日本マイクロソフトは、モビリティ(移動)にフォーカスしたサービスMaaS(Mobility as a Service)実現に向けた支援策を提供する。
具体的には、(1)MaaSリファレンスアーキテクチャーの提供、(2)MaaS技術者育成プログラムの提供、(3)新規ビジネス開発支援、(4)パートナーエコシステムの構築――の4点に取り組む。リファレンスアーキテクチャーでは、様々な事業者が提供するサービスを利用者がシームレスに利用できるようなユーザー認証の仕組み、サービスAPI連携の仕組み、利用ログ蓄積の仕組み、MaaSアプリケーションのサンプルコード提供などを行う予定だ。なお、このリファレンスアーキテクチャーは、MaaS領域のコンサルティングやプラットフォーム開発を行っているMaaS Tech Japanの支援を受けて開発。今後同社とはリファレンスアーキテクチャーを活用したMaaSプラットフォーム開発でも連携する予定だ。
今回の取り組みを実施する背景として、日本マイクロソフト 執行役員常務 エンタープライズ事業本部長のヘニー・ローブシャー氏は、「一つのベンダーの技術だけが唯一のものとして採用されるということではないが、複数のベンダーが関わっても『共通の技術』は必要となる。これはIdentity、データ交換といった領域でも必要なこと」と今後MaaS普及には欠かせない点だと説明した。
4つの施策の詳細について同社 エンタープライズ事業本部運輸・サービス営業統括本部インダストリーエグゼクティブ MaaS&Smart Buildingソリューション本部専任部長 清水宏之氏は、現状分析をふまえ説明した。
まず、日本版MaaSに関しては、「日本版MaaS実現を期待する機運が高まっている。様々な事業者が取り組みを始め、大都市で実施されているもの、地方都市で実施されているもの、観光客にフォーカスしたもの、日常にフォーカスしたものなど様々なものがある」と様々なMaaSの取り組みが行われている実情がある。
しかし、その一方で提供されているMaaSは一部の業者が情報の統合を行っているにすぎず、予約・決済の統合、サービス提供の統合、政策の統合が行われているものはほとんどない。「統合なし」に行われているものばかりだ。
そこでマイクロソフトでは、自身がMaaS事業者、MaaSプラットフォーマーになることはなく、参入事業者へのビジネス・技術支援に徹するという観点で、今回の支援策を提供する。
「日本版MaaSへの期待が高まる中で、参入を考える企業にはいくつもの課題がある。その一つが人財育成で、社内にMaaSに取り組むことができる人材が足りない。色々なテクノロジーが出てきている中、それを活かす人材も足りない。MaaSの連携を行う場合、手間やコストを抑えないと、目指す社会像には届かない。そもそもMaaSを実現するためのリファレンスがないんじゃないか?という声もある。さらに、設計には当初から個人認証やセキュリティを考える必要があるが、そういった設計するためにはどうすればいいのか?といった声もある。こうした声に対する解決策として、人材育成に協力する。さらにリファレンスアーキテクチャーを提示し、解決の道筋の手助けとできないか考える」(清水氏)。
リファレンスアーキテクチャーについては、機能マップ、アーキテクチャーマップ、実装サンプルを無償で提供。これを活用することで、開発を行う企業にとっては開発期間・開発コスト削減、保守コスト削減などのメリットがある。
マイクロソフトでは、MaaSを提供する事業者に加え、システムを開発するシステムインテグレーター、新規ビジネスやAIやIoTと連携した新たなシステムを提供するソリューションパートナーと3種類の連携パートナーが存在すると想定している。リファレンスアーキテクチャーは、MaaSを提供する事業者にとっては、差別化領域にフォーカスしやすくなるほか、POCコスト削減、将来的なシステム運用コスト削減などのメリットがある。
リファレンスアーキテクチャーを活用したビジネスモデルとしては、働き方改革につながるようにOffice 365の予定表と経路検索エンジン、地図情報システムとの連携を紹介。出社やその後の移動を極力少なくするような働き方や経路を提案することで、都市部の交通渋滞緩和につながるような提案を行っていく。
技術者育成については、パートナー企業に向けてウェビナー、座学、ハンズオン、ハッカソンなど様々なタイプの技術者育成コースを提供。最新技術を理解したMaaS技術者育成をサポートしていく。
新規ビジネス開発に対する支援策としては、プロトタイプ開発の費用一部負担や、ビジネスパートナーの紹介、技術支援、マーケティング支援なども行っていく。
MaaS Tech JapanとMaaSプラットフォーム開発で連携
今回、リファレンスアーキテクチャーに協力したMaaS Tech Japanは、2018年11月に創業した。創業者で代表取締役CEOである日高洋祐氏は、前職はJR東日本で、MaaSをテーマとした研究を行ってきた。
「MaaSは、デジタル領域で連携していくことで、これまではできなかった課題解決を行うもの。一番有名な事例は、フィンランドのWhimだが、様々な地域の特性や状況に応じたサービスの形があるはず。例えば、日本では当たり前の鉄道の改札は、世界には改札がなく、車内で支払うスタイルも多いので、日本のSuicaを使ったサービスをそのまま応用することはできない。また、都市部で混雑する公共交通網に対し、過疎化が進む地方自治体では鉄道をはじめとした公共交通機関の存続が危ぶまれる中、高齢者が免許返納後にどう交通手段を確保するのかなど、課題がそれぞれ異なる」と日高氏は都市ごとに異なる課題があり、そこに対応したMaaSが必要だと説明した。
都市部では、「これまでの単一的な移動から、都市を俯瞰して、混雑を回避する手段をとった相手にはインセンティブを与えるといった、様々なものに紐付いたパーソナライズされた移動が必要となってくるのでは」と指摘した。