東京と大阪の二極化になっていた」と福智氏は指摘する。
しかし、「二極化でいいかと言うと、先ほどのトラフィックの伸びからしても、そういう訳にはいかない。まだまだ分散しなければならない」と福智氏は語る。実際、IX事業者の地方進出は進んでおり、特に仙台と福岡、沖縄などには各IX事業者の拠点が設立されつつある。各IXの接続事業者を見るのが趣味という福智氏は、「徐々にコンテンツやCDNの分散が進んでいる。ここにもコンテンツやCDNをお持ちの事業者がここにいらっしゃったら、ぜひ来てください」と語る。
IXが地方展開すると、九州であれば福岡、東北であれば仙台といった具合にトラフィックが折り返されるので、地域内で通信が完結する。また、今までCDN事業者のキャッシュサーバーは大きなISPのネットワーク内に設置されてきたが、IXの地方展開することでCDNの分散も進むと福智氏は語った。