ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第409回
業界に痕跡を残して消えたメーカー HDDの容量を劇的に増やす圧縮ソフトStackerを送り出したSTAC
2017年05月29日 12時00分更新
HDDの容量拡大でファイル圧縮の需要が減る
ドットコムバブルの崩壊で会社を解散
こうした訴訟問題の間に、STACを取り巻く環境が急速に変わっていった。その最大のものは、HDD容量の急激な増加である。HDDの容量が数十MB~数百MBの間は、同社の技術は非常に重宝された。ところがHDDの容量がGBを超え、2年で3倍というペースで容量増加が始まっていくと、もう圧縮しなくてもファイルが全部収まるようになってきた。
STACはこの後もStacker 4.0/5.0をMS-DOSおよびOS/2向けに発売するほか、Stacker for Macintoshなどもラインナップするが、売上そのものは次第に減っていった。これはDriveSpaceとの競合云々というよりも、もうそうしたドライブ圧縮伸張ツールがコンシューマー向けには不要になってきた、というのが正確なところだ。
画像の出典は、“DANIES'S LEGACY COMPUTTER COLLECTION”
おもしろいのは、この頃になるとSTACのもともとのビジネスであった、圧縮伸張チップの売れ行きが好調になってきたことだ。これはビジネス用途には、まだまだディスク容量がいくらあっても足りない(特にエンタープライズ向けではこれが顕著)ということで、こちらのビジネスの比率がどんどん大きくなった。
結果、STACはまず1995年にStartech Semiconductorを買収し、この部隊を元に同社のチップビジネスをHifnという別会社として独立させる。このHifnはその後、暗号化プロセッサーの開発やIBMのネットワークプロセッサーの資産の買収などを経て、最終的に2009年にExar Corporation(日本のロームの子会社が独立したもの)に買収されるが、先日そのExar CorporationがMaxLinerに買収されており、もうHifnの資産がどの程度残っているのかよくわからなくなっている。
では残ったソフトウェア部隊はというと、マイクロソフトから得た賠償金などを使って会社買収などを行ない、リモートデスクトップやバックアップなどさまざまなソフトウェアツールをラインナップに加えて多角化を図るものの、あまり芳しい結果にはならなかった。
ちなみにこの間に開発の現場をカルフォルニアからエストニアに移行している。その後同社は社名を“Previo”と改めるものの、ドットコムバブルの崩壊でうまく行かなくなる。最終的に2002年、同社はSTAC時代からの資産をSymantecの子会社のAltirisにすべて売却し、残った現金を株主に返却の上で会社を解散してしまった。
日本では意外と知名度が高くないSTAC(とStacker)であるが、アメリカではそれなりに一世を風靡した会社であったののの、やっぱり圧縮伸張「だけ」では長く続かなかった、ということだろうか。

この連載の記事
-
第852回
PC
Google最新TPU「Ironwood」は前世代比4.7倍の性能向上かつ160Wの低消費電力で圧倒的省エネを実現 -
第851回
PC
Instinct MI400/MI500登場でAI/HPC向けGPUはどう変わる? CoWoS-L採用の詳細も判明 AMD GPUロードマップ -
第850回
デジタル
Zen 6+Zen 6c、そしてZen 7へ! EPYCは256コアへ向かう AMD CPUロードマップ -
第849回
PC
d-MatrixのAIプロセッサーCorsairはNVIDIA GB200に匹敵する性能を600Wの消費電力で実現 -
第848回
PC
消えたTofinoの残響 Intel IPU E2200がつなぐイーサネットの未来 -
第847回
PC
国産プロセッサーのPEZY-SC4sが消費電力わずか212Wで高効率99.2%を記録! 次世代省電力チップの決定版に王手 -
第846回
PC
Eコア288基の次世代Xeon「Clearwater Forest」に見る効率設計の極意 インテル CPUロードマップ -
第845回
PC
最大256MB共有キャッシュ対応で大規模処理も快適! Cuzcoが実現する高性能・拡張自在なRISC-Vプロセッサーの秘密 -
第844回
PC
耐量子暗号対応でセキュリティ強化! IBMのPower11が叶えた高信頼性と高速AI推論 -
第843回
PC
NVIDIAとインテルの協業発表によりGB10のCPUをx86に置き換えた新世代AIチップが登場する? -
第842回
PC
双方向8Tbps伝送の次世代光インターコネクト! AyarLabsのTeraPHYがもたらす革新的光通信の詳細 - この連載の一覧へ











