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マルチクラウド分野でクラウド事業の再興を目指す

IBMは3.8兆円で何を買ったのか――レッドハット買収の狙い

2018年10月30日 10時30分更新

文● 羽野三千世/TECH.ASCII.jp

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 既報の通り、米国時間2018年10月28日、IBMが340億ドル(日本円換算で約3兆8000億円!!)でRed Hatを買収することを発表しました。2社のテクノロジーを統合することで、複数のパブリッククラウドやプライベートクラウドにまたがる「マルチクラウド」環境で、データとアプリケーションのポータビリティを提供していくとしています。2社の統合で実現されるマルチクラウドとはどのようなものでしょうか。IBMは、巨額のお金で何を買ったのでしょうか。

 IBMはかねてから、「ワン・クラウド・アーキテクチャ」というマルチクラウドのコンセプトでIBM Cloudを拡張してきました。これは、DockerコンテナとKubernetesをベースに、オンプレミス、IBM Cloud、他社パブリッククラウド(AWS、Azure、GCPなど)に同一のアーキテクチャを持たせて、アプリケーションとデータをいつでも最適な場所に配置できるようにするビジョンです。

アプリケーションとデータを、オンプレミス、IBM Cloud、他社パブリッククラウドの間で柔軟に移動できる環境にするIBMの「「ワン・クラウド・アーキテクチャ」

 オンプレミスについては、IBM Cloudと同じアーキテクチャを持つCaaS(Container-as-a-Service)やPaaS(Platform-as-a Service)をオンプレミスに配置可能にする「IBM Cloud Private(ICP)」でこれを実現しています。他社パブリッククラウドに対しては、クラウドニュートラルな立場のRed Hatと協業し、Red HatのCaaS基盤「OpenShift」上でICPに含まれるコンテナ化された管理ツールやミドルウェア群の動作保証を行うことで、ワン・クラウド・アーキテクチャを実現しようとしてきました。

OpenShift上でICPが提供する主要なIBMミドルウェアや管理ツールのコンテナを動作保証する

 IDCが2018年8月に発表した調査レポートによれば、「今後1年内にパブリッククラウド環境からプライベートクラウドやオンプレミスにデータを戻す計画がある」と回答した企業は80%を超え、その主な理由に「単一のパブリッククラウドで、当初の期待通りにいかなかった」ことを挙げています。一方で、IDCの別の調査では、85%を超える企業が2018年中にマルチクラウドを採用する見込みだとしています。パブリッククラウドの市場シェアでAWSやAzure、GCPに大きくリードを許してしまったIBM Cloudですが、ユーザーの単一パブリッククラウドからオンプレミスへの回帰、そして次にくるマルチクラウド化の流れの中で、存在感を取り戻したいと考えているのでしょう。

 しかしながら、IBMが思い描くような、コンテナとKubernetesをベースにすべてのビジネスワークロードが異なるクラウド間で自由自在に移動できるマルチクラウド環境を実現するのは簡単ではありません。コンテナの標準化が進み、コンテナ化できるアプリケーションについてはパブリッククラウド各社が提供するKubernetesベースのCaaS間でポータビリティが保証されていますが、コンテナのネットワークやストレージのポータビリティにはまだ課題があります。データとアプリケーションの完全なポータビリティを実現するには、コンテナ化だけでなく、ワークロードの性質ごとにストレージやネットワークのレベルまでアーキテクチャをマルチクラウド前提の構造に設計しなおし、その設計をKubernetesありきの世界で標準化していく地道な取り組みが必要になります。

 この地道な取り組みで、IBMとRed Hatは手を組んだ過去があります。2社は、今年9月にHadoopベンダーのHortonworksと共同で、ビッグデータのワークロードをマルチクラウド環境で動かすための共通アーキテクチャを構築する「オープンハイブリッドアーキテクチャイニシアティブ」を立ち上げました。このイニシアティブでは、Hadoopのビッグデータ分析のワークロードにおいて、ストレージとコンピュータリソースを分離し、コンピューティングやデータ分析ワークロードをコンテナ化してポータブルにする、異種クラウドの環境をまたいだデータコントロールプレーンを用意して一貫したデータマネジメントを提供するといった、マルチクラウド前提の新しい共通アーキテクチャを考案しています。

IBM、Red Hat、Hortonworksが立ち上げた「オープンハイブリッドアーキテクチャイニシアティブ」が考案するアーキテクチャ

 同イニシアティブで重要な役割を果たすのはKubernetesです。そして、Red HatはKubernetesの開発コミュニティで最も影響力のある企業です。Red Hatは2018年1月のCoreOS買収によって、KubernetesのSIGの半数以上をリードする存在になりました。同イニシアティブは従来から提携関係にあった3社の提携の延長であり、今のところ他のプレイヤーが参加する動きはありませんが、Kubernetesの開発方向性を決める力を持つRed Hatがいることでおそらく上手く進むのでしょう。すでにHortonworksは、同イニシアティブの考案したアーキテクチャを採用した新製品のプレビュー版を2019年早々に提供する計画を発表しています。

Red HatはKubernetesコミュニティでSIGの半分以上でリーダー的存在

 マルチクラウドの分野でクラウド事業を再興したいIBMは、今回のRed Hat買収によって、マルチクラウド実現の核となるKubernetesの開発方向性に最も影響力のある組織を手に入れました。また、あらゆるビジネスワークロードがマルチクラウドで動くようにするための地道な取り組みに協力してくれる相棒を手に入れました。

 IBMが夢見るマルチクラウドの世界観は、Red HatがLinuxやOpenShiftで実現しようとしてきた「オープンハイブリッドクラウド(どんなインフラでも動くプラットフォーム)」「Any Apps, Any Platform」のビジョンと共通するものです。志を同じくする2社が統合されることでクラウド市場をどのように変えていくのか、今後に注目しましょう。

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