業務を変えるkintoneユーザー事例 第29回
kintone hive tokyoでポーラが語る「浸透するシステム」
イノベーションを創造するシステムの「シナプス型展開」とは?
2018年06月21日 09時00分更新
2018年6月14日、新木場スタジオコーストにて、サイボウズが主催しているkintoneのユーザーイベント「kintone hive tokyo」が開催された。その中で、5社の事例発表が行なわれたが、今回はその1番手、ポーラのTBエリア統括部 伊藤祐輔氏の発表を紹介する。伊藤氏は販売と営業をサポートするエリア統括部という部署で働いており、業績管理や教育、インフラ構築を行なっている。
情報処理の複雑度「154万2400」とは?
プレゼンのテーマは「シナプス型展開でイノベーションを創造する」で、最初のスライドには、154万2400という数字が大きく表示された。この数字は、「私たちが年間で行なっている情報処理の複雑度を表している」と伊藤氏。ポーラ調べでは、1日平均400ほどの情報を与えられるという。その情報を与えられる場所や取りに行く先は約16ヵ所、そして年間の稼働日数を241日とし、3つの数字を掛け合わせた数字が、154万2400となるというわけだ。
「われわれは無意識のうちに、154万という判断を行なっているのが怖いところです。でも、情報を取りに行く場所を1ヵ所にすると、複雑度が9万6400になり、94%がカットされます。94%の無駄をなくせれば、もっとクリエイティブな仕事に当てられます」(伊藤氏)
ポーラでは、この情報を取りに行く場所を1つに集約するため、kintoneを活用しているのだ。
伊藤氏は、「誰でも正しく」「わかりやすい」「いつでもどこでも」「手軽に簡単」という、4つの要素を基本にして、シンプルワークという働き方の提案を行なっている。
従来、社内でシステムを展開する場合はウォーターフォール型(トップダウン型)が基本。ポーラでもずっとウォーターフォール型での展開が続いていた。しかし、ウォーターフォール型だと、組織や階層、部署、チームなどが増えれば増えるほど、末端に届く情報の量と質が低下するというのが問題点だという。
「皆さんの中にも、こんなにいいシステムなのに、なんでもっと使ってもらえないのだろうか? と思っている人もいらっしゃるのではないでしょうか。弊社でも実際にありました。その理由は、一言で表すと『わくわくしない』からです」(伊藤氏)
ユーザーの期待に添いきれていないから、わくわくしない。具体的には、コンテンツが古くなっているとか、時代に合わせてブラッシュアップされにくいとか、不要なものが残っているとか、必要なものが霞んでしまったりしているため。そして、ちょっとした改修でも大きなコストがかかってしまう。これらがきっかけで使ってもらえないシステムが生まれてしまうという。
わくわくするシステムを実現するシナプス型展開
そこで伊藤氏は、わくわくするシステムを作ろうと考えた。常に新しいコンテンツが湧き上がっており、時代にマッチしたほしいものがあり、重要なものだけが残るというシステムで、最小限のコストで済むシステムを目指した。
しかし問題になるのが、企画・運営とメンテナンスの体勢。従来のように情報システム部が全部担当するのではなく、課題を持っている人がシナプスのように作成者・管理者となり、改善や改革、イノベーションを形にできる体勢が作れれば、わくわくできるシステムになるのではないかと考えたのだ。
「それを実現するのが、このシナプス型展開です。はっきり言って、このシナプス型展開はトップダウン型展開と比べて、時間がかかります。なぜなら、一瞬の打ち上げ花火ではなく、組織や文化を作っていくことになるからです」(伊藤氏)
ポーラでシナプス型展開を実施してから3年が経過している。次のスライドでは、この3年間の稼働/削除/総アプリ数とログイン数が表示された。2015年に導入されてから3ヵ月ほどでぐっと増えたが、そこから2年以上横ばいが続き、2018年2月から急激に増加していた。
伊藤氏は、この横ばいの時期を「浸透期」、ログイン数が跳ね上がり、アプリ数も急増しているこの数ヵ月を「展開期」と呼んだ。浸透期のポイントは、いかにキラーコンテンツを作るかにかかっているという。最初、日報アプリから作り始めた伊藤氏は、kintoneの強みと弱みを理解し、色々なことが実現できるかも知れないと肌で感じたそう。そして、もっと広げたいと思い、営業が必要としていたアプリを開発する。
「営業先で、iPhoneから必要な情報を全部手に入れたい、というニーズに応えたのが、PライブラリとPラーニングアプリです。営業に必要な情報の格納庫で、ここにすべての情報を一元化しています」(伊藤氏)
しかし、アプリを開発したのに、最初はアクセス数がまったく伸びなかった。その理由は、告知をしなかったため。そこで、kintoneの機能を利用し、アプリが更新されたら通知が出るようにした。さらに、社内の施策や教育部門と連動し、ユーザーの口コミを広げるという仕掛けを行なった。「そのおかげで、社内でkintoneの存在に気がついてもらうことになりました。ここに来ればなんでもあるという、弊社でのkintoneのブランディングが完成しました」と伊藤氏。
展開期のポイントは、驚きと感動の共創だという。伊藤氏は日々相談を受けたり、打ち合わせをするが、その場でkintoneアプリを作ってしまう。そうすれば、その場で実際に試用してもらうことができる。すると、「え、こんなことできるの?」や「こんなに早くできちゃうの?」という声がもらえるという。そして今度は作成者側の口コミが広がっていく。
「(ユーザーと作成者の)口コミが広がっていくと、「次もお願いするね」「kintoneだったらできるって聞いたんだけど」「kintoneを使ってみたい」などと、いつの間にか、勝手に依頼が入ってくる仕組みができました」(伊藤氏)
大切なのはイノベーションを起こし続けること
現在では、社内でkintoneが浸透し、アプリ作成の依頼の方が多くなってしまっている状況で、クリエイターが足りなくなっているのが最大の課題だそう。アプリのアクセス数が少ないと困っていたときと比べると、すごい変化だと言える。さらに、クリエイターを増やすためには、kintoneを伝承していく必要があるという。実際、会場には伊藤さんのあとを継ぐ人たちも来場していた。kintone hiveでプレゼンする伊藤氏の姿を見せて、ねずみ算式にクリエイターを増やしていきたいとのことだった。
「複雑で不確実、曖昧、ドラスティック、そんな変化し続けていく社会の中で選ばれ続ける企業になるためには、私たちが変化し続けていかなければいけません。大切なのは、イノベーションを起こし続けることだと感じています。だからこそ、私たちはあえてシナプス型で展開し、シンプルワークを目指して行きたいと思います。すべての従業員が、誰でもいつでもどこでも正しくわかりやすく手軽に簡単に、これを実現できるのがkintoneなのです。人と組織には無限の可能性があると思います。それを引き出してくれるのが生き物のようなkintoneなのではないでしょうか」(伊藤氏)
アプリのアクセス数が少ないと困っているところから、依頼殺到でクリエイターが足りなくなるところまでに至ったストーリーは、これからkintoneを導入しようとしている企業にはとても参考になるはず。もし、いいシステムなのに社員が使ってくれない、と悩んでいるならぜひ参考にして欲しい事例発表だった。
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