いま聴きたいオーディオ! 最新ポータブル&ハイエンド事情を知る 第12回
小型なのに高機能かつ高音質
ハイレゾ機の新定番、「AK70 MKII」は最上を気軽に持ち運べる (3/6)
2017年11月12日 12時00分更新
新旧フラッグシップのエッセンスを凝縮
さてここからが本題だ。外側からは見えにくいAK70 MKIIの内部の改良点、そして音質について紹介する。コンパクトな筐体でありながら、Astell&Kernの最上位機で培った高音質設計がきちんと凝縮されている点に注目したい。持ち運びの快適さを実現しつつ、音の面でもプレミアムに仕上げた。ここがポイントなのだ。
内部の変更は大きく2点。少し詳しく書くと、高音質化のために「デュアルDAC」を搭載、「アンプの高出力化」も図った。
D/A部は従来シングルで利用していたシーラス・ロジックのDACチップ「CS4398」を2基に増やして、発売時20万円を超えていたAK240(やAK120II)と同等の構成にしている。
アンプ出力に関しては、バランス駆動時の実効電圧が4.0Vrms(無負荷)と現行フラッグシップのSP1000並みになっている。さらにノイズの大小を示すS/N比(アンバラ:118dB/バランス:119dB)や、歪み率THD+N(アンバラ/バランス:0.0005%)も大幅に改善。こちらも圧倒的なパフォーマンスを誇るSP1000と比較しても遜色ない数値だ。
いわば最新世代のSP1000と第2世代のAK240という新旧2つのフラッグシップ機の仕様を受け継いだ形だ。特にアンプ部分に関してはSP1000との共通性が極めて高く、出力インピーダンスの特性や音質傾向なども近い。
Astell&Kernのアンプ設計の考え方は、どうもSP1000を境に転換があったようだ。SP1000は第3世代のフラッグシップ機「AK380」と比べて飛躍的な進化を遂げた印象がある。その理由のひとつがアンプの改善だったので、AK70 MKIIの再生品質も大きく向上するのではないかと期待が持てる。
ちなみに、3.5mm3極のアンバランス駆動時と2.5mm4極のバランス駆動時で出力が倍になり、同じ位置でも音量にはかなりの差が出る。従来はバランス駆動とアンバランス駆動で出力の差が少なく、同じ音量位置にすれば機種を問わず近い大きさの音が出ていた。このあたりからも第2世代・第3世代のAKシリーズとの違いが感じ取れる。
なお、再生可能なフォーマットはAK70と同様でPCMは最大384kHz/32bit、DSDが最大5.6MHzと同様だ。DACを変更するなどして、カタログスペック上、派手で分かりやすい対応フォーマットの拡充に手を入れるのではなく、ポータブルプレーヤーで最も大事な音の部分の改善に力を集中してきた点が興味深い。
派手な改善ではなく、実を取った玄人的な仕事を垣間見る
以上をまとめつつ、改良ポイントについて別の見方をすると、以下の2本立ての改良という見方ができる。AK70 MKIIにおけるデュアルDACの搭載は「基礎体力の向上」、アンプの変更は「新世代サウンドの導入」だ。
DACのデュアル化は、GNDまで含めて左右を完全に独立させることで、上流の部分で精度を高める試みだ。セパレーション、S/N比、ダイナミックレンジなどが改善し、低歪み化もできる。デジタル機器の進化は速いが、AK70 MKIIは第2世代機で採用したCS4398の路線で蓄積をコツコツと積み重ねている。デュアルDAC化によって、回路規模は大きくなり、消費電力の面でのデメリットが出てくるが、そこは地道な調整で対応する。
これに最新世代のアンプを組み合わせて、余裕をもってイヤフォン/ヘッドフォンの音に変えていく。機能だけ見ればAK70とほぼ同等であるため、ややもの足りなく感じる読者がいるかもしれない。しかし電力消費の増加に対応するため、筐体サイズを維持しつつバッテリー容量を増やしたり、基板を新規に起こしたりなど、玄人好みの変化がある。
筆者としてはこのあたりに開発者の熱意を感じたりもした。
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