前回に引き続き、今回も「東京モーターショー2019」でのお話。未来を謳う「OPEN FUTURE」をテーマとしたように、各社から数多くのモビリティーの未来を提案するコンセプトカーが登場した。その多くはEVであったが、実のところ自動運転を前面に押し出すコンセプトカーは少なかった。
トヨタは社長自らコンセプトカーを紹介
数少ない自動運転コンセプトの筆頭はトヨタの「LQ」となる。これは2017年に発表された「TOYOTA Concept-愛i」の発展形で、レベル4相当の自動運転機能と無人自動バレーパーキングシステムを搭載する4人乗りのEVだ。最大の特徴はAIエージェント「YUI」を採用しているところ。これは会話を中心に人とコミュニケーションを行ない、ドライブルートの提案や車内環境の調整をする。
2020年6~9月に一般向け試乗会「トヨタYUIプロジェクトTOUR 2020」を予定するという。ただし、この「LQ」が展示されたのは、トヨタブースではなく、お台場のMEGA WEBに設定されたFUTURE EXPOの一画。ひっそりと飾られていたという雰囲気であった。
一方で、プレスブリーフィングでトヨタの豊田章男社長が乗車して、華々しく紹介されたのが「e-Palette(東京2020オリンピック・パラリンピック仕様)」だ。こちらは箱型の自動運転のEV。2018年に発表されたコンセプトカーをより進化させたもので、名称のとおり2020年の東京オリンピックでの運用が予定されている。全長5255×全幅2065×全高2760mmで、乗員は20名と言うサイズ感はマイクロバスといったところ。レベル4相当の自動運転は可能だが、オペレーターが同乗しており、万一の時はオペレーターによる緊急ブレーキを作動させるという。また、最高速度は19km/h。ある意味、非常に現実味のあるクルマとなっている。
一方で、同じトヨタから発表された「TOYOTA e-4me」「TOYOTA e-Care」は、まだジャスト・アイデアと言う域のコンセプトカーだ。「TOYOTA e-4me」は、個人向けの小型の箱型自動運転車。乗車中にカラオケルームやジムとして使えるなど、移動中のモビリティーの新しい利用を提案するもの。そして「TOYOTA e-Care」は、診察を受けながら病院へ向かうというモビリティー。これも自動運転車の新しい使い方を提案するコンセプトカーであった。
ダイハツとスズキは
サポートロボット搭載の自動運転車を展示
また、ダイハツとスズキからも箱型の自動運転車のコンセプトカーが登場した。ダイハツは「Ico Ico(イコイコ)」で、スズキは「HANARE(ハナレ)」だ。おもしろいのは、その内容が非常に似通っていることだ。どちらもコンパクトで、会話でサポートする小型ロボットを付随する。ただし、ダイハツが公共交通向けというのに対し、スズキは所有する車両。ライドシェアなのか個人車なのか、という違いがあった。
そして驚きは、自動運転をテーマとしたコンセプトカーがこれで終わりだということ。自動運転を掲げる提案は、トヨタとダイハツ、スズキだけであったのだ。もちろん、どのメーカーも自動運転技術の開発は進めている。特に日産とホンダは熱心だ。しかし、今回のモーターショーには自動運転系の話はなかった。また、トヨタにしてもメインの提案は、箱型の「e-Palette」と、その進化系のようなコンセプト。そしてダイハツとスズキも箱型の自動運転車となる。
つまり、今回のショーで提案されたのは、乗用車系の自動運転ではなく、ほぼ箱型の自動運転車であったのだ。ちなみに、東京モーターショーの期間中にBMWがショーとは別に、レベル4の自動運転車のデモを、同じお台場のBMWベイ東京で実施している。こちらは7シリーズをベースにしたもので、2021年にはレベル3の自動運転をリリースするとアナウンスしている。日系と違って、BMWは乗用車の自動化にこだわっているようだ。
日本メーカーは現実的な
自動運転車を開発
では、なぜ、日系メーカーは箱型の自動運転車に熱心なのだろうか。それは、やはり現実味があるということだ。なんといっても箱型の自動運転車は、運用速度が遅い。「e-Palette(東京2020オリンピック・パラリンピック仕様)」は最高速度19㎞/hだ。これならば、遠隔操作もしやすい。実は日本も参加するジュネーブ条約/ウイーン条約では、「クルマにはドライバーが必須」となっている。その抜け道として、レベル4の自動運転車の公道走行には、遠隔操作が必要という新解釈が登場した。
しかし、4Gの通信環境下では、速い速度での走行が難しい。しかし、19㎞/h程度であれば、なんとか可能になる。しかも低速になるほど、レーンを守った走行も簡単になるし、歩行者や他車両が直前に飛び出して来た時の対応もラクになる。言ってしまえば、低速度の箱型の車両であれば、法規と技術の両面のハードルをクリアできるというわけだ。
そういう意味で、乗用車タイプよりも箱型の方が実用化に近いのだ。つまり、日本では乗用車タイプよりも箱型、ライドシェア型の自動運転車が先に実用化されそうである。それが東京モーターショー2019で感じられた日本の未来であった。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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