ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第425回
業界に痕跡を残して消えたメーカー 優秀なマシンを輩出するも業績に悩まされたApollo Computer
2017年09月18日 12時00分更新
プロセッサー開発で
ライバルに遅れをとる
DN2/3/4xxxシリーズの投入あたりから次第にApolloはジリ貧に陥った。1980年代中旬、ワークステーションの市場はApolloとHP、Sun Microsystemの3社がそれぞれ20%ほどのシェアを握るという3強状態になっていったが、ここからSun Microsystemsが抜け出すことになる。
理由は簡単で、SPARCチップを採用して、性能を大幅に引き上げたことだ。HPはPA-RISC 1.0を1986年に発表したものの、現実的な構成となるPA-RISC 1.1に準拠するPA-7000の発表は1991年までずれ込んでおり、やはりこれが理由でシェアを落としている。
一方のApolloはというと、68030に続く弾をすぐに用意できなかった。MotorolaはMC68040の開発に難航しており、製品がリリースされたのは1990年のことである。
Sun Microsysyemsは1987年に20MHz駆動のSPARCを搭載したSPARCstation 1をリリースしており、性能は0.67 DMIPS/MHzほどだったらしいのでおよそ13.4 DMIPS。対するApolloの側はDN4500であっても0.36 DMIPS/MHzほどなので12 DMIPS弱である。Sunの方はこのあと急速に性能を上げていくが、Apolloの側は68Kに頼っている限り頭打ちは明白だった。
これもあってApolloは、後継となる製品向けのプロセッサーを自社で開発する。開発コード名はA88K、製品名がPrismというのは非常に誤解を招きやすいが、これは88K(MotorolaのMC88000)とも、DECでAlphaの元となったPrismとも無関係である。
画像の出典は、Apolloの“The Series 10000 Personal Supercomputer -Inside a New Architecture-”
中身は、RISC風の命令セットをVLIW式に実行するという、RISCとVLIWの中間的な構造だった。おそらく今なら、例えばALU命令とロード/ストアー命令をスーパースカラーの形で実装するわけだが、当時はスーパースカラーの実装がまだ困難だった。
代わりにVLIWにしてALUとロード/ストアーを別スロットとすれば、(命令長が大きくなるのは別として)スーパースカラーと同じように並列実行できて性能も上がる、という仕組みだ。ただ、なにせ1980年代のことであるから、すべてをワンチップ化は到底不可能である。したがって上の画像のようにマルチチップ構成となった。
まず下の画像が全体の構成である。理論上1サイクルでInteger ALUとFloating Point AUL/MULが同時に動くので、3命令同時実行可能なプロセッサーということになる。
画像の出典は、Apolloの“The Series 10000 Personal Supercomputer -Inside a New Architecture-”
Integer ALUそのものはシンプルな構成であり、これはFPU(Photo05)も同じだ。ただIntegerに関しては32個の32bitレジスターをチップ内部に納められたが、フローティングポイント用の32個の64bitレジスターはさすがにチップに納まらず、外付けとなっている。
画像の出典は、Apolloの“The Series 10000 Personal Supercomputer -Inside a New Architecture-”
さらに、これ全体を管理する別チップも用意されるという仕組みだ。こんなにチップ数が多いと動作周波数があげられるか心配になるのだが、それでも18MHzで動作したそうだから、悪い数字ではないかもしれない。
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