収益性の悪化によりCEO交代
このあたりでHP全体に目を向け直してみたい。1978年にCEOがJohn A. Young氏に変わったという話は連載521回で説明した。そのJohn Young氏は14年間CEO職を務め、1992年に辞任する。
Young氏は1932年生まれなのでちょうど60歳になった年になるが、単に年齢の問題ではなかった。1980年までの業績は連載521回に示した通りであり、1980年からの業績をまず表にまとめてみた。
| HPの1980年からの業績 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 総売上 | 純利益 | |||||
| 1999年 | 423億7000万ドル | 39億4100万ドル | ||||
| 1998年 | 470億6100万ドル | 29億4500万ドル | ||||
| 1997年 | 431億5300万ドル | 31億1900万ドル | ||||
| 1996年 | 384億2000万ドル | 25億8600万ドル | ||||
| 1995年 | 315億1900万ドル | 24億3300万ドル | ||||
| 1994年 | 249億9100万ドル | 15億9900万ドル | ||||
| 1993年 | 203億1700万ドル | 11億7700万ドル | ||||
| 1992年 | 164億1000万ドル | 5億4900万ドル | ||||
| 1991年 | 144億9400万ドル | 7億5500万ドル | ||||
| 1990年 | 132億3300万ドル | 7億3900万ドル | ||||
| 1989年 | 118億9900万ドル | 8億2900万ドル | ||||
| 1988年 | 98億3100万ドル | 8億1600万ドル | ||||
| 1987年 | 80億9000万ドル | 6億4400万ドル | ||||
| 1986年 | 71億200万ドル | 5億1600万ドル | ||||
| 1985年 | 65億500万ドル | 4億8900万ドル | ||||
| 1984年 | 51億5300万ドル | 6億6500万ドル | ||||
| 1983年 | 47億1000万ドル | 4億3200万ドル | ||||
| 1982年 | 38億7100万ドル | 3億8300万ドル | ||||
| 1981年 | 35億7800万ドル | 3億1200万ドル | ||||
| 1980年 | 30億9900万ドル | 2億6900万ドル | ||||
1984年は一時的に純利益が急増しているが、これは税制の変更にともない、1億1800万ドルの一時的な利益が出たことに起因しており、これを抜くと実質5億4700万ドルなので、前年から1億ドルほど増えているとは言え、極端に大きなものとは言えない。
さて、これを見てもらうとわかるが、売上は間違いなく伸びているものの、純利益で言うと1988年をピークにやや下落傾向がみられる。
下のグラフはこれを見やすくしたものだが、1988年あたりまでは売上と純利益がほぼ似たカーブで上昇していたのに対し、1988年から急速に収益性が悪化している、というのが実情である。
もっとも1992年の時点ではまだ5億ドルもの純利益があるのだから、十分優良企業として良いとは思うのだが、取締役会としてはそうも言っていられないのだろう。
Young氏の元では、これ以上収益性の改善が見込めないという判断がCEOの交代につながったものと思われる。
もっともこの収益性の悪化は一時的なものだ、というのがYoung氏の見解ではあった。というのは1989年あたりから、氏はさらなる収益を目指して多数の企業を買収しており、これによる費用が収益を圧迫したという側面もあるからだ。
実のところ、HPはYoung氏の買収ラッシュが始まるまで、意外に買収件数は多くなかった。1958年のMoseley Company(プロッター)、1959年のBoonton Radio(計測機器)、1961年のSanborn Company(医療)、1962年のNeely Enterprises(営業/製造)、F&M Scientific Corporation(分析機器)、1966年のData Systems, Inc.(コンピューター)と合計6社だけで、その後23年に渡って買収は一切行なってこなかった。
ところが1989~1992年にかけては、以下の8社もの買収をいきなり行なっている。
| Young氏が買収した企業 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 年月 | 企業 | |||||
| 1989年1月 | Eon Systems Inc.(エレクトロニクス) | |||||
| 1989年4月 | Apollo Computer(コンピューター) | |||||
| 1989年11月 | Optotech Inc.(ディスクドライブ:ちなみに資産一式のみで会社は買収せず) | |||||
| 1991年1月 | Applied Optoelectronic Tech(自動テスト装置) | |||||
| 1991年11月 | Avantek(トランジスタ) | |||||
| 1991年12月 | ABB CADE(ソフトウェア) | |||||
| 1992年9月 | Colorado Memory System(磁気テープドライブ) | |||||
| 1992年10月 | Texas Instruments(Computer Systems部門のみの買収) | |||||
それはこれだけ買収すれば利益が減るのもやむなしということなのだろうが、ただこうした買収はしばしばうまくいかなかった。
たとえばApollo Computerの場合、連載425回でも書いたが買収金額は4億7600万ドルであった。ところが買収の結果、Apollo部門の売上は1989年が5億5000万ドルから1991年には3億6300万ドルに、ワークステーション部門の売上全体も1988年の9億ドルから1991年には7億2500万ドルに減るという始末である。
なんでもかんでも買収すればいいというものではない、という「良くある話」ではあるのだが、こうした動向を見た取締役会が、そろそろYoung氏ではこれ以上の収益性改善は難しいと判断するのもわかる気がする。

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