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世界ではサイエンスレベルが高いほどEXIT確率が高い 国内アカデミアに求められるサイエンスが強くあり続けるという根本

UTEC(ユーテック)-株式会社東京大学エッジキャピタル/株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ-代表取締役社長 郷治 友孝氏インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」(外部リンクhttps://ipbase.go.jp/)に掲載されている記事の転載です。


株式会社東京大学エッジキャピタル及び株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ(総称してUTEC)代表取締役社長/マネージングパートナー 郷治 友孝氏
 1996年、東京大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省。日本のベンチャーキャピタルファンドの根拠法となる『投資事業有限責任組合法』(1998年制定)や中小企業の研究開発から事業化までを支援する日本版SBIR制度(1999年制定)を起草し、文化庁出向、スタンフォード大学留学(経営学修士(MBA)課程修了)、金融庁出向を経て、2004年4月UTEC共同創業、経済産業省退官。2016年からは東京大学大学院工学系研究科博士課程(技術経営戦略学専攻)にてデータサイエンスを研究し、大学関連スタートアップの成功とその要因の推測・分析で博士(工学)号を取得。日本スタンフォード協会理事、日本ベンチャーキャピタル協会常務理事を務める。

サイエンス・テクノロジーを基軸に資本と経営をパッケージで支援

 UTECは、大学や研究機関の優れたサイエンス・テクノロジーの事業化を目的として2004年に設立。大学改革が始まった2003年当時、東京大学ではベンチャー支援の体制づくりを検討していた。郷治氏は、自らが経済産業省で創案した『投資事業有限責任組合法』を実践するために退官し、UTECの創業に加わる。以来、大学発ベンチャー・スタートアップへの投資育成戦略の立案、4本のファンドの設立・運営を手掛けている。ファンドは総額約543億円を集め、100社以上に投資をし、うち11社がIPO、11社がM&Aに成功している。

 投資先には、資金だけでなく経営人材も提供。UTECのチームには、データサイエンティスト、コーディングのエンジニア、弁理士を採用し、投資先へのサポート体制を整えている。

「サイエンスのレベルが世界的に高くないばかりか、経営知識すら不足した研究者が会社を起業し、失敗したケースを数多く見てきました。特に、知財は後戻りできません。そこで、データサイエンスをもとに起業に有望な研究テーマや研究者の予測を立て、起業前から手を打つことが大事と考えるようになりました」(郷治氏)

 2016年からは郷治氏自らデータサイエンスを学ぶために大学院に入り、2020年に博士(工学)の学位を取得。博士論文「大学研究者の起業態勢の評価手法に関する研究」では、バイオ医学分野における大学研究者を客観的に評価するための実用的な手法を提案している。

 研究によれば、大学発スタートアップでは参加する研究者の論文や特許の重要性が高いほど、IPOまたはM&AでEXITする成功可能性が高く、この評価手法を用いることで、投資や経営、政策立案などに役立てられるという。

 UTECは、投資先の成功確率を高めるため、投資対象を東京大学発に限らず、国内外の大学や研究機関の研究成果も対象としている。また、投資先を他の大学や研究機関の研究者とつなぎ、共同で事業化を進めることも少なくない。

 例えば、千葉大学発のドローンスタートアップ「自律制御システム研究所(ACSL)」への投資においては、戦略コンサルティングファーム出身の経営チームと東京大学の研究者らを引き合わせた。「一大学の研究室だけの成果では限界があります。複数の組織や研究機関の優れた人材や成果を組み合わせることで、より価値の高い製品や事業を作ることができ、会社はより強くなります」と郷治氏は強調する。

研究者が研究に専念できるように設立前の人材からサポート

 UTECでは、会社設立前の事業計画・資本政策の段階から創業者や研究者に関与し、知財については東京大学TLOなどと連携しつつ、弁理士や知財専門家も紹介して戦略的なIP構築ができるようにサポートをしている。

「最初からグローバルを意識して知財を構築していくことが大切です。もちろん、何でも知財化すればいいわけではなく、レベルの高いサイエンスがあってこそ。サイエンスの強さやアプリケーションに応じて適切に知財化していくことが大事です」(郷治氏)

 経営や知財の人材面を含めたサポート体制は、研究者が本来の研究に専念できるようにするためでもある。サイエンスが世界レベルでない中で研究者が起業し、経営に時間を取られてしまうと、研究も事業も中途半端になってしまう。

 「大学発ベンチャーを推進する風潮がある一方で、研究がおろそかになっているのは本末転倒です。十分に研究を掘り下げて、その中から適切に知財を獲得・構築することを地道に繰り返して成功事例をつくっていくことが、持続的なベンチャー創出につながると考えています」

 とはいえ経験豊富な専門家にとっては、いきなりベンチャーやスタートアップに転職するのはリスクが高い。UTECが2018年からスタートした「ベンチャーパートナー制度」は、UTECに在籍するプロフェッショナル人材を投資先ベンチャーに派遣して、内部からサポートする制度だ。現在、ヘルスケア・AI・ケミカルなどの業界経験者や、知財・会計・法務・人事・M&Aなどの専門家が在籍しているそうだ。

 また、プロフェッショナル人材とのネットワーキングの場として完全招待制のコミュニティー「UTEC Startup Opportunity Club(SOC)」を新たに開始。個別のコミュニケーションに加え、四半期に1度以上のペースでイベントを開催していく予定だという。

大学の研究・知財は、刈り取っておしまいにしてはいけない

  東京大学の研究室から生まれた発明を特許出願する場合、基本的には東京大学が自大学の帰属にするかどうかを優先的に決めることができる(機関帰属)。起業後にその知財のライセンスを受けられるかはTLOとの交渉次第だ。

 UTECとTLOとは密に連携しており、研究者が特許出願する前の段階から関わっている際は、研究者によるTLOとの知財化相談やライセンス交渉に協力することもあるそうだ。

 2006年に設立したペプチドリーム株式会社の場合、2005年の5月に研究者が知的財産部へ発明を届け出、6月にはUTECが経営者候補の紹介を始めている。TLO側も、UTECの支援を受けることを見据えて大学への帰属を推薦し、会社設立前に機関帰属をしている。その後、UTECが正式に投資を開始したのは米国での特許が成立した2008年のことだ。人材の紹介などの基礎的な支援をしつつも、投資までは3年近くをかけて、じっくりと事業価値を見極めていることがわかる。

 一般的に、大学の研究室から生まれた発明は大学帰属となることが多いが、起業したばかりのスタートアップにとっての特許ライセンス料の負担は適切な範囲内である必要があるが、大学経営の観点からはあくまでも大学帰属が正しいのではないか、というのが郷治氏の考えだ。

「スタートアップにとっては知財を安く譲受できればありがたいかもしれませんが、大学の研究成果を安く刈り取っておしまい、ということになると、大学から次のシーズが出なくなってしまう。大学側がスタートアップに対して適切な料金でのライセンスをする努力は必要ですが、スタートアップにとっても、将来大学が優れた成果を生み出す基礎研究を続けられるようにする理解を示すべきだと思います」(郷治氏)

 東大と東大発スタートアップとの知財連携は、全国の大学の中でもうまくいっているといえる。郷治氏はその理由として、東大の知財部、TLO、UTECは、いずれもキーパーソンが長くコミットしていることを挙げる。同じ担当者が継続性をもって携わることで深く良い関係性を築きやすく、知識も組織内に蓄積されていく。また、成功事例が蓄積されていることも大きいだろう。

いい研究成果をオープンにつないでいくこと、それが本当のオープンイノベーション

 上述したペプチドリームは代表的な成功事例だ。従来の低分子医薬品の特許が切れ、製薬業界全体がバイオ創薬に舵を切らざるを得ない市場環境の中で、ペプチド創薬も選択肢のひとつとなった。低分子に比べて分子量が大きいため、当初は技術に対して懐疑的な見方が多かったそうだが、英アストラゼネカと契約をきっかけに、次々と製薬会社との交渉が進み、今は世界約20社と取引しているそうだ。

 早期にグローバル展開できたのは、(ペプチドリームを開発した)菅研究室に在籍していた米国人の研究者が米国の製薬業界とつながりがあったことも大きいと郷治氏。欧米企業が求めるデータをわかっていたため、最初からグローバル目線で交渉ができたのではないか、という。

 そもそも米国人の研究者が参加していたのは、菅研究室の研究成果が世界的だったからこそ。UTECが重要な指針とするサイエンスのレベルが高いことは必要条件というわけだ。

 また、東大の知財が他大学発のスタートアップにライセンスされた事例が、北海道大学発ベンチャーの五稜化薬株式会社(https://goryochemical.com/)が開発している、がん部位を蛍光で光らせる薬だ。この蛍光薬には、東大薬学部の浦野研康照研究室が開発した蛍光色素と診断薬の技術を導入しており、東大TLOから特許のライセンスを受けるため、UTECも協力している。

 大学間をまたいで知財を活用できるのは、UTECが東大と関係を持ちつつも、独立した事業体であることの強みだ。

「いい研究成果を持っている大学をオープンにつないでいくこと。それが本当のオープンイノベーションではないでしょうか」(郷治氏)

 投資先は国内の大学に留まらず、北米の大学やインド、シンガポールにも展開している。UTEC4号ファンドの海外投資の半分はインドのスタートアップに向けられており、なかでも有望な投資先の一つがBUGWORKS RESEARCH,INC.(http://bugworksresearch.com/)だ。UTECは2018年から投資をスタート。UTECがつないだ東京工業大学の村上聡教授との協業で、現在の抗生物質が効かない耐性菌に対抗する新しい抗生物質の開発に挑戦しているところだ。

 抗生物質の開発においては日本は歴史的に世界で約3割のシェアを占めてきたが、抗生物質は製薬会社にとってうまみが薄いため、この四半世紀は抗生物質の新薬が生まれていない。問題は、同じ抗生物質を使い続けると、耐性菌が出てくることだ。日本では昨年度の多剤耐性菌による死者数が初めて交通事故死を超え、イギリス政府によると、2050年までには耐性菌の死者ががんの死者を上回るとの予測で、国連や米国政府からも注目されつつあるという。

 日本国内だけで知財を実用化するだけでなく、あえて国の垣根を超えることで、より深刻な課題を抱えている国に日本の知財で貢献できるのは、大学や研究者にとって大きな魅力だろう。

大学から新しいシーズが生まれ続けるために必要なこと

 政府が産学連携による事業創出に力を入れる一方、大学や研究機関が引き続きシーズを生み続けるためには、事業化によって生み出される価値を研究に還流させる仕組みも必要だ。

 「これまでの『産学連携』は、大学が育てた研究成果を『実用化』『商用化』のために刈り取っていく発想が強かったと思います。しかしそれでは大学が痩せてしまいます。大学発のスタートアップが成功することによって、その成果として生まれたお金や知見が大学に還流し、さらに新しい研究がなされ、人材が育ち、新しいシーズが生まれ続けていくような『産学協創』としていかなければなりません」(郷治氏)

 現実に、日本の大学の論文数は減っている。知財の数や大学発スタートアップの数といった『産学連携』のKPI(重要業績指標)によって大学の予算が決まるのは筋違いであると郷治氏は危惧する。

 上述した郷治氏の研究では、世界のアカデミアで伸び始めた研究テーマにおいて、他の論文による引用数が多いなど研究者ネットワークにおける中心的な位置を占め、著した学術論文における責任やイニシアチブが高い研究者ほど、参加するスタートアップがEXITしやすい、という結論が出たそうだ。世界の例を見ても、研究が強い大学ほど成功確率が高い。サイエンスを強くするという大学の基本的な観点が抜けてしまうと、日本の科学技術が衰退するばかりか、世界で活躍する大学発スタートアップも日本から生まれることはないだろう。

 日本では今ある程度、大学発ベンチャーの数が増え、世の中でも認知されるようになってきたが、アカデミアの根源に戻って、大学が世界に通用するサイエンスを開拓し、そのための研究者教育ができなければ続かない。

 そのため郷治氏は最近、研究者と話をする機会には、世界に通用する論文をもっと書くように勧めているそうだ。

「特許を理由に論文を出さないのはもったいない。特許を出したうえで、きちんと論文で価値を訴えてほしい。論文は、サイエンスにおいて最大の宣伝の場。世界的なトップサイエンティストとして注目される研究者こそ、大学発スタートアップにおいても世界を獲りに行けるのです」

 2020年2月、UTECから東京大学基金への寄附によって「UTEC東京大学未来社会共創基金」が設立されたばかりだ。大学の研究者が基礎研究に専念し、論文執筆に取り組めるようにするための基金だという。

 この基金は、若手研究者向けの助成プログラム「UTEC-UTokyo FSI Research Grant Program」を新たに創設し、2020年2月から公募を開始している。プログラムの特徴は、①研究に専念できるよう、助成金受領後の報告書の作成は不要とする、②求める成果を、優れた学術誌への論文投稿とする、③基礎研究を重視し、短期的な実用化や商用化の可能性は求めない――の3点だ。短期的なEXITを求めがちなベンチャーキャピタルが資金を出しそうにない事業であるばかりか、最近の国内大学でも聞かなくなったプログラムとなっている。これは、最近の日本の科学技術政策へのアンチテーゼである、と郷治氏は言う。

「世界で認められる良い論文が出れば、研究者の評価が上がります。その研究者から成果が生まれれば、実用化や商業化などは僕らが資金と経営者を用意して考えますから、まずは研究に専念してほしい」と郷治氏は思いを語った。

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