苦手なコンサルティング能力を強化するため
PwCを買収しようとして失敗
そうして迎えた2000年である。当時のHPは、HP 9000シリーズや、さらにConvexベースのサーバーとPC、プリンター、電卓などを幅広く扱うメーカーになっていたが、ここでIBMや(1998年まで競合相手だった)DECに比べて著しく欠けていたのがコンサルティングの能力だった。
サーバーなりPCなりを売ることはできるのだが、もうこの頃になると顧客の求めているのはサーバーそのものではなく、サーバーを利用して顧客の問題を解決する「ソリューション」になり始めていた。
ところがHPは、一部の業界を除くとこうしたソリューションを提供するのが苦手であり、まずはこれをなんとかする必要があるとFiorina氏は考えた。手っ取り早いのは、こうしたソリューションを考え出せる、コンサルティングファームを買収することである。
かくして、PwC(PricewaterhouseCoopers)を140億ドルで買収することを目論む。当時、手元にはAgilent Technologyの独立にともない大量の売却益が入っており、残りは市場から調達する予定だった。
結果から言えばこの買収は失敗、2年後にIBMがPwCのコンサルティング部門を買収、IBM Business Consulting Serviceが立ち上がる。その意味では、目の付け所は間違ってなかったというべきであろう。
ただHPはPwCを丸ごと買収(PwCがコンサルティング部門を切り出すのは2002年のことだ)しようとしており、これがウォール街(要するにこの買収に際してHPに資金を貸し出すところ)の反応が悪かったために、資金調達そのものが不調に終わった、というのが失敗した理由である。
ちなみに当時の見積りによれば、HPは1999年にサービスで72億ドル、コンサルティングで15億ドルの売上を立てている。同時期にPwCはコンサルティングで80億ドルほどの売上であり、買収に成功すればサービスとコンサルティングで150億ドルを超える売上が立つという見込みであった。
これは、同時期のSun Microsystems(サービス部門の売上が23億ドル)やCOMPAQ(同66億ドル)に比べると膨大ではあるが、IBMの320億ドルの半分でしかない。
それでも半分まで近寄れれば大きな進歩ということだったのだろうが、そのために140億ドルを突っ込むのはリスクが高いと判断されたようだ。ちなみにピークでは180億ドルまで買収金額が跳ね上がっている。
COMPAQを買収し
マーケットシェアを拡大
PwC買収に失敗したHPの目の前に現れたのがCOMPAQである。COMPAQの状況は連載367回で書いたのでご存じの方もおられるかと思う。
おそらくCOMPAQはPCとPCサーバーだけに専念していればまだマシだったのだろうが、当時のCEOだったEckhard Pfeiffer氏がTandemおよびDECを買収したあたりで収拾がつかなくなり、最終的にHPからの買収提案を受けることになる。
この買収、HP側から見るとまた別の風景が見えてくる。まずCOMPAQの本丸であるPCビジネスに関して言えば、HPに比べるとずっと大きなマーケットシェアを取っている。
下表はWikipediaによる1996~2005年のGlobal PC Market Share(出荷台数ベース)で、上段が企業名、下段がマーケットシェア(%)である。
Global PC Market Share | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | |
1996年 | Compaq 10.0% |
IBM 8.6% |
Packard Bell NEC 6.0% |
Apple 5.9% |
HP 4.3% |
|
1997年 | Compaq 13.1% |
IBM 8.6% |
Dell 5.5% |
HP 5.3% |
Packard Bell NEC 5.1% |
|
1998年 | Compaq 13.8% |
IBM 8.2% |
Dell 7.9% |
HP 5.8% |
Packard Bell NEC 4.3% |
|
1999年 | Compaq 13.2% |
Dell 9.8% |
IBM 7.9% |
HP 6.4% |
Packard Bell NEC 5.2% |
|
2000年 | Compaq 12.8% |
Dell 10.8% |
HP 7.6% |
IBM 6.8% |
NEC 4.3% |
|
2001年 | HP 18.4% |
Dell 13.2% |
IBM 6.4% |
NEC 3.8% |
Toshiba 2.8% |
|
2002年 | HP 14.2% |
Dell 13.2% |
IBM 5.2% |
Fujitsu 3.8% |
Toshiba 2.8% |
|
2003年 | Dell 14.9% |
HP 14.6% |
IBM 5.3% |
Fujitsu 3.8% |
Acer 2.9% |
|
2004年 | Dell 16.4% |
HP 14.6% |
Lenovo 6.8% |
Fujitsu 3.8% |
Acer 3.4% |
|
2005年 | Dell 16.8% |
HP 14.6% |
Lenovo 6.9% |
Acer 4.6% |
Toshiba 3.3% |
さて、HPは5~6%をうろうろしていて、これはこれで立派ではあるのだが、トップのCOMPAQは10%超えだからほぼ半分でしかない。これが買収により、2001年は18.4%で堂々トップの座を獲得したわけで、決して無視できない数字である。
加えて言えば、COMPAQの買収までHPはPCサーバーのマーケットに向けた製品を用意できていなかった。COMPAQはいち早くSystemProや、その後継となるProLiantシリーズを投入しており、NetWareやPC UNIX向けマーケットにがっちり食い込み、この後既存のRISCサーバーのマーケットを駆逐していくが、このPCサーバーのマーケット向け製品を買収で丸ごと入手できたのは、非常に大きなメリットであった。
現在もHPEはProLiantという製品ブランドを継続しているあたり、いかにCOMPAQのPCサーバーのラインナップが貴重だったかわかろうというものだ。
この連載の記事
-
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ