業務を変えるkintoneユーザー事例 第32回
従業員満足度から顧客満足度を上げたハウコム中村氏が失敗事例を披露
「kintoneなんて嫌い」の声を生んだ現場と管理者のすれ違い
2018年07月02日 09時00分更新
2年連続でのkintone hive参加になったハウコムの中村 有輝士氏。1年目は参加者として、2年目となるkintone hive fukuoka 2018では登壇者として、自身のkintone導入経験を発表してくれた。中村さんが披露したのは、kintone導入に失敗した経験談だ。同じような失敗をして欲しくないという思いから、どのような失敗をし、どのように改善してきたかを赤裸々に語ってくれた。
ふとした思い込みから現場とすれ違い、悪循環に陥った導入当初
テンプスタッフグループが2016年7月にパーソルグループと名前を変えた。人材派遣やBPO(Business Process Outsourcing:ビジネスプロセスアウトソーシング)企業が100社近く集まる同グループにおいて、ハウコムはヘルプデスクやサポートデスクに特化したビジネスを展開している。複数の企業から多様な規模のプロジェクトを請け負っており、kintoneはそこで、インシデント管理や問い合わせ管理に使われている。
「プロジェクトの規模は数名から数十名までさまざま、宮崎だけでも約80のプロジェクトが稼動しており、そのうち12のプロジェクトでkintoneが使われています。現場で問い合わせを受けるオペレーターが情報を入力し、マネージャーがその集計結果を見ています」(中村さん)
今でこそ生産性向上や顧客満足度の向上などの成果をもたらすようになったkintoneだが、導入時に中村さんは手痛い失敗を経験した。失敗を招いたきっかけは、ごく単純な思い込みだった。簡単にアプリを作れて、カスタマイズも自由。これだけ簡単なツールなら、使い方は見ればわかる。そう思い込み、管理者側の視点だけでアプリを作り込んでしまったのだ。
「簡単にグラフ化や集計ができるので、いろいろな視点で分析できるように収集するデータを増やしてしまいました。しかも入力する際のことを深く考えずに項目を追加したため、入力順もスクロールに沿っていない部分がありました」(中村さん)
業務の流れの中で、画面を行ったり来たりしながらデータを入力するのは大きな手間だ。情報を参照するために別アプリを開かなければならない部分もあった。そうした手間のせいか、なかなか正確なデータが集まらなかった。きちんとデータを集めたいと、中村さんはアプリを改修して項目をさらに追加、入力の手間が増え続けるという悪循環に陥った。
目的意識を明確にし、現場の意見にも耳を傾けて方向修正を重ねた
中村さんは、kintoneは簡単なツールだという思い込みがあった。もちろん、ノンコーディングで自由度の高い開発ができるという点では、間違っていない。そのツールを使い、多くの時間を費やして組み上げたアプリに、自信も持っていた。それなのに、業務効率向上には結びつかない。なぜだろうと、中村さんは自問自答を繰り返した。
「そんなときにふと思い出したのが、『客はドリルが欲しいのではない。穴が欲しいのだ』という言葉でした。同じように、問い合わせ管理においてもアプリが欲しかった訳ではなく、アプリを使って得られる何か、それが本来のゴールでなければならないと気づいたのです。私はkintoneを使って何を実現したかったのかという原点に立ち返り、真剣に考えました」(中村さん)
kintoneでアプリを開発したのは、簡単に問い合わせの分析をしたかったから。問い合わせを分析するのは、分析結果を返答に活かして問い合わせを抑制したかったから。問い合わせを抑制するのは、業務効率を高めてオペレーターの負担を減らしたかったから。
「当初の目的に立ち返り、私は初めて現場にヒアリングに行きました。オペレーターに、アプリの使い勝手について素直な気持ちを聞きに行ったのです。自分ではそれなりに工夫して作り上げたイケてるツールだと思っていましたが、現場の声は正反対でした。使いづらい、わかりづらい、入力項目が多くて面倒くさい。kintoneが好きで導入した私自身が、kintoneは使いづらいというイメージを広めていたのです」(中村さん)
オペレーターの負担を減らしたいと考えて作ったアプリが、実はオペレーターの負担になっていた。その実態を理解した中村さんは、すぐにアプリ改修に乗り出した。アドバイザーとして選んだのは、コレまでのアプリでも素早いデータ入力が出来ていたオペレーターだ。入力の効率を高める方法について、様々な案をもらったという。アドバイスに従ってアプリを改修しただけではなく、改修後のアプリを使ってみてもらい、効率のいい入力手順を確認。それをマニュアルにして配付した。入力手順を標準化して、アプリをより効率的に使ってもらうためだ。
「単純に項目を減らせば入力は早くなりますが、管理側として必要な項目は削れません。そこで行った主な改修ポイントは次の4点です。1つはレイアウトを見直して横スクロールをなくすこと。2つめはコメント欄を自動で閉じるようにしたこと。3つめは、違うアプリを参照しなければならなかった部分をテーブルとして同じ画面に埋め込んだこと。4つめは、正しいデータを簡単に入力できるよう細かい調整をしたことです」(中村さん)
4つめの正しいデータを簡単に入力できるように、という改良はかなり後半で細かい部分にまで及んでいる。対応履歴を自動入力するアプリを作成したり、よくある問い合わせは別アプリからルックアップで簡単に項目を埋められるようにしたりした。「NOW」というボタンを推せば現在時刻が自動的に入力されるほか、画面に注意書きを加えたりエラーメッセージを書き換えたりといった非機能的な部分にまで改修が行われた。
生産性が高まり従業員満足度が向上、それとともに顧客満足度も向上
改修されたアプリは、オペレーターたちに受け入れてもらえたようだ。アプリ改修後、1件当たりの問い合わせ履歴入力時間は2分程度短縮され、毎月の産業も平均7時間削減できたという。問い合わせ対応やその履歴入力が楽になったことから、オペレーターの従業員満足度も向上した。
波及効果は、問い合わせをする顧客にも及んだ。対応履歴を自動で入力するようにしたことで、1回の電話で課題解決できる割合が約10%向上したのだ。履歴参照を簡単にしたことで、電話の保留時間も10秒ほど短縮された。その成果は、年間のクレームが4分の1に減ったことからも明らかだった。
「ESなくしてCSなし、という言葉の重要性を実感した経験でした。『はたらいて、笑おう』がパーソルグループのスローガンですが、ひとりで笑うのではなく仲間と一緒に笑えることが大事です。マネージャーの役割は、皆がはたらいて笑える環境を作ること。みんなが笑っているのを見ることができて、初めて自分も笑うことができるんだと思いました」(中村さん)
パーソルグループのようなビジネスでは、人がインフラになる。労働人口が減少していく将来、人が減ってもはたらいて笑えるような職場づくりに、業務効率化は欠かせない。今後は「kintoneと一緒にはたらいて、笑おう」を目指したいと中村さんは締めくくった。
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