ペンでOS操作を可能にした
ThinkPad
IBMのThinkPadはやや遅れて同年4月に、ThinkPad 700として発表され、6月から出荷された。
画像の出典は、1000BiTで公開中のThinkPad 700Tのカタログ
ちなみにThinkPad 700Tのスペックをまとめると、CPUがi386SX/20MHz、メモリーは4MBか8MB、液晶はVGA(640×480)のモノクロSTN、ストレージは10MBのSolit State File Card×2、バッテリーはニッケル・カドミウム充電池で利用時間3時間といったところ。
寸法は12.4×9.4×1.6インチ(31.5×23.9×4.1cm)。重さは公式の記述を見つけられなかったのだが、今の基準からすれば相当重かったのは容易に想像が付く。
Lenovoのソフトウェア・マーケティング・マネージャーであるHoward Dulany氏が2010年にこのThinkPad 700Tを紹介する動画がYouTubeに上がっているが、写真でみるよりも2まわりくらい大きい代物であることがわかる。
もっともこれ、ThinkPadがとりたてて大きいわけではなく、他社の製品も似たり寄ったりである。例えばNCR 3125は11.7×9.4×1.1インチ(29.7×23.9×2.8cm)で、重量は1.5kgと一回り小さかったが、この寸法にバッテリーパックは含まれていない。
バッテリー寿命は非常に短く、これもあってNCRはバッテリーパックを大容量化したNCR 3130を用意したが、こちらはもうThinkPad 700Tとさして違いがない大きさと重さになったそうだ。
要するに、1992年当時の最先端の技術を投入しても、これ以上小さく、軽量にはならなかったということだ。
余談だが、このNCR 3125は1992年にグッドデザイン賞を受賞しているが、国内での価格は82万3000円だったそうである。
これらのマシンの上ではGo Corporationが提供するPenPointが動作した。PenPointはOSそのものであり、例えばMS-DOSやWindowsの上で動いたわけではない。このPenPointではどんなことが可能だったかはGo Corporationが作成したデモビデオがYouTubeで公開されているから、興味ある方はご覧いただきたい。
基本的にはキーボード+マウスの操作を、すべてペンでまかなうことが可能になっている。とはいえ、すべてのアプリケーションをGo Corporationで提供するのはもちろん不可能であり、同社はAPIを公開してさまざまなアプリケーションベンダーに協力を募った。
1992年2月頃のリストで言えばCompsoft Services、Ink Development Corp、Nortable Technology、PenMagic Software、Oracle、PenStuff、PenSoft、Peripheral Vision、SitkaといったベンダーがGoPoint向けのソフトウェアを開発することを表明しており、このうちInk Development CorpはInkWare Note Takerを早いタイミングで公開している。
画像の出典は、“Google BooksのInfoWorld 1992年4月20日号”
保険会社とインテルの要求により
必然的に決まった筐体サイズ
やや話を戻すと、どうしてこんなサイズになったのか? であるが、実はこれは投資とユーザーの声の両方が関係している。話は1989年に戻るが、Kaplan氏はさまざまなグループに投資を呼びかけるべく、米国中を回ってプレゼンテーションしていた。
このプレゼンテーションに興味をしめしたのが、当時としては米国1・2を争う規模の損害保険会社であるStateFarm Insuranceであった。当時同社は数万人の保険外交員の書類手続きを紙ベースから電子化させたい(ただしそれをオフィスではなく現場で行ないたい)という切実なニーズを抱えていた。
StateFarmはGoPointを搭載したノートで、これを実現できる可能性を見出し、同社と取引のあったIBMとHPの2社を提携先として提案、最終的にGo CorporationはIBMを選んだ形だ。提案されたIBMやHPにしても、StateFarmが機器を購入してくれるというのであれば問題はないし、さらに他の用途にも使えると考えられたから悪い話ではなかった。
ちなみにIBMは他にもOS/2の開発なども進めており(この話はマイクロソフトのWindows 3の開発と絡んで、これまた大きな問題になっていたわけだが、今回はこの話は割愛する)、そうした面での色気もあったように思われる。
もっともIBMの場合、この頃のCEOだったAkers氏は他にもいろいろな事業に手をだしまくり、結果1993年に更迭されたりしており、そういう意味ではIBMではなくHPと組んだらまた別の展開があったのかもしれないが、その話もおいておく。
結局のところGo Corporationは担当となったJames Cannavino氏(当時のIBMのPC部門のトップ)との間で長い契約に関する交渉の末、IBMからの投資を受け取れた。これに加えStateFarmと、さらにインテルからの投資を受けることにも成功する。
ただインテルの投資は、386SXを使うという紐付きのもので、これが理由で第一世代のGoPoint搭載マシンは386SXが採用されることになった。またStateFarmの投資を受けるということは、StateFarmのニーズが反映されるということでもある。
先も書いたが、StateFarmは保険外交員が契約書や損害見積りなどの書類を出先で作ることにあり、そうするとどうしても画面サイズは大きくならざるを得ない。結果、VGAサイズの液晶画面は必須となり、それと386SXの組み合わせでほぼ筐体サイズが決まってしまった形だ。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事
-
第868回
PC
物理IPには真似できない4%の差はどこから生まれるか? RTL実装が解き放つDimensity 9500の真価 -
第867回
PC
計算が速いだけじゃない! 自分で電圧を操って実力を出し切る賢すぎるAIチップ「Spyre」がAI処理を25%も速くする -
第866回
PC
NVIDIAを射程に捉えた韓国の雄rebellionsの怪物AIチップ「REBEL-Quad」 -
第865回
PC
1400WのモンスターGPU「Instinct MI350」の正体、AMDが選んだ効率を捨ててでも1.9倍の性能向上を獲る戦略 -
第864回
PC
なぜAMDはチップレットで勝利したのか? 2万ドルのウェハーから逆算する経済的合理性 -
第863回
PC
銅配線はなぜ限界なのか? ルテニウムへの移行で変わる半導体製造の常識と課題 -
第862回
PC
「ビル100階建て相当」の超難工事! DRAM微細化が限界を超え前人未到の垂直化へ突入 -
第861回
PC
INT4量子化+高度な電圧管理で消費電力60%削減かつ90%性能アップ! Snapdragon X2 Eliteの最先端技術を解説 -
第860回
PC
NVIDIAのVeraとRubinはPCIe Gen6対応、176スレッドの新アーキテクチャー搭載! 最高クラスの性能でAI開発を革新 -
第859回
デジタル
組み込み向けのAMD Ryzen AI Embedded P100シリーズはZen 5を最大6コア搭載で、最大50TOPSのNPU性能を実現 -
第858回
デジタル
CES 2026で実機を披露! AMDが発表した最先端AIラックHeliosの最新仕様を独自解説 - この連載の一覧へ











