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ミドルウェアのコンテナとレッドハットの「OpenShift」が戦略の鍵?「IBM THINK 2019」レポート

“Kubernetes Everywhere”IBMのマルチクラウド戦略と新発表

2019年02月25日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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第二段階:“Kubernetes Everywhere”をICP+OpenShiftで実現していく

 基幹業務アプリケーションにおいても、次の段階ではマイクロサービスなどのクラウドネイティブな技術を用いたものへのモダナイズが進むことになる。

エンタープライズでは今後数年で、クラウドネイティブ/マイクロサービス/コンテナの技術採用が急速に進む見込み(ロバート・エリクソン氏の講演資料より)

 IBMでは、クラウドネイティブな世界においてはコンテナ技術が欠かせないものになると考え、プラットフォームの中心にKubernetesを据えて製品ポートフォリオを構成してきた。たとえば、Kubernetesベースのアプリケーション開発/実行環境であるICP、Kubernetesのマネージドサービスである「IBM Cloud Kubernetes Service(IKS)」などをすでに提供している。

「IBM Cloud Private(ICP)」のアーキテクチャ(2018年5月の発表会資料より)。ミドルウェアや開発/管理ツールなどのコンテナで構成されるアプリケーション開発/実行環境。Kubernetes/OpenShift上に構築されている

 Kubernetesは、IBMのマルチクラウド戦略の要にもなっている。今回のTHINKでは、昨年10月にリリースされたKubernetesクラスタの統合管理ツール「IBM Multicloud Manager」が繰り返し紹介されていた。ICPに追加されたこの管理ツールは、IBMのKubernetes環境(ICP、IKS)だけでなく、レッドハットの「OpenShift」、さらにはAWSやAzure、GCPなどが提供するマネージドKubernetes環境も一元管理できる。

 IBMでICP担当ディレクターを務めるロビン・ヘルナンデス氏は、ICPチームが開発したMulticloud Managerでは「Kubernetesクラスタのライフサイクル管理」「アプリケーションのライフサイクル管理」「AI/機械学習に向けたデータ整備」「セキュリティとコンプライアンス」という4つの管理機能を備えており、「顧客企業のクラウド展開を加速させるものだ」と紹介した。

IBM Multicloud Managerの機能概要とダッシュボード画面。ICP/IKSのほかOpenShift、AWSやAzure、GCPのKubernetesも監視している

Multicloud Managerのダイアグラム図、コンテナカタログ画面

 しかしながら、単にKubernetes環境を提供するだけでは、競合ベンダーとの差別化にはならない。IBMの独自性や優位性はどこにあるのかという質問に対し、ヘルナンデス氏は「他のベンダーがインフラやKubernetesレイヤーだけを見ている中で、IBMは唯一、ミドルウェアとアプリケーションのレイヤーに注目している点だ」と答えた。

 「エンタープライズの顧客は、オンプレミス環境においてすでにIBMのミドルウェアを使っている。こうしたミドルウェアをいかにモダナイズして、クラウドネイティブなプラットフォームに取り入れていくのかを考えてきた」(ヘルナンデス氏)

 実際にICPでは提供開始当初から、Db2やMQ、WebSphere、JBossといったIBMミドルウェア群やOSSミドルウェア群をコンテナ化し、カタログから簡単に展開できる環境を提供してきた。オンプレミスと同じミドルウェアが使えれば、レガシーアプリケーションのモダナイズに役立つだろう。

 なお、このICP/IKSで提供されるミドルウェアコンテナは、単にソフトウェアをコンテナ化しただけのものではない。「IBM Cloud Paks」と呼ばれるこれは、エンタープライズ向けの推奨構成や推奨設定、さらにモニタリングなどのプラットフォームサービスも含め提供される。

ICP/IKSで提供される「IBM Cloud Paks」と、他のプラットフォームでIBMが提供するコンテナ(中央)の違い(画像はCloud Paks公式サイトより)

 「ICPは当初、エンタープライズ顧客が自社データセンター内で運用することを前提に開発されていた。しかし、顧客から『AWS上でもICP環境を展開したい』といった声が上がり、インフラ中立的な路線への方針転換を行った。それが功を奏してICPは成長を続け、現在ではMulticloud Managerも追加されている」(ヘルナンデス氏)

 インフラ中立的な方針転換の結果、ICPはあらゆるKubernetes環境に載るようになり、それが今回の“Watson Anywhere”へとつながった。ヘルナンデス氏は、既存のミドルウェアだけでなく、Watsonやブロックチェーンのような新しいテクノロジーもコンテナ化し、ICP上のサービスとして使えるようにしていくと今後の戦略を語った。

 こうして見てみると、IBMはICP(および買収したレッドハットのOpenShift)を、クラウドネイティブ環境の「共通レイヤー」と位置づけていることがわかる(下図参照)。オンプレミスからマルチクラウドまで、あらゆる環境間でワークロードの移動を可能にし、一貫したマネジメントとコントロールを実現するためのサービス実装が今後も続くだろう。

日本IBMがセッションで示した図。OpenShiftのコンテナレイヤーとICPのミドルウェアレイヤーで、AWSやAzureといったマルチクラウド間を統合するビジョンであることがわかる

 なお今回のTHINKでは、IKSにおいてKubernetes関連のマネージドサービス「Managed Istio on IKS」と「Managed Knative on IKS」が発表されている。Istioはマイクロサービス間をつなぐサービスメッシュ管理ツール、Knativeはマイクロサービス/サーバーレスの開発/実行環境をKubernetes上で実現するための基盤ソフトウェアであり、いずれもOSSだ。これにより、オープンスタンダード技術に基づくサーバーレス環境を実現するのが、IBMの狙うところである。

 今回、IKSにおけるIstio/Knativeサービスの提供を発表したIBM Cloudブログのタイトルには“Kubernetes Everywhere”という言葉が踊っていた。IBMはまさにその言葉どおりの未来像を思い描き、エンタープライズ顧客向けにそこに至る道筋を付けようとしているのだろう。

* * *

 最後に、話の流れの都合で紹介できなかったクラウド関連の新発表2つについて触れておきたい。

 ひとつは「IBM Services for Cloud Strategy and Design」だ。顧客企業のクラウド戦略を支援するために、指針策定のコンサルティングから設計、移行、統合、構築までの包括的なサービス群を提供する。「IBM Cloud Innovate」や「IBM Cloud Garage」で展開する、デザインシンキングやリーンスタートアップ、DevOpsなどの新たなメソドロジーも取り入れる。当然、このサービスでもマルチクラウドを前提としており、「他社クラウドの最新サービスにも精通したコンサルタントが顧客企業を支援する」としている。

 もうひとつは「IBM Cloud Hyper Protect Crypto Services」だ。これはIBMデータセンターに設置された「IBM LinuxONE」メインフレームのハードウェアセキュリティモジュール(HSM)を用いて提供される、暗号化キーの管理サービス。IBMによれば、パブリッククラウドベンダーでは唯一の、FIPS 140-2 Level 4認定ハードウェアで構築されたサービスとなる。

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