日本の企業はデジタルネイティブ世代を受け入れられるのか?
基調講演の後半は、Slack Japan カントリーマネージャーの佐々木聖治氏が登壇した。昨年6月の日本法人ラウンチ時に200人だったイベント参加者が、今回約3倍の600人になったことを報告しつつ、Frontiers Tour Japanのパートナーになった20社に謝辞を述べた。
佐々木氏は、日本法人の1年を振り返る。当初20名を目標に掲げた人材に関しては、倍以上の50名となり、大手町の新オフィスへの移転も実現された。「新オフィスには、お客様やパートナー様が毎日のようにわれわれの新しい働き方を見にきてくれている」と佐々木氏は語る。エコシステムに関しては、すでに60もの国産アプリとの連携が進み、業界や組織を超えたコミュニティも構築されたという。「トップダウンで押しつけられて使うというより、むしろボトムアップで現場で使いたいから使うというソリューションだ」と語り、ユーザーの声やコミュニティの重要性についてアピールした。
当然、ユーザーも増えた。1万人規模の学生や教職員がSlackを日常的に使っているN高等学園について説明した佐々木氏は、「デジタルネイティブ、Z世代と呼ばれている若者たちは、メールとは一切無縁な時代を生きていて、メッセージングツールで日々コミュニケーションしている。そんな新世代のタレントたちを受け入れられる環境をみなさんは整えていらっしゃるでしょうか?」と問いかけた。
東大アメフト部、日本経済新聞社、MONETが事例を披露
続いて佐々木氏は、東京大学運動部 アメリカンフットボール部、日本経済新聞社、MONET Technologiesというユーザー企業3社を壇上に迎え入れ、Slackの活用を紹介する。
まずは東京大学のアメリカンフットボール部 監督である三沢英生氏だ。東大アメフト部の部員は現在約200人で、コーチも数十人、OB・OG、ファンクラブ、父母会まで含めると2000人近いステークホルダーがいるという。人数だけではなく、選手、コーチ、マネージャー、トレーナー、データ分析するSA、マーケターなど役割も多種多様だ。「これくらいの規模になると、ほぼ企業と同じ。Slackを用いて、チームのベストプラクティスを模索している」と三沢氏は語る。
具体的には目的ごとにSlackのチャンネルを構築することで、今までのLINEだと流れがちだった情報の所在地が明らかにしている。先輩・後輩のやりとりも絵文字でスムースになり、文章の校正もSlack内で行なえるようになったので、効率化した。工夫としては、ユーザーは本名や顔写真を登録してわかりやすくし、やりとりもパブリックチャンネルでオープンにしている。ちなみにLINEもヘビーに使っており、両者をうまく使い分けているというのも特徴と言えそうだ。
また、三沢氏は東大アメフト部の監督でありながら、スポーツビジネスを手がけるドームの取締役 執行役員 CSOを務めており、Google Formsを用いた選手の出欠管理、Slackのボットを用いた選手の食事管理など尖った使い方も提案している。「ルーチンワークをやっていると、選手も、コーチも1日が終わってしまう。全員が思考に時間を使うか、人・モノ・金というリソースをいかに最適化するかがチームの成長の鍵」と語る。
2番手は「日本経済新聞 電子版」(日経電子版)を統括する日本経済新聞社 デジタル事業担当 常務取締役 渡辺洋之氏だ。日経電子版の有料会員はすでに約70万人を突破し、世界でも4番目のデジタル新聞として成長している。
同社がテクノロジー・メディア企業として内製でのアプリ開発を加速すべく導入したのがSlackだった。「われわれはテックカンパニーではないので、最初からいい物を作るのでなく、改善のスピードで勝負しようと考えた。そんなとき、エンジニアチームが使いたいと持ってきたのがSlackだった」と渡辺氏は振り返る。渡辺氏自体が20年以上に渡ってIT企業を取材してきたこともあり、「感度としてもこれはいいなと思った」ということで、現場主導でSlackを活用したという。
結果、40名のチームでほぼ4回/1日というリリースが実現している。また、編集部ではすでにSlackを簡易CMSとして利用し、記事を投稿し始めている。絵文字によりデスクチェックを進めるというワークフローで運用されており、タグ付けや見出しも可能になっているという。さらにキーワードを登録していると、Slack経由で日経電子版の記事が配信される「NIKKEI for Slack」も展開されている。
最後の三番手はMaaS事業を手がけるMONET Technologies 取締役の湧川隆次氏。ソフトバンクとトヨタ自動車によって昨年設立されたMONET Technologiesは、2020年代半ばから本格化する自動運転車の時代を見据え、ライドシェアや飲食、医療、ロジスティックスなどさまざまなサービスを開発している。現在は自治体の交通機関をMaaS化するサービスや社用車のシェアリングサービスなどを実証実験として展開しているという。また、MONETコンソーシアムにはすでに200社以上が参画しており、「移動の未来」を模索している最中だ。
もともとソフトバンクとトヨタ自動車の2社で始まったMONETだが、今年の3月には日野自動車と本田技研工業が資本・業務参加し、6月にはマツダ、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、いすゞ自動車の5社が参加し、ほぼ日本連合化しつつある。このように半年で7社が合流し、社員や関係者が一気に100名にまで膨らんだわけだ。「拠点もバラバラだし、いきなりまったく知らない人と仕事を始めなければならないので、事業をやりながらコミュニケーションするためにSlackを導入しています」と湧川氏は語る。また、迅速なソフトウェア開発においても不可欠な存在になっているという。
スポーツチーム、事業会社、スタートアップという異なる性格を持つ組織だが、市場の変化に対応すべく、柔軟に、迅速に変化し続けなければいけないという課題感はどこも同じ。こうした課題感を解消し、まさに組織の向かう方向性をメンバーで意識合わせするのにSlackはフィットしたようだ。