このページの本文へ

アジアン・セキュリティ最前線第4回

人の行動まで予測し、暴動や犯罪を未然に防ぐ

監視社会か防犯か、人工知能でつながる1.7憶台の監視カメラ|中国

2019年04月22日 11時00分更新

文● 牧野武文 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
人物の頭、手の動きなどを検知し、暴力行為を検知する。

中国電子科学研究イノベーションセンターのサイトより)

国内すべての監視カメラのネットワーク化で実現されるもの

 中国では1.7億台の監視カメラが街頭に設置されていると言われている。この監視カメラのネットワーク化プロジェクト「天網工程」が進んでいる。

 2015年に国家発展改革委員会などが公表した996政策(政策996号の意味)で、このネットワーク化を2020年までに中国全土で完成する目標が示された。

 また、2017年に北京で開催された全国公安科学技術情報化工作会議では、孟建柱公安部長の発言が「620講話」として、ひとつの指針になっている。それは公安部の監視カメラシステムには、「天網」(ネットワーク化)、「天算」(画像高速処理能力)、「天智」(人工知能の応用)の3つが必要だとするものだ。

 この天智能力の開発も進んでいる。すでに市民の顔画像データベースは身分証登録データから取得できており、一定解像度以上の監視カメラであれば、映り込んだ人物の氏名、身分証番号などの個人情報を1秒以内に顔認識検索、特定できるようになっている。

 昨年、中国で人気の香港出身の歌手、張学友の中国国内ツアーが開催された。張学友は公安部に協力をし、入場ゲートに監視カメラを設置し、入場者の顔認識身分特定に同意した。この結果、約半年間に渡るツアーで、数十名の指名手配犯が逮捕された。

 天網では、空港、駅、ショッピングモールなど人が集まる場所での顔認識による個人特定を始めていて、犯人逮捕やスリ犯の特定に役立てている。

人工知能が監視映像から人のその後の行動を分析

 天網、天算、天智による街頭監視は、顔認識のみにとどまらない。公安部などに監視システムなどを納入している中国電子科技集団は、電子科学研究院という研究機関を保有している。このイノベーションセンターの公安業務責任者の林暉氏が、スマート公共安全サミットフォーラムなどのイベントで、最新の研究成果をプレゼンテーションしている。それは、監視カメラに映った人物の行動を人工知能で解析をして、何をしようとしているのかを判断するDeepAction+という技術が中心になったものだ。

中国電子科学研究イノベーションセンター公式サイトによるDeepAction+テクノロジーの紹介。現在、どのようなシステムに応用されているかは言及されていないが、親企業の中国電子科技は、中国公安部に多くの映像系技術を提供している。

顔認識システムを開発している依図科技のテクノロジー紹介の公式ビデオ。後半に監視カメラの顔認識システムの紹介がある。張学友のコンサートで犯人逮捕に貢献した顔認識システムは、この依図科技のものだった。

 定位人流量分析では、人の位置と量、密度などを計測する。機械学習により、ただの混雑なのか、あるいは通路を塞ぐ、暴動の前兆の密集などの異常行動なのかを判別できるという。異常行動であった場合は、公安などに通知が飛ぶことになる。

人の流量を自動計測。密度を測定し、それが単なる混雑なのか、暴動につながるような異常な密集なのかを人工知能が判断する。

中国電子科学研究イノベーションセンターのサイトより)

 禁止区域異常侵入警報は、監視カメラ映像内にバーチャルな侵入禁止区域を設定できるというもの。この地域内への侵入があると通知される。また、警戒区域を設定し、その中で、写真撮影、長時間の立ち止まりなどの異常行動があった場合に通知することも可能だ。

監視カメラ映像内に禁止区域をバーチャルに設定し、そこに立ち入る人物を検知したり、区域内で撮影などの行動を検知する。

中国電子科学研究イノベーションセンターのサイトより)

 また、監視カメラに映った人物の行動を分析することもできる。異常行為警報では、人物が暴力を振るった場合に通知をする。救助識別では、監視カメラに向かって大きく手を振ると、救助が必要だとして通知が飛ぶ。

 さらに、携帯物体識別では、人物が手にしている物体がナイフやピストルなどの武器である場合に通知が飛ぶ。撮影禁止区域では、カメラやスマートフォンであることも識別できる。

人物が手に持っている物体が何であるかを判別する。スマホによる撮影やナイフ、ピストルなどの武器を検知する。

中国電子科学研究イノベーションセンターのサイトより)

 このような人工知能による解析技術は、監視カメラ映像だけでなく、他の映像に適用することも難しくない。検出する行動を機械学習させることができ、ネットのライブ中継を監視し、暴力行為や性的行為を検出することにも応用できるという。

監視される人々の反応は……?

 日本人の感覚からすると、過度に進化した監視社会に見え、怖さや不気味さを感じてしまうが、この手のニュースにつけられた中国人読者のコメントはいずれも肯定的だ。

 中国では、いまだに暴動やテロの不安がぬぐいきれない。監視カメラにより、個人の身分や行動が特定できれば、このような不安の多くは予防ができる。また、子どもの迷子や誘拐も以前ほどではないとは言えまだ多く、このような捜査にも監視カメラが役立っている。

 国内報道は、監視カメラが公共安全に貢献をした内容ばかりであるため、自然に読者コメントも肯定的なもので埋め尽くされている。市民が政府の政策を批判することは何ら問題はないが、それが政治体制の批判に踏み込んでしまうと、途端に政治犯罪として罪に問われることになる。民主化を訴えることはかまわないが、民主化をするために共産党体制の変革に言及した途端に罪になるのだ。

 そのため、この手のニュースにコメントを書く場合は、誰もが注意深くなる。そういう理由もあって、肯定的コメントが多いのかもしれない。

築かれるのは犯罪のない理想国家かディストピア的な超監視社会か

 このDeepAction+は、あくまでも研究成果であり、現在、公安部の監視カメラシステムに採用されているのか、採用予定があるかどうかは明らかにされていない。

 個人的には、このDeepAction+は、刑務所の監視システムにすぐ応用できるように思う。中国電子科技という企業と中国公安部の関係を考えれば、中国の街頭監視カメラに適用される可能性は大いにある。中国の街は安全で安心できるパラダイスになるだろうか、それともSF小説に出てくる監視社会を現実のものにしてしまうのだろうか。

カテゴリートップへ

この特集の記事

Planetway Story

製品別検索

PlanetCross

PlanetID

事業別検索

PlanetGUARDIANS

PlanetECO