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実績と未来を見せた「AWS Summit 2016」第6回

最高級の苺を作る現場より

「農業分野のIoTでも使いやすい価格を!」AWSへ要望

2016年06月06日 15時30分更新

文● 川島弘之/TECH.ASCII.jp

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 AWS Summit 2016で「大きくて赤くてツヤとハリのある苺を増やすプロジェクト」と題されたセッションが開催された。「AWS IoT」の活用事例を紹介する。

 登壇したのは、コンピュータソフト開発関連事業を展開する開仁産業の社内ベンチャーとして立ち上がったCF-K 取締役の山本文洋氏。開仁産業では2016年度よりIoTの取り組みをスタート。AWSなどのクラウドを利用した自社サービス開発など、CF-Kが一手に引き受ける。

CF-K 取締役の山本文洋氏

 最初に目指したのが、農業の革新だ。農業は労働者不足、後継者不足、労働管理、収益改善などさまざまな課題に直面している。それをIT技術でサポートしようと考えた。

 「IoTで情報の可視化し、勘や肌感覚を明確な数値にし、農業環境の改善に役立てる。さらに機械学習によってノウハウを抽出し、得られたノウハウから収穫時期・収穫量の予測や遠隔支援を実現。その成果を『CFK-IoT』として体系化し、他の作物や別業種にも応用できるようにしたいと考えている」(山本氏)

農業の問題をIT技術でサポート

 そのパートナーとして選んだのが、茨城県鉾田市の村田農園。ビニールハウス50棟の規模を持ち、日本でも有数のクオリティを誇る苺専業農家だ。その「大きくて赤くてツヤとハリのある苺」は銀座千疋屋、ザ・ペニンシュラ東京、ザ・リッツ・カールトンホテルなどに卸されている。

茨城県鉾田市の村田農園

 そんな村田農園が抱える課題は、第一に忙しいこと。年間を通してイレギュラー対応も含め、24時間365日の運用保守のような状態が続き、なんとか負荷低減を実現したい。第二にいかに最高級品を増やすか。現在、直接取引できる最高級品の生産量は1割未満。村田農園の苺は、通常でも一般農家の2倍の値が付くが、最高級品となるとさらに2.2倍の値段が付くという。高品質化の取り組みはそのまま収益アップにつながると山本氏は説明する。

いかに最高級品を増やすか

 本プロジェクトでは、これらの課題を考慮し、次のような成果を目指す。まず、職人の経験・勘で行なわれていた農作業を数値化・数式化し、実際の環境データからモデルを作成。新規就農者の参入ハードルを下げるとともに、海外などへの遠隔育成支援も可能にする。

 その仕組みを実現するのが、「AWS IoT」を中心としたAWSの各種クラウドサービスだ。ハウス内に大気の温湿度、土壌の水分量、日照量などの各種センサーを設置し、農作業履歴も含め、AWS IoTに一元集約する。逆にクラウド側からは制御装置を通じて、水分量やCO2、日照量などをコントロールする。

センサー概要

 「AWS IoT」に集約されたデータは「AWS Lambda」経由で「Amazon S3」や「Amazon RDS」にデータを集約。また、モバイルデバイスと連携するWebシステムも構築し、環境データについてあらかじめ設定された閾値を超えた場合に、「Amazon SNS」で通知を行う仕組みを備えた。背後には「Amazon Machine Learning」も配置し、「蓄積された環境データと農作業履歴をひも付け、ある作業をしたきっかけ、その作業が必要となった要因などを分析。これにより客観的な状況を基に、各作業タイミングを判断し、具体的な指示ができるようにしたい(山本氏)という。

システム構成図

 本プロジェクトで見込まれる効果は以下の通りだ。

  • 農業従事者・後継者の教育費削減
  • 新規就農者の参入ハードル低減
  • 作業効率化による労働時間削減
  • 作物の品質向上・均等化による収益改善
  • 収穫時期・量予測で需要に対するロス低減

 さらに本プロジェクトの「挑戦」として、「作業者が最高の苺を育てようとする作業が、実際に品質にどう影響を及ぼしているかを評価したい。現在、勘・肌感覚で行なわれている作業と、環境データとの関連性を導き出し、カメラなどで苺の個体認識も行うことで、最終的に商品として出荷されるまでを追跡し、最高品質に育てるためには何が必要かを追求したいというのが、野望となる」(山本氏)としている。

最高品質に育てるためには何が必要かを追求したい

 最期に、本プロジェクトにAWSを活用するメリットを語った山本氏。「AWS IoTや各種サービスで迅速な立ち上げが可能で、将来の展開を見込んだ拡張性を備え、長期間運用でのサービス持続性などがメリットと考えていたが、最終的には営業の熱意が大きかった」と語る。

 ただ、AWSへの要望も挙げており、「農業分野のIoTを考えると、クラウドのメリットが生かしにくく、現状はまだオンプレミスの方が価格メリットが大きい」と指摘している。農業の場合、データ量やサーバー処理量がスケールアウトする現象が少なく、処理時間の流れが日・月単位で他のIT領域よりもゆっくりなのがその理由だという。

 それらを踏まえ「農業分野のIoTでも使いやすい価格を!!」と訴えて、講演を締めくくった。

農業分野のIoTでも使いやすい価格を!!

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