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kintoneな人 第3回

kintoneは単なる業務改善だけのツールにあらず

障害者でもアイデアを形にできるkintone、仙拓の松元氏が語る

2017年04月26日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

提供: サイボウズ

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重度障害者の工賃アップに貢献する「仙拓レンジャーズ名刺」の誕生

 kintoneで名刺作成アプリを作ったことで、仙拓は自身が名刺を作るだけではなく、名刺を作るサービスを売れる会社になった。kintoneを導入している企業であれば、仙拓のシステムを使って、社員の名刺を自前で手軽に印刷できるわけだ。さらに仙拓がすごいのは、この仕組みを使って、障害者が名刺作成の仕事を受注できるプラットフォームを作ってしまったことだ。

「名刺作成アプリができたことで、今度は佐藤が『うちもアンバサダー的な名刺を作りたい』とか言い出したので、仙拓レンジャーズという名刺デザインを作ってみた。でも、うちで作る名刺は「仙拓」の名前を入れてもらうことが多いので、正直アンバサダー的な役割はすでに果たしている。むしろ、注文する人も、制作する人も、名刺をもらう人がみんなハッピーにならないと意味がないと思った」(松元氏)

 こうして生まれたのが仙拓の名刺作成アプリを用いた「仙拓レンジャーズ名刺」だ。仙拓レンジャーズ名刺は、一般企業での就職が難しい重度障害者の受け皿となる作業所に名刺の作成を依頼し、売り上げの一部を工員に還元するという仕組み。これにより、注文すれば注文するほど、重度障害者の工賃を引き上げることが可能になるという。ここには松元氏たちが課題として抱えてきた重度障害者にまつわる日本の厳しい雇用環境が問題意識としてあった。

作業員に工賃を還元できる仙拓レンジャーズの仕組み

「障害者の就労の受け皿としては、雇用契約を結ぶA型事業所と結ばないB型事業所があります。でも、B型事業所の場合、最低賃金が決められていない。なかには時給数十円で働いている人もいます。時給数十円でなにができるというんですかね」(松元氏)

 こうした社会課題の解決を目指した仙拓レンジャーズ名刺は、常滑市の社会教育福祉協議会 ワークセンターしんめいでいち早く導入が決まった。kintoneの特徴を活かしてスピーディな導入を実現し、利用者が絶対に迷わないよう、限りなく画面はシンプルにした。クラウドを利用することで、仙拓側がすぐにサポートできるのも、事業者側の大きなメリットになったという。

「しんめいさんには1ヶ月で100件の注文が来ました。最初は不安でいっぱいだったみなさんでしたが、100件をさばけたのは大きな自信につながりました。作業員さんに、『これからこの仕事をやって行けそうですか?』と聞いてみたら、自信に満ちた表情で『もう大丈夫です』と言ってくれて、本当にうれしかった。ITとクラウドの可能性を肌で感じました」(松元氏)

障害者だからこそ見える視点とkintoneで次の時代を切り拓く

 長らくkintoneに関わってきた松元氏にとって、kintoneは単なるツールではない。自身のアイデアを形にし、障害者がハンディを感じずに生活できる世界を作るための「万能ナイフ」のような存在だ。kintone hive nagoyaに登壇した松元氏は、業務改善のツールとして使うだけではもったいないと聴衆に訴えかける。

「kintoneは単なる業務改善ツールにおさまる代物じゃない。新しい仕事を創出できる大きな可能性がある。発想次第で、いろんなサービスを作っていくことができる。kintoneによってシステム構築のハードルが大きく下がり、自分ならではのサービスを簡単に作れるんです」(松元氏)

 松元氏のアイデアは止まらない。2017年1月には、kintoneを使った名刺管理サービス「ネームマネッジ」を開始。名刺情報をすべてデータ化し、kintone内で共有したり、CSVファイルで納品してもらえる。そして今年、松元氏が仲間といっしょに仕掛けるのは、kintoneアプリのコンテスト「kintone アプリ甲子園」だ。18歳以下にしぼったkintoneのアプリコンテストを手がけることで、自身のアイデアを形にできる学生を育てたいというのが、松元氏の思いだ。

「kintoneを小学校のときから使えたら、社会に出てもきっと即戦力になれる」(松元氏)

 kintone hive nagoyaではこうした仙拓とkintoneの道のりが松元氏自身の口から語られた。同じ病気を患う佐藤社長を「寝たきり社長とちやほやされて、最近調子に乗ってる(笑)」と軽くディスりながら、仲間とともにビジネスを切り開いてきた道程を語る松元氏の講演に、会場は終始穏やかな笑いに包まれた。そして、重度障害者であることにまったく甘えず、まさに前人未踏のユニークなビジネスを自ら切り開いていくその力強さに、いつの間にか勇気をもらっているのだ。

 ハンディをハンディと感じず、笑い飛ばしてしまう松元さんのこの力強さは、どこから来るのだろう。取材のとき、何度も感じたことだが、おそらく6年間試行錯誤しながら積み上げてきた自身の経験から来たものに違いない。デジタルの価値、ITの可能性、ハンディキャップに対する社会の歪み、不合理な日本の働き方など、障害者だからこそ見えるユニークな視点とkintoneを武器に、仙拓はこれからも次の時代を切り拓いていく。

(提供:サイボウズ)

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