近年の天文学のホットワードとして「重力波」がある。2016年にアメリカの重力波天文台LIGOが直接観測して注目を集めたほか、2017年にはLIGOが重力波の直接観測でノーベル賞を受賞、2017年10月には、LIGOとイタリアのVIRGOが中性子連星の衝突による重力波を観測している。
またその情報を元に電波望遠鏡や光学望遠鏡などが参加する観測する本格的なマルチメッセンジャー天文学の幕開けにもなった。といったように短期間で劇的な変化が起きている。
日本でも重力波望遠鏡は建設中であり、岐阜県神岡町旧神岡鉱山内にある。今回は、大型低温重力波望遠鏡KAGRA(カグラ)の内部を取材できたのでレポートしていく。
スーパーカミオカンデと同じ敷地内にある
大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」
スーパーカミオカンデやカムランドが設置されている旧神岡鉱山内に大型低温重力波望遠鏡、愛称「KAGRA」がある。公募にあった「神楽」と神岡(KAMIOKA)と重力波(Gravitational wave)から命名されており、すでに観測を開始しているLIGOやVIRGOよりも高性能な重力波望遠鏡として建設が進んでいる。3施設以上ないと正確な方向を掴めないため、完成後はLIGOやVIRGOと協力して、観測をしていく予定だ。
重力波の観測により、強い重力場での一般相対性理論の正しさの証明や、ブラックホールが誕生する瞬間の研究につながることが期待されている。
また光やX線では観測できなかった宇宙の過去も観測対象となり、名前だけはメジャーだが、謎だらけのビッグバンの瞬間を知ることもできると期待されているなど、これからの天文学で重要視される観測方式でもある。これは上記したマルチメッセンジャー天文学で、すでに明瞭な1歩を踏み出している。
先に重力波について触れておこう。1916年にアルベルト・アインシュタインが一般相対性理論を軸に存在を予言していたのが重力波で、アインシュタイン曰く「重力とは、時空の歪み」である。直接観測に成功したのは、約100年後の2015年9月14日。正式発表は2016年2月11日に行なわれた。
重力波とは身近なものだ。ぐるんと腕を回すだけで時空が歪み、重力波が生じている。ただあまりにも振幅が小さく、現在の科学技術では観測できない。そこで、大規模な天体現象、たとえば超新星爆発だけでなく、中性子星やブラックホールの合体などであれば、観測できるだろうと考えた。お風呂に一粒の塩を入れたとした場合、波紋はとても小さいが、人ひとりの場合はどうだろう?
2015年に直接観測された重力波は、約13億光年離れたところでふたつのブラックホールが合体し、太陽の約62倍の質量を持つ巨大なブラックホールになった際に生じたもの。
重力波による変化は値にすると、目安として約1.5億kmある太陽と地球の間が、水素原子1個分である0.0000000001mの伸縮をするほど。極めて微細な変化となる。
また上記のような大規模な天体現象が起きる確率は、たとえば、中性子星同士の合体の場合は1銀河あたりで見ても10万年に1回あるかないかであり、その打率を上げるべく多くの銀河を観測対象としている。
そのためKAGRAだけでなく、LIGOは基線長4km、VIRGOは基線長3kmと巨大だ。ちなみに、先行研究としていまの重力波望遠鏡の基礎を固めた国立天文台三鷹キャンパスのTAMA300は、基線長300mで天の河銀河内で中性子星の合体時(10万年に1回くらい)に生じる重力波を観測できるほどとされる。