Microsoft Cloudを活用して金融市場のデジタル変革を支援
日本MSとNRI、「金融デジタルイノベーションコンソーシアム」を設立
2017年10月31日 12時00分更新
日本マイクロソフトは10月30日、金融市場においてデジタルトランスフォーメーション(変革)を推進する「金融デジタルイノベーションコンソーシアム(以下、FDIC)」を2017年11月1日に設立することを明らかにした。野村総合研究所(NRI)が推進役、日本マイクロソフトが事務局を務め、インテック、インフォシスリミテッド、新日鉄住金ソリューションズ、電通国際情報サービス、日本システム技術、日本ビジネスシステムズ、日本ユニシス、ニューメリカルテクノロジーズ、FIXERが参画する。
FDICは、(1)2018年4月改定予定のFISC(金融情報システムセンター)安全対策基準におけるセキュリティやコンプライアンス対応への配慮など、金融機関での利用要件を充足するクラウド基盤の標準化を目指す「金融クラウド活用」、(2)金融機関における生産性向上や営業支援、顧客接点の強化、規制対応など高度なデータ活用におけるデジタル変革を推進する「高度なデータ活用」、(3)AI(人工知能)や深層学習、ブロックチェーンなどIT技術を活用し、新たなビジネスモデルの開発を目的とする「フィンテック関連新技術」---の3つを目標に掲げて活動する。
日本マイクロソフトは2018年度、金融、流通・サービス、製造、政府・自治体、教育、ヘルスケアの6分野に注力することを明らかにしているが、今回のFDIC設立もその戦略に沿った活動の1つだ。同社執行役員 常務 パートナー事業本部長 高橋美波氏の説明によれば、金融業界でもMicrosoft AzureやOffice 365といった"Microsoft Cloud"の導入事例が増えている。
米Bank of Americaは約20万人の従業員がOffice 365を利用し、ワークロードの80%をクラウド化。印State Bank of Indiaも30万人の従業員がOffice 365とモバイルソリューションで働き方改革を実現した。スイスUBSと仏Societe Generaleは、それまで数時間を要した与信など顧客の待ち時間を数分に短縮した。米TD Bankも店頭に足を運ばなくともオンラインで完結する金融サービスを構築。ポルトガルの農業専門の金融機関であるCredito Agricolaは、OSS(オープンソースソフトウェア)を活用して、個人顧客と法人顧客の垣根を取り払い、ウェアラブルデバイスの活用など実施しているという。
日本マイクロソフトがアジア13カ国を対象に金融業界におけるデジタル変革への理解度を調査したところ、重要性を理解していると回答したのは81%にも及ぶ。その内訳として全体的な戦略があると回答した企業は31%、戦略を検討中と回答した企業は34%、戦略を持たない企業は16%。各企業はATMの予兆保全や信用評価などには"IoT"、トランザクションデータを用いてサービス向上や業務改善には"AI"、チャットボットなど多彩なIT技術で金融商品を身近な存在するため、"次世代コンピューティング"に注目していると回答した。
このように多くの金融機関がデジタル変革を目指しているが、「問題はサイバーセキュリティ。多くの顧客がクラウド移行に不安を感じている」(高橋氏)。そのため日本マイクロソフトは金融機関のデジタル化支援の一環として、技術支援や勉強会の支援、最新技術の共有、そしてコミュニティ間の連携拡大などをFDICを通じて取り組んで行く。
FDIC設立の背景や目的については、推進役を務めるNRI 執行役員 金融ITイノベーション事業本部 副本部長 横手実氏は、「IT基盤市場がクラウド市場へ、広告市場がネット広告市場へと変革することで、他業種はデジタル変革で1兆円規模の市場に成長した。金融業界もフィンテックという文脈で新市場が形成されつつあるが、10年を待たずに(金融市場が)1兆円規模に達するだろう」と説明した。
横手氏は、金融市場が1兆円規模に成長するには金融業界が供給者論理から利用者本位へ意識を転換させなければならないと指摘する。クラウド市場やネット広告市場などと同様に、金融業界も「細かい単位でサービスを利用できる『小ロット』、必要なサービスがいつでも利用できる『迅速・簡便』、使った分だけ支払う『変動費』によってコストダウンし、『低価格』を実現できる」(横手氏)と述べた。FDICでは、金融クラウドWG(ワーキンググループ)や高度データ活用WG、新技術WGを立ち上げる予定だ。「参画企業と議論を重ねながら、地に足が着いた活動を目指す」(横手氏)。
FDICは設立して間もないため、施策や成果物といった具体的活動は11月以降に参画企業同士で決めていくという。横手氏は、「NRIは多数の金融機関業務を通じて、ノウハウを持つ社員を多く抱えている。この点を強みとして参画企業と共に非競争領域で積極的に取り組む」とソリューションではなくビジネス変革の方向性をFDIC内で議論していくと述べつつも、参画企業に金融機関が含まれていないことについては、「我々の顧客や各パートナーの顧客を通じて、(金融機関へ)具体的な話を提示して頂きたい」と弱気な面が見え隠れした。
日本マイクロソフトは過去に取り組んできたIoTやIDセキュリティといった共創活動の知見を活かしつつ、3カ月に1回程度の勉強会や、年に1~2会の報告会を目標に活動する。