10万人に1人という重度の障害者が2人で立ち上げた仙拓。顔と親指しか動かせない彼らは、そんなハンディをものともせず、kintoneを使って、思う存分その才能を発揮している。kintone hive nagoyaに登壇した副社長の松元拓也氏に、会社立ち上げの経緯や業務改善にとどまらないkintoneの魅力について聞いた。(インタビュアーTECH.ASCII.jp 大谷イビサ)
僕たちのような重度障害者が働ける場所はなかった
仙拓は、名刺デザインやWebサイト制作のほか、ITの導入コンサルティング、iOSアプリのプロデュースまで幅広く手がけている。「寝たきり社長」として知られる仙拓代表取締役社長の佐藤仙務氏は、「脊髄性筋萎縮症」という難病のため、顔と親指しか動かすことができない。今回インタビューした副社長の松元拓也氏も佐藤氏と同じ難病を抱えているが、ITを使いこなすことで、名刺デザインやkintone活用などに自身の才能をいかんなく発揮している。
今から6年前、2人が仙拓を立ち上げた理由はきわめてシンプル。彼らのような重度障害者が働く場所がなかったからだという。
「自分のことはなんでもできるというほかの障害者であれば、一般企業でも就職できるんですけど、食事も、トイレも、ほかの方にやってもらわないといけない僕たちのような障害者は、企業も雇いにくいのが正直なところ。じゃあ、どうしたらよいか考えて、自分たちで会社を立ち上げようということになりました」(松元氏)。
ゲームやマンガが大好きだった松元氏はデジタルにも明るく、高校の頃から絵を描いたり、ホームページ作成などを手がけてきた。そんな経緯もあり、自分が好きなデザインの仕事を選んだ。当初はフリーランスでやっていこうと考えていたが、同時期に高校を卒業することになった佐藤氏に誘われる形で創業したのが2人の名前の頭文字を冠した仙拓になる。ちなみに仙は「未踏」、拓は「切り拓く」という意味で、前人未踏のビジネスを切り開くという方向性にぴったりだ。
仙拓のコアとなる事業は名刺のデザイン。取材会場となったkintone hive nagoyaで名刺を披露したサイボウズの伊佐政隆氏がアピールしていたが、プラスチック素材の作られたポップなデザインはまさにセンスがあふれ出している。
「とにかくその人が名刺を渡したときに、どんな会話をするのかをイメージします。名刺を渡したときに会話が拡がることが、すごく大事なことなので、まずは『なにこれ?』と思われるように意識して作ってます。だから、『シンプルで個性的でない名刺でお願いします』と依頼されると、悲しくなりますね(笑)」(松元氏)
僕らは紙がめくれない。だからデジタルになってほしい
とはいえ、重度障害者同士の起業。いろいろ苦労もあったと思いきや、やってみたら意外と障壁はなかったという。
「若さの勢いがあったと思うのですが、よくやったなと(笑)。ただ、障壁そのものはゼロに等しかったと思います。営業はネットを使い、お互いのやりとりは高校時代から使っていたSkypeを使えばいい。僕らにとって、ネット会議は当たり前のツールだったので、オフィスは借りずに、自分たちの部屋で働けば大丈夫だと思いました。僕らから周りの会社を見ると、テレワークとか、リモートワークとかいまさら言ってるの?って感覚ですよ(笑)」(松元氏)
そうなのだ。手や足が動かせない彼らにしてみれば、デジタルやネットはまさに生きるために必須のツールであり、その意味で最初からデジタルネイティブなのである。もちろん、さまざまな葛藤はあったと思うが、身体的なハンディを彼らは限界と感じず、機会とすら捉えている。当たり前のように満員電車にもみくちゃにされて会社に向かい、決められた時間で仕事をしているわれわれからすると、彼らの働き方ははるかに先を見据えている。実際、仙拓では請求書発行は「Misoca」、契約書管理は「CloudSign」といった具合に、最新のクラウドサービスを活用しており、在宅でありながら、実に効率的な働きを追求している。
「僕らは紙だと困るんですよ。自分で紙をめくるということができないので。請求書に印鑑を押して、母親に出してもらうだけでも大変なんです。だからなるべくデジタルでお願いしますと言っています。紙にこだわっている会社を、どんどん変えていきたいなと思います」
仙拓の従業員は現在5名。障害者だけではなく、子育てに忙しい主婦もいっしょに働いている。今までの働き方ではドロップアウトせざるを得なかった人たちも、時間や場所に縛られない新しい働き方ができている。商圏も会社のある中京圏に限らず、北は北海道から、南は沖縄まで幅広い。デジタルツールを駆使することでバリアフリーを自ら作り出し、業務の裾野を拡げているわけだ。
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