ゲーミングでは32コアは足かせになる
次にゲーミング性能をチェックしてみよう。特に2950Xはゲーマー向けのCPUとして利用に耐えるものなのだろうか?
手始めに定番「3DMark」のスコアーを比較してみよう。このベンチはテスト毎にCPUをフル活用したPhysics(物理演算)テストが入るし、GraphicsテストでもCPUのパフォーマンスが影響してくる。Fire Strike/Fire Strike Ultra/Time Spy/Time Spy Extremeの4つのテストを実施した。
2990WXは全コア稼働時のスコアーが異様に低いが、コア数を2950Xや1950Xと同じ16コアに減らす(1/2モード)と急激にスコアーが上がる。64基も論理コアがあると各コアの負荷が分散しすぎて効率が悪くなる、あるいはコンピュートコアに入ったデータが外部にアクセスする際のパフォーマンスがよくないことが示唆されている。
また、2990WXの1/2モードではどのダイが無効化されるか明言されていないが、外部に繋がるIOダイを真っ先に無効化するとは考えにくい。つまりコンピュートダイを無効化した結果、スコアーが伸びたと考えるのが自然だ。2950Xも2990WXも、16コア32スレッドでは1950Xよりやや上、8コア16スレッドでは2700Xより上のスコアーが出ているなど、クロックやアーキテクチャーが進化した分僅差だが性能が向上している。
では実ゲームベースの検証もしてみよう。まずはマルチスレッド化がかなり進んでいる「Assassin's Creed: Origins」を使用する。解像度は1920×1080ドットに固定し、画質は“中”および“最高”の2通りとした。内蔵ベンチマーク機能を用いて平均fpsを比較しよう。
このゲームは6〜8コアCPUで動かすと全論理コアを均等に使ってくれるのだが、さすがに今回のようなメニーコアCPUだと、使われないコアが多数出てくる。全コアフル稼働状態の2990WXではフレームレートが著しく低下する。しかし1/2や1/4モードを選択することで、1950Xにかなり近いパフォーマンスが得られた。だが1/2や1/4モードでゲームをすることを考えれば、最初から2950Xを買う方が幸せになれることは間違いない。AMDが2990WXのターゲットユーザーを“クリエイター&イノベーター”と主張しているのは、全コアフル稼働状態のパフォーマンスに問題があるからだろう。
CPU負荷のあまり高くないゲームでも試してみよう。そこでもはや定番と化したPUBGこと「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」で試してみた。解像度は1920×1080ドット、画質は“ウルトラ”固定とし、リプレイデータ再生時のフレームレートを「OCAT」を利用して計測した。
さらにメガタスク状態でのパフォーマンスも見るために、PUBGの背後で「Xsplit Broadcaster」を動かし、Twitch配信とローカルへの録画を同時に行う。さらにXsplit上でPUBGの画面の上にプレイヤーのWebカム画像を切り抜き合成するという処理も加えた。切り抜きには「Tridef SmartCam」を利用している。配信の画質設定は5000kbps、録画画質は“Very High”とした。
2990WXの全コアフル稼働ではフレームレートが劇的に悪化するが、1/2や1/4モードになると性能が復活する。特にPUBGでは2700Xに近いどころか、最低fpsで上回る。ダイの少ない2950Xはデフォルトのままでも良好な性能で、ゲーマー向けモデルと謳われるのも納得の性能だ。さらに7980XEをフレームレートで大きく上回っている点も見逃せない。1950Xの時点でほぼ同等、Zen+ベースになった2950Xで完封と言ってよいだろう。
ただXsplitとTriDefによる処理を同時に行った場合は、少し面白い傾向が見えてくる。2990WXの場合全コア稼働より1/2モードの方がフレームレートが上がる点は同じだが、1/4モード、即ち8コア16スレッドで稼働させるとふたたび極端にフレームレートが低下するのだ。
エンコードだけなぜ遅い?
以上の検証でわかった通り、2990WXはCGレンダリング系では最強であることは疑いのない事実だが、動画エンコード系では前世代の1950Xより遅いという結果も出している。その理由は何なのかについてもう少しデータを集めてみたい。
まず考えられるのは、何らかの理由でクロックが上がらないから遅いということ。そしてその第1原因として考えられるのはCPUの発熱だ。TDP250WのCPUがフル稼働した時の温度はかなり高いはず、ということでBlender(レンダリング)とMedia Encoder CC(エンコード)のテストを実行した時に、2990WXの動作クロックと温度を「HWiNFO」で追跡・比較してみる。エンコード時は温度が極端に高くなり、サーマルスロットリングが発生し処理が遅くなったのではないかという仮説を立てた。
BlenderとMedia Encoder CCを選択した理由は、Blenderは1950Xよりも2990WXの方が速く、Media Encoder CCでは1950Xの方が速く、さらに処理終了までどちらも15分〜20分程度かかる。これならCPU温度はしっかりと上がってくれるはずだ。
以降のグラフでは、BlenderおよびMedia Encoder CC実行中におけるCPUのダイ温度と、クロックの推移を掲載する。ただ第2世代Threadripperはコア数が多いため全部グラフに詰め込むと見辛いため、クロックは全物理コアの平均値、Tdieは4基のダイのうち1番高いもの比較することにした。
まずは1/2モード、すなわち16コア32スレッドCPUとした時のTdieとクロック推移を見てみよう。
まずクロックの推移だがBlender処理中では3.8GHz前後、これに対してMedia Encoder CC処理中は4GHzよりやや上をフラフラしている。クロックの中盤にある大きな谷はエンコードの1パスめと2パスめの切り替わりを示している。先程の仮説では処理の遅いMedia Encoder CCの方がクロックが低くなるべきだが、現実は高かった。
そしてこちらはCPUのTdieの推移だ。Blender処理時はゆるやかに上昇する傾向が見られるのに対し、Media Encoder CCは処理の負荷の波に合わせて温度がスパイクのように跳ね上がる。Tdieの値は高い時で75℃を超えるが、高温状態は一瞬で終わる。Media Encoder CCの方が温度変動が激しいが、クロックも高いことから、処理の負荷そのものはBlenderよりも低め、逆にBlenderは密度の濃い処理を連続して行うためにクロックが抑えられていると考えられる。そして処理が(1950X等に対し)高速なのはBlender。Media Encoder CCの処理が遅いのは温度が高いからではなく、処理の効率が上がってないからだと推測できる。
同様に32コア64スレッドフル稼働状態でのTdieとクロックも比較しよう。
全コア稼働状態においても、Media Encoder CCで処理している時の方がBlender時よりもクロックが高く、さらにTdieも低めで安定している。特にTdieは16コア時よりもずっと低い。Tdieの低さが今回の現象を解き明かす鍵になりそうだ。
そこでCPUの“Package Power”なるパラメーターの推移もチェックしてみよう。CPUパッケージが消費している電力を電力や電圧の情報から産出したもので、これが多ければ当然仕事を沢山していると推測できる。
このグラフでは2990WXの16コア稼働時と32コア稼働時をすべて同じグラフに入れて観察している。最初1分程度は数値がゴチャッとしているが、前処理をしている領域をすぎれば一気に数値が上がり、ほぼ横ばいを維持しながら計測終了時点までそれが維持される。
そしてBlender処理時に比べ、Media Encoder CC処理時の方が若干CPU Package Powerが低い。全コアフル稼働時の方が16コア稼働時よりも低くなっているのだ。あえてCGレンダリングと動画エンコード処理の重さを同列に語るならば、現状のMedia Encoder CCはBlenderに比べメニーコアCPUの扱いがやや下手なのかもしれない。
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