制御室はパネルがいっぱい
KAGRAからのデータは、5kmほど離れた東京大学宇宙線研究所・重力波観測研究施設で処理される。データ集積棟内にある制御室には、大型パネルが多く並び、複数人でイベントデータの解析が行なえるようになっており、個別操作端末も基本的にマルチモニター環境だった。
担当の博士によると下の写真の状況でもパネルが足りないそうで、今後、さらに増設する予定とのこと。あらゆる壁面をパネルで埋めたいとのことなので、本稿を見ているであろう各メーカーさんは寄贈してみてはいかがだろうか。性能重視ではなく、フルHDで大きくて映るだけのパネルで十分なのだそうだ。
OSはGentooにリアルタイムパッチを当てたもので、観測時に使用するのはEPICS(Experimental Physics and Industrial Control System)。大規模実験機器を運用するための分散制御システム向けに開発され、信号のデータベース的でもあり、加速器や望遠鏡などの施設ではおなじみのものなのだそうだ。
このEPICSをフロントエンドとして、KAGRAからのデータを得たり、機器の制御をしている。制御に関してはリアルタイム性能が要求されるため、冒頭で紹介したサーバールームの大半は、そのために使用されている。
制御は数百のオーダーがあり、かつ遅延を含めたうえでのオペレーションが要求される。サファイア鏡は4つあると記したが、それぞれを電磁誘導で向きを調整しているが、これを実験の間つねに調整をかけ、各アームにあるふたつのサファイアミラーの間の距離を光の波長の整数倍であるようにキープしなくてはならない。
さらにビームスプリッター周辺にある折り返し用の鏡の制御や、角度を調整する機器なども、常時調整をかける対象である。そのため、現在、EPICSを制御するプログラムを開発中なのだそうだ。
なお制御系を解説してくれた博士は、長年のASCII読者。TECHタブの読者が好きそうな話がいっぱい出てきていたので、何かの機会でまた紹介することもあるだろう。
さて。重力波が観測された際の信号は、すでにLIGOが観測したデータがあるだけでなく、その信号自体も、観測する場合はこういった波形になるだろうと予想されていたものだが、2017年11月現在は中性子星の合体とブラックホールの合体のふたつだけで、総数は6つ。
超新星爆発のものは予想はされているが、観測されるまでは予想と一致しているのかもまだわからない。そのため、重力波と思わしき信号を観測したら、ひとつひとつ精査していくそうだ。
このとき、他の重力波望遠鏡とネットワークを組んでいると、具体的な方向がわかるほか、精査精度も向上する形だ。また観測数が増えていくと、過去のデータから観測できていたことが発見される可能性もある。
そのため、データはなるべく残しておきたいそうだが、年間1PBほどになる見通しで、目下、保存容量の確保が課題となっている。ちなみにキャッシュ構成は、サーバーに20TB、制御棟に100TB、東京大学宇宙線研究所柏キャンパスに3.5PBとなる。
運転開始は2018年度内から
KAGRAは2017年8月の取材時点で、最終構成に向けて急ピッチで建設が進んでおり、試験運転は2018年度内からの予定で、本格的な実験開始は2019年内からとなる。現地では、あと2年半が勝負といっていたが、試運転での性能は上々であり、段階的に想定している感度にまでに上昇させていけるとのことだ。想定では年間に10数回の観測が期待されており、LIGOやVRIGOとの共同観測でより精度の高い情報を得られるだろう。
一般公開は過去に2度実施されているが、3回目は不明。飛騨市のウェブサイトをチェックすることになるが、宇宙線研究所VRで内部の探検も可能だ。
本稿を読んだ後であれば、見えにくい部分も脳内補完できるだろう。また寄付をした人向けの見学会の開催も過去にあったので、実際に見たいのであれば、もりっと寄付をするのもアリだ。