●GDPRの次にあたる政策議論:
新しいインターネット
EUはGDPRをつくって終わりではなく、個人を情報の主体とした新しい情報基盤づくりのための政策を進めている。アメリカが主導する現在のインターネットに変わる「次世代インターネット(NEXT GENERATION INTERNET)」だ。プロジェクトにはWWW発案者ティム・バーナーズ=リーなども参加している。
EUはイノベーションプロジェクトに全体で約800億ユーロ(約10兆円)の助成金を用意する制度「ホライズン2020」を実施しており、同プログラムから約8億円の助成を受けたプロジェクトに「デコード(DECODE)」がある。
DECODEでは、適切にプライバシーを保護しつつ、広範にデータを共同利用できる新たな情報基盤によるデジタル経済圏の構築をめざしているという。理想としているのは、企業が個人情報を管理するリスクがなく、個人が企業からプライバシーをおびやかされることがない「Win-Winな世界」(武邑さん)だ。
新しいインターネット世界でビジネスチャンスにつながるのは、自分の個人情報を自分で管理する「データポータビリティ」の考え方だ。
武邑さんが象徴として紹介したのはベルリンのスタートアップ「N26」。スマホのカメラをかざすとわずか8分で銀行口座を開けるモバイルバンクサービスだ。口座の管理機能を個人に与えるのが特徴で、たとえばカードを落としてしまったときに自分でカードを停止できる。これは銀行やカード会社など一部特権企業から個人に情報管理権限をもどすことで生まれてくる新しいビジネスの一例だという。
●GDPRこれからの議論:
AIにもプライバシーを
GDPRではいずれ「AIのプライバシー」も対象になるという。EUでは次なる法整備に向けて「AIに法的な電子的人格を与えることを考慮すべきだ」という報告書が提出され、開発者たちの間で物議をかもしているそうだ。
たとえば、自動運転のロボットが事故を起こしたときにだれが責任を負うか。
今は製造者、役務を命令した人間、自動運転車の所有者、プログラム開発者などの意見があがっている。しかし今後、いかなる人間の指示からも独立した完全自律型のAIができたとしたら、法的責任や法的人格は、他でもないAI自身にあるはずだというのがEUの考えなのだという。
自らのプライバシーをもった完全自律型のAIを想定すると、制御不可能になったとき危険な状態になると開発者は反対する。しかしEUは完全自律型を想定してAIのプライバシーを認めなければ人間とAIのバランスがとれなくなってしまうと主張し、法律として明文化しようとしているというのだ。
完全自律型AIというと遠い未来の話に聞こえるが、武邑さんがAI研究者である東京大学の松尾豊准教授にたずねたところ、AIが意識をもつのは「時間の問題でしょうね」と断言されたという。新しいプライバシー時代はもうすぐそばにきている。