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「HAMR」や「MACH.2」などの新技術を実用化、ハードディスクの物理的限界を突破し続ける

1台100TB超の未来も! データセンターHDD「Exos」でシーゲイトが考えていること

2018年08月03日 11時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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約20年間の技術開発を経て実用化、これまでの物理的限界を超える「HAMR」

 さて、HDDのさらなる大容量化を実現するためには、すでに従来技術が到達している物理的限界を超える新技術を実用化しなければならない。簡単に言うと「同じサイズの磁気媒体(円盤状のプラッタ)に対し、より高密度にデータを書き込む」技術を実用化することだ。もちろん大容量化しさえすればよいわけではなく、同時に従来技術と同等の信頼性やコスト性も実現しなければならない。

 HDD業界では、これまで数年ごとに垂直磁気記録(PMR:Perpendicular Magnetic Recording)方式やSMR(Shingled Magnetic Recording)方式といった新たな高密度記録技術を実用化し、従来技術の物理的限界を超えてHDD容量を拡大させてきた歴史がある。

 そして次にシーゲイトが製品化しようとしているのが「HAMR(ハマー、熱アシスト磁気記録方式)」と呼ばれる技術だ。同社では2000年頃にHAMRの技術開発をスタートし、およそ20年間の技術開発投資を行い、いよいよその実用化のめどがついた。2020年に登場するExos X 20TBモデルから、このHAMRが搭載されていく計画だ。

 HAMRの技術的特徴は、その名のとおり「熱」によって媒体への磁気書き込みをアシストする点にある。

 データの磁気書き込みを高密度化するためには、磁気媒体上のできるだけ小さなスポットで磁気極性を反転できるようにすればよい。そのために、これまでは磁気を書き込むヘッドや磁気媒体の表面を覆う磁性粒子の微細化といった技術改良が進められてきた。しかし磁性粒子の保磁力(磁気を保持する力)が弱ければ、スポットが小さくなるほど温度変化や隣のスポットへの書き込みなどの影響を受け、極性(つまりデータ)が書き換わってしまうおそれが高まる。それならば保磁力が強い磁性粒子を使えばよいことになるが、保磁力が強いと今度は書き換えるために大きな磁力が必要になる。微細化した磁気ヘッドでは、いくら電力を上げても一定以上の磁力を出すことができない。

 こうした物理的限界を突破するために、HAMRでは熱を利用する。まず磁性粒子には従来よりも保磁力が強いものを使う。磁気ヘッド上にレーザービームの照射装置を取り付け、ヘッドが書き込みを行う部分をレーザーで瞬間的に加熱することで、その部分だけ一時的に保磁力を弱める(書き換えやすくする)。書き込みが終わるとその部分は数ミリ秒単位で冷え、磁性粒子は元の強い保磁力に戻る。こうした仕組みによって磁気書き込みの高密度化を実現し、なおかつ従来のHDDと変わらない信頼性も確保するという仕組みだ。




 原理だけを見ると簡単そうにも思えるが、これを製品レベルで実用化するためにはHDDのさまざまな構成要素において技術改良が必要だったという。たとえばより高精度にヘッドを動かせるように、アクチュエータ(先端に磁気ヘッドを取り付けたアームの駆動装置)を2段構成にする「マイクロアクチュエータ」を採用した。ごく小さなスポットだけに熱を与えられるように、レーザービームの波長を独自のプラズマアンテナで20ナノメートルまで絞り込んで打ち込み、媒体側もスポット周辺に熱の影響を及ぼさないような素材と放熱構造上の工夫を行った。そのほか、媒体表面の潤滑剤にレーザーの熱を受けても蒸発しないものを採用するなど、従来のHDDでは考慮する必要のなかった新たな課題もひとつずつクリアしてきた。

 こうして20年近くにわたって技術開発を進め、1万台以上のHAMR HDDを試作生産してきた結果、従来のHDDと変わらない信頼性や耐久性を持つHAMR HDDを実現するめどが立ったわけだ。従来方式では1平方インチあたり1.2テラビットの記録が限界だったものが、HAMRの採用によって、現在すでに1平方インチあたり4テラビット程度まで向上しているという。

 さらに、HDDメーカーの業界団体であるIDEMAも記録密度に関するロードマップを明らかにしている。それによると、HAMRを取り込んだ次々世代技術(HDMR:熱アシスト+ビットパターン媒体+2次元磁気記録)によって、2025年には「1平方インチあたり10テラビット超」の高密度化が実現できるとしている。3.5インチHDDに換算すると、1台で100TB超の大容量化が実現する計算になる。そんな未来も、もう現実に見え始めているのだ。

IDEMAが発表している記録密度ロードマップ。今後HAMRが記録密度向上を牽引し、その先はHAMRを取り入れたHDMRにより「1平方インチあたり10テラビット超」が実現する見込み

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