事例に厚みが増したAWS Summit 2017レポート 第9回
ロボットとデジタルビジネスの接点にAWSを活用
高齢化・労働力不足の農業をヤンマーのロボットトラクターは救えるか?
2017年06月22日 07時00分更新
AWS Summit 2017の事例セッションに登壇したヤンマーは、高齢化・労働力不足に陥る日本の農業をテクノロジーで支えるロボットトラクターについて講演。AWSを用いた認証とデータ同期のシステムについても言及し、デジタルビジネスにおけるクラウドの重要性をアピールした。
高齢化・労働力不足に陥る日本の農業を救えるか?
創業105年を迎えるヤンマーは、全体4割を占めるアグリ事業を中心に7つの事業を手がけている。ヤンマーと言えばトラクターが有名だが、食料生産技術とエネルギー変換技術をコアに小型・大型エンジン、建設機械、エネルギーシステムなどを幅広く手がけている。「ヤン坊マー坊で知られているが、天気予報の会社ではない(笑)」とはセッションを担当した横山氏の弁だ。
ヤンマーのアグリ事業はドイツから輸入した1933年ディーゼルエンジンの小型化からスタートしており、この小型ディーゼルエンジンを作業機に搭載。1966年にディーゼル耕うん機、1967年に田植え機と種まき機、そして1968年にトラクターを立て続けに製品化し、農作業を大幅に省力化してきた。最新機種ではキャビンやエアコンも付いており、快適に農作業が行なえますという。そんなヤンマーが現在開発しているのが、農作業の省力化・自動化まで可能にするロボットトラクターとICTの活用だ。
農業を取り巻く環境の変化は激しい。2050年、世界の人口は今より20%増えるが、耕地面積は3%しか増えない。もっとも大きいのは農業人口の減少で、少ない農業従事者が、増え続ける食料需要をまかなわなければならない時代に突入する。「現在、日本の農業従事者の平均寿命は66歳で、高齢化が進んでいます。これはあくまで平均なので、実際は70歳代の方も多い」と横山氏は警鐘を鳴らす。これに対してヤンマーは「持続可能な農業」を掲げ、製品とサービスを組み合わせ、農業従事者をトータルでサポートしていくという。
担い手が少なく、労働力不足に陥る日本で持続可能な農業を実現するには、やはり農業の省力化と作業時間の短縮を進め、労働力を節約する必要がある。また、経験や勘に頼らない匠の技術を科学的に明らかにし、誰でも利用可能にし、さらに3K(きつい、汚い、くさい)といったイメージを払拭し、新規就農を増やしていかなければならない。こうしたことを実現する施策の1つとして、ヤンマーが開発したのがロボットトラクターである。
人間との協調動作するヤンマーのロボットトラクター
では、ヤンマーの考えるロボットトラクターとはなにか? 現時点でのロボットトラクターは、人とロボットが協調することで、「誰でも」「正確に」「効率よく」農作業を行なえるトラクターを指すという。
実はロボットトラクターと言っても、いくつかのレベルがある。ヤンマーが農水省とともに考える農機の自動化レベルは、使用者の操舵を補助するレベル1、使用者の監視下で無人自律走行を行なうレベル2、そして完全無人で自律走行を行なうレベル3の段階に分けられる。つまり、ガイドライン上は一足飛びに完全無人のトラクターまで行けないというわけだ。
レベル1はすでに実用化しており、GPSのガイダンスシステムを元に電動モーターが自動操舵してくれるため、事実上手放しでの作業が可能。「手動で300mをまっすぐ走るのは実は難しい。でも、自動操舵であれば、まっすぐ進めるので無駄なく作業が行なえる」(横山氏)。同社の最新トラクターではすでに標準搭載されており、農家にも喜ばれているという。
レベル1の自動操舵では、作業は楽になるし、正確性も増すが、効率性にはつながらない。そこでレベル2では有人と無人のトラクターを2台用いて協調動作させる。「ほ場は公道ではなく、あくまで私有地なので、ある程度自由に動かしてもよいのではないかと提案し、農水省から許可を得た」ということで、実験にこぎつけたという。
具体的にはタブレットで作業工程を設定しておき、無人トラクターに作業をインプット。衛星で位置をトラッキングしながら、有人トラクターが無人トラクターを監視しながら、2台で作業を進めるというやり方になる。これが実現すると、1人のオペレーターで2台のトラクターを同時に動かして、作業効率を向上させることができる。さらに有人トラクターで砕土作業、無人トラクターで施肥・播種といった具合に2つの異なる作業を1人で行なうことも可能になる。「ロボットトラクターは直進できるので、その後を追えば正確に直進できる。晴れている日にまとめて作業を進めることができるので、天候に左右されにくい」(横山氏)など、いいことずくめだ。
実際、1.5haあたりのロータリー作業で調べたところ、有人機単独で3時間7分かかった作業は、無人機・有人機の協調作業では1時間48分で完了。作業時間を約48%短縮でき、大幅な省力化が実現した。実際、昨年はロボットトラクターの先駆性が評価され、農水省から表彰を受けたという。今後は完全自動化に向けた取り組みを推進していくと説明し、横山氏のパートは終了した。
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