マザーボードの熱対策が急務
最後にハイエンドCPUの泣き所ともいえる発熱にフォーカスを当てる。前述の通り2990WXの高負荷時の消費電力はPrecision Boost Overdrive込みで600〜700Wと非常に大きく、TDP250Wの凄さを思い知らされた。
だが第2世代Threadripper、特に2990WXを運用する場合はCPUよりもマザーボード側の対策が急務となる。消費電力の測定にはOCCTのCPU Linpackテストを用いたが、2990WXの全コア稼働状態でOCCTを回すと、実は10分持たずにPC自体が落ちてしまう。原因はどうやらマザーのVRM温度が関係しているようだ。
そこで同じくHWiNFOを使いTdieとVRM温度を追跡してみた。原稿執筆時点のHWiNFOはROG ZENITH EXTREMEの温度センサー情報が一部不完全な状態で出力するが、マザーのユーティリティーの温度とHWiNFOの“Temperature6”が近いため、これがVRM温度と推測して追跡してみた。
室温24℃の環境で、CPUクーラーに簡易水冷を使ったバラック組み同然の環境なので、CPUソケット付近にはほとんど気流はない。一応マザーのIOシールド内に小さなファンが内蔵されており、負荷がかかると強制冷却がかかるが、1基では力不足なのは確かだ。マザーのオプションとしてVRM冷却用パーツというか、小さなファンと固定するステーのセットも用意されているが、今回は雑に、12cmファンをVRMのヒートシンクの上にかぶせ、ファンがない状態とどう変わるか比較することとした。さらに比較対象として、2990WXの1/2モード時および2950Xも準備。もちろんこの2つはVRMの追加ファン無しで計測する。
まず全コア稼働状態で、何のファンも追加しないと、あっという間にVRM温度が100℃を超える。最終的には115℃を記録したすぐ後に、PCそのものが落ちた。一度落ちるとメインパワーを切り、少し冷やすまで再起動すらできない状況になる。
だがファンを追加することで、OCCTのCPU Linpackも十分長い時間持続するようになった。VRM温度は94℃とかなり高いが、VRM部にファンの風を当てるだけで、システム全体の安定性が担保される。同じ2990WXでも実働コア数を16コアにすれば、追加ファンがなくてもキッチリOCCTは回る。2950Xの温度の方がやや高いのは、動作クロックが微妙に高く設定されているせいだと思われる。2990WXをこれから買おうと考えている人は、マザーのVRM部の冷却を見直すべきだろう。
サーモグラフィーカメラ「FLIR ONE」を利用して、VRMを裸で使った時とファンを置いた時の表面温度の違いを比較してみた。VRM冷却をしない状態では、VRM表面温度が74℃あたりでPCが強制的に落ちるのに対し、ファンを置くだけで12〜13℃も表面温度が低下した(前掲のグラフによれば、センサーで検知できる温度はそれ以上低下している)。
VRM冷却を何も考えてない状態のヒートシンクの表面温度。この写真は前掲のグラフのデータとりと並行して撮影している。表面温度の最大値は74℃を超えたが、PCが落ちたのを見てから慌ててシャッターを切ったため、写真では73℃付近になっている
良くも悪くも“紙一重”のCPU
以上で第2世代Threadripperの検証は終了だ。コンシューマーで使える初の32コア64スレッドCPUはとても心踊らされるが、同時に超々ハイエンドならではの扱いの難しさも実感した。2990WXはCGレンダリングのような処理では凄まじく強いが、動画エンコードでは良い結果を出せないという後味の良くないテスト結果になったのは極めて残念だ。今回入手した検証機材由来のトラブル、BIOSそのものの熟成不足、ソフト側の最適化の問題……もちろん筆者がなにかミスをしたことも十分に考えられる。全コア稼働時にゲームのパフォーマンスが著しく低下するなど、これまでのCPU運用の感覚で手をだすと使いこなせずに終わる可能性もある。
これに対し2950Xは扱いやすい印象を受けた。エンコード処理等では1950Xに負けるシーンも見られたが、2990WXほどの絶望的な差はつかない。ゲーミング性能に関しても、特にPUBGでは7980XEよりも安定したフレームレートが得られる点は素晴らしいと言える。
以上のことから、発売前夜の時点では、このCPUは万能であるとは言い難い。切れ味は鋭いが、使い方を誤ると全く切れないナイフのよう。第2世代Threadripperは使い手と波長があえば神クラス、そうでなければ……という“紙一重”のCPUといってよいかもしれない。

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