IoTビジネス成功の鍵「データ」にまつわる問題を考えた鼎談
“レシート画像買取”のワンフィナンシャル、“高速IoTデータパイプライン”のアプトポッドが登壇
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「移動の価値」もIoTデータが可視化する? モビリティはどう変わるか
ここでモデレーターの坪井氏が、セッションテーマである「モビリティの未来」の話題を振った。坪井氏自身もデンソーでMaaS(Mobility-as-a-Service)のビジネス開発部門に所属しており、2人の立場からそれぞれどのような未来像を描いているのかを聞きたい、というわけだ。
アプトポッド坂元氏は、これまで実現しなかったサービスがMaaSとして登場する前提として、まずは「自動運転社会」という基盤が必要となるという見方を示した。自動車などの自律運転技術だけでなく、システム間が有機的に協調するための通信技術、そして安全性を担保するセキュリティ/セーフティの技術がベースとなることで初めて、新しいサービスが生み出されるだろうと語る。
「個々のシステムが単体で動いても意味がない。単体で動くと同時に、ほかのシステムとも相互に協調しなければならないと考えています。たとえば自動運転のタクシーが目的地まで走ってくれるだけでなく、走っている間にさまざまなシステムが協調して、いろいろなサービスも提供してくれるような世界観を持っています」(坂元氏)
たとえば、MaaSやスマートシティの世界で「誰が何時に到着するか」が正確に予測できるようになれば、“5分間だけサービスを買う”といった細かな時間単位でのシェアサービス利用など、これまでになかった価値観も生まれるだろうと語る。
さらに三氏の議論はMaaSによる移動の価値だけでなく、MaaSデータを活用した都市/エリアやその経済性の可視化、分析にも及んだ。
坪井氏は、都市の価値を計る際に、ワンフィナンシャルが提供する購買データのようなデータがあれば、区画単位、ビル単位といった細かな経済性が分析できるのではないかと述べる。そのうえで、MaaSによって「人がどこからどこへ移動したかというデータ」も大量に集まれば、ほかのデータとの組み合わせでさらに“都市の経済性”を深く分析できるデータに昇華されるのではないかと語った。
「ここ赤坂には大きなビルが林立していて、たくさんの店舗が入っています。ただしビルオーナーからは、各テナントが支払う家賃(という数字)しか見えず、収益性がわからない。ここでONEのレシートデータがあれば、各テナントがどのくらい売り上げているかが見えてきます」(坪井氏)
このように異なる種類のデータどうしが有機的につながることで、その軸となる都市/エリアに対する深い分析が可能となる。それがまたMaaSなどにフィードバックされることもあるだろう。坪井氏は、たとえば現在は“過去の経験”に基づいて計画されている街の再開発事業なども、データに基づく新たなアプローチで考えられるようになるはずだと語った。
また坂元氏や丹氏は、遠隔でコミュニケーションが取れるアバターロボットなどの登場によって、人が「移動しない」選択肢も生まれると指摘した。会議や打ち合わせなどの業務で移動することが経済的に最適なのかどうかも、さまざまな視点のデータに基づいて判断できる未来が来るのかもしれない。
データのマネタイズ/流通とプライバシー保護の問題
モデレーターの坪井氏は、もうひとつ質問したいこととして「データを他の企業に販売し、マネタイズする方法」を挙げた。坪井氏自身も「悩んでいるところ」だと言うが、実際にその取り組みを行っている丹氏も「非常に難しい」問題だと語る。特にプライバシーデータは、EUのGDPRなど各国における規制が強化されつつある段階だ。
「現状のONEは広告やターゲティングモデルのビジネスであり、データそのものは販売していません。ゆくゆくはマネタイズしたいと考えていますが、個人を特定できないように情報をマスキングしつつ、第三者とシェアするのはすごく難しいですね」(丹氏)
これについて坪井氏は、プライバシーデータが自由経済諸国においてセンシティブな問題になる一方で、政府が経済を統制する中国などでは政府主導で活用しやすい環境を作り「独特のイノベーションが起きている」と述べる。そのうえで、EU域内ながらもプライバシーとビジネス成長のバランスを取っているエストニアのような規制を目指すことが大切ではないかと語った。坂元氏も、これからIoTシステムが社会の中に組み込まれていくなかで、その成功のためには政府の対応も重要になってきていると指摘した。
最後に坪井氏が、これからの両社のビジネス展開について質問したところ、アプトポッドの坂元氏は「個人的な目標としては医療関係」だと答えた。社会の少子高齢化が進む中で、リアルタイム性のあるデータプラットフォームの提供を通じて遠隔医療を広めることにチャレンジしたいという。「2040年から2060年の社会に、インフラとして貢献したいと考えています」(坂元氏)。
また丹氏は、ワンフィナンシャルとしては「他社と共同でのデータ取得とシェアリング」「金銭だけでなくサービスチケットとしての還元」という2つに取り組もうとしていると説明した。前者は、ユーザーへのレコメンデーションといったサービスの質を高めていくためには、ONEを通じてワンフィナンシャルが取得できるデータだけでは限界があるため、たとえばIoT分野など他種のデータを取得できる企業との協業を考えていると説明した。
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