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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第236回

Fitbit買収でヘルスケアのデータを獲得するグーグル、アップルとの対決も発生するか

2019年11月16日 12時00分更新

文● 末岡洋子 編集● ASCII

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 グーグル(Alphabet)がフィットネスバンドでおなじみのFitbitを買収するという。買収金額は21億ドル(約2300億円)。これによりハードウェア事業を強化することになるが、それだけではない。Fitbitでより重要なのはデータ。グーグルはFitbitが蓄積してきた膨大なデータも手中に収めることができるのだ。

バンド型の活動量計のイメージが強いFitbitだが、ここ最近はスマートウォッチにも力を入れていた。写真はFitbitが今年3月に発表したスマートウォッチ「Versa Lite」

買収金額はHTCのPixel事業のときの約2倍

 Fitbitが買収されること自体は驚きではない。グーグルがスマートウォッチ(フィットネスバンドを含む)事業を取得することも驚きではない。それでもグーグルとFitbitという組み合わせは、多少の驚きがあった。

 グーグルがFitbitに提示している金額は21億ドル。これを受けてFitbitの株価は上昇したようだ。なおFitbitはこの3年間、四半期の業績報告で軒並み赤字となっていた。10月には売却先を探しているという憶測もあったぐらいだ。

 21億ドルという買収金額が適切かどうかはわからないが、たとえば2017年に取得したHTCのPixel部門を買収したときは11億ドル、もっとさかのぼると主に特許を目的とした、2011年のMotorola Mobilityの買収金額は125億ドルだった。

 モバイル業界ではAndroidで知られるグーグルだが、最近はスマートフォンではPixel、さらにスマートホームのNest(2014年に32億ドルで買収)、スマートスピーカーのGoogle Homeも展開するなど、すっかりとハードウェアづいている。Androidと対抗するiOSを見ると、iOSのエコシステムにはスマートフォンとスマートウォッチがある。グーグルにはPixelはあるが、スマートウォッチはなかった。

 スマートウォッチでのグーグルは「Wear OS by Google」(当初はAndroid Wear)を2014年に発表。LG、ファーウェイ、ソニーなどが採用している。2019年1月にはFossilからスマートウォッチ関連のIPを4000万ドルで取得しており、素地を整えてきた。そして今回のFitbit獲得という流れだ。

スマートウォッチにシフト進めていたFitbit
Fitbit買収は、ハードウェアとデータの2つから分析できる。

 まずはハードウェア事業から見てみよう。Fitbitはバンド型の活動量計でスタートしたが、最近は少しずつスマートウォッチへと進化と移行を続けてきた。Apple Watchは登場時はどちらかというとファッションの要素が強く、すぐに大きなヒットになったわけではない。Apple Watchが登場した年の秋にFitbitの本社を訪問する機会があったが、同社の共同創業者兼CEOのJames Park氏は、ターゲットが違うので脅威とは思っていないと語っていた。

 しかし時代の流れもあり、Fitbitもスマートウォッチ戦略を進める。だが、フィットネスバンドの代名詞ではあるFitbitだが、スマートウォッチとしてのブランドでは弱い。Strategy Analyticsの7~9月期のスマートウォッチの市場シェア(出荷台数ベース)では、シェア11.3%で3位。1位はアップル(約48%)、2位はサムスン(約13%)となっている。

 Fitbitは「Versa」ブランド(OSは独自)でスマートウォッチを展開するが、3月に発表した「Vesra Lite」は振るわず。これが第2四半期の赤字決算の要因となった。最新の四半期(2019年第3四半期)の決算は、売上高が前年同期比12%減少。今期は新規フィットネスバンドのローンチがなかったことから、売上に占める比率はスマートウォッチは58%、フィットネスバンドは39%としている。

グーグルの狙いは健康に関連するデータか?
ただし、グーグルに対する目は厳しい

 それよりも2つ目のデータの方が重要かもしれない。まずは、Park氏自身がFitbitはデータ企業として位置付けていたこと、そしてアップルCEO、ティム・クック氏がヘルスケアをアップルの重要な事業と位置付けていること、そしてグーグルはこの分野で戦略を打ち出していなかったこともあり、Fitbitはここを埋めるものと考えることができる。

 本連載の3年前の記事でも紹介したように(「Apple Watch登場でも揺るがないウェアラブルデバイスの王者、Fitbitの中核はヘルスケアにある」)、Fitbitはデバイスを入口にデータ戦略を構築してきた。

 健康保険が公的ではない米国では、福利厚生の一環として企業がFitbitを従業員に配布するケースがあり、今年はシンガポール政府が進める国民健康プロジェクトも獲得した。これらの事業はFitbit Health Solutionsとして事業部を立てて運営されており、第3四半期は前年同期比31%増の7300万ドルのビジネスとなっている。

 グーグルでデバイス&サービス担当シニアバイスプレジデントを務めるRick Osterioh氏はFitbit買収計画を発表するブログ投稿で(https://blog.google/products/hardware/agreement-with-fitbit)、「グーグルは人々の知識、成功、健康、幸せをさらに強化するツールの作成を目指している」とし、「Fitbitが長期的に掲げてきたウェルネスへのフォーカス、そして人々の生活をヘルシーにして、もっとアクティブにするという目標」に沿うものとしている。

 一方で、GAFA企業にデータ収集に対する目はますます厳しくなり、プライバシーへの懸念も高まっている。Osterioh氏は、「グーグルの他の製品同様、収集するデータとその理由について透明性を持つ。個人情報を他に売ることはしない」とし、Fitbitのヘルスとウェルネスデータはグーグルの広告に利用しないと明記している。

 グーグルによるFitbit買収は規制当局の承認を得たのち、2020年に完了を見込む。グーグルとアップルの次なる主戦場はヘルスケアになるのだろうか?


筆者紹介──末岡洋子


フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

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