セオリーどおりの構成
当然気合は入っているはずなのだが、まったく奇をてらったところはない。セオリーどおりの構成に、むしろ拍子抜けしたくらいだ。
エンクロージャーは一般的な箱型で、サイズは幅275×奥行き65×高さ144mm。卓上スピーカーとして扱いやすいサイズだが、重量は比較的重い2200g。キャビネットは樹脂やアルミではなく、木質素材のMDFであるところにこだわりを感じる。本体カラーは、テスト機のウォルナットのほかに、シルクホワイトもある。ちなみにメイド・イン・マレーシア。造りはとても良い。
ドライバーは57mm口径のハイレゾ対応フルレンジが左右1発ずつ、そして110mm口径のサブウーファーと、背面のパッシブラジエーターで低域を補強。サブウーファーとフルレンジのクロスオーバーは200Hzというから、フルレンジはかなり下まで頑張っているようだ。
アンプはそれぞれのドライバーを独立して駆動するバイアンプ方式で、出力はフルレンジが10W+10W、サブウーファーが20W。得意のスーパー・チャージド・ドライブシステムは使わず、電源はACアダプターオンリーで、バッテリーは内蔵しない。
CD音源もアップコンバートするハイレゾ仕様
一体型の小型スピーカーでできることは全部やりましたという仕様だが、デジタル機器としての機能は最小限。通話や音声アシスタントのためのマイクもない。
それでいてステレオミニのアナログ入力には、AUX INではなく「AI / AUDIO」と書かれている。どうやら「音声アシスタントが使いたければ、スマートスピーカーの出力をこっちにつないでね」ということらしい。先進機能はあっさりスマートスピーカーに譲る。実にいさぎよい。
あとはペアリングにNFCを内蔵するくらいで、大人しく家で音楽だけ聴いてくださいという仕様である。
コーデックはSBC、AAC、aptXのほか、aptX HD(48kHz/24bit)、LDAC(96kHz/24bit)に対応。本体には、NFCとあわせてハイレゾステッカーも貼られているが、シンプルな外観の邪魔でしかないので、買ったら剥がしてしまいたいところ。
ユニットの特性とともに、96kHz/24bitへアップコンバートする処理も効いているのだろう。カジュアルユースのスピーカーでハイレゾ対応は重視するスペックでもないが、中高音域の解像度は、このカテゴリーの製品の中ではすば抜けている。
日用品としての良さを目指した設計だと思うが、全面左下に並んだボタンは少々使いにくい。特にボリュームボタンはパネルとほぼ面一で、押し込みにくいのだ。普段、音量は再生機器側で操作するものと考えれば問題ではないが、本体側の音量設定は再生機器の操作に追従せず、アナログ的に細かく微妙な設定ができるので、ここは惜しい。
実はコンペチター不在の状況
が、さすがに音は圧倒的だ。
特に7割程度の音量でのバランスが良く、単体のハイファイスピーカー並に上から下まで揃っている。小さいくせに低域の躍動感もあるし、ステレオの音場感も自然。オーソドックスな手法で、ド直球の正義がそこにある。
ただ、最大出力がトータル40Wもあるわけで、普通はそこまで音量も上げない。音量を下げて日常に戻ると、そこそこの「BOSE感」、つまり低域を盛った「ドンシャリ感」が顔を出し始め、正義は足早に去って行く。大入力に対しては、飽和回避のため、盛った部分が引っ込むということなのだ。
しかしながら、過去に存在した製品を振り返っても、クラス最強のBluetoothスピーカーと言ってよい。大小を問わず、BOSEのSoundLinkシリーズは、こんなに高域の解像感はなかったし、音場感もプアだった。これでもっと上が出ればいいのになあ、音広がらないのかなあ、とは常に思っていたところである。
そして、今。このカテゴリーにコンペチターとしてBOSEは存在しない。左右ステレオ一体型は、円筒形モノラルの「SoundLink Revolve+」に代替わりしている。下からの攻め上げがきついのだ。だから、クオリティーを売りにして、新製品を送り込んできたオラソニックはチャレンジャーだと思う。が、同時にチャンスでもある。
もし、大きな音が出せる環境なら「おお、これで3万円か」と納得できる。大いに推したい。残念ながら小さな音しか出せなくても、BOSEの過去作より全然良いので、これも推したい。3万円で買えるプレミアムなBluetoothスピーカーは今これしかない。
四本 淑三(よつもと としみ)
北海道の建設会社で働く兼業テキストファイル製造業者。