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Watson連携によるスマートコントラクト処理も、「IBM InterConnect 2017」レポート

IBMブロックチェーンはすでに「ビジネス適用可能」、活用事例を披露

2017年04月04日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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IBMのブロックチェーン戦略は「オープン」「トラステッド」「ビジネスレディ」

 IBMがOSSのHyperledger Fabricを採用したブロックチェーンサービスを提供する理由について、IBM Hybrid Cloud SVP & Directorのアーヴィン・クリシュナ氏は次のように説明した。

 「エンタープライズ領域のブロックチェーンでは、(コンソーシアム参加企業間での)『共通プロトコル』が必要だ。IBMでは、そのプロトコル(共通基盤)としてHyperledgerが必要とされるようになると考えており、Hyperledger上に付加価値を追加して提供していく」(クリシュナ氏)

 また、IBMブロックチェーン事業部門のゼネラル・マネージャーであるマリー・ウィーク氏は、IBMのブロックチェーン戦略は「オープンなエコシステム」「トラステッドネットワークモデル」「ビジネスレディ(Business Ready)」の3つである、とまとめた。

IBMブロックチェーン事業部門のゼネラル・マネージャーであるマリー・ウィーク氏

 「オープンなエコシステム」を実現し、個々のブロックチェーンネットワーク(つまり取引ネットワーク)により多くの参加者が集まれば、そのネットワークに参加することの価値が高まる。その参加を容易なものにするには、クリシュナ氏が述べたような業界標準技術、オープンな技術の採用が必須となる。

 次の「トラステッドネットワーク」は、参加者間の一定の信頼関係を前提としたブロックチェーンネットワークのことだ(これに対して、ビットコインのような不特定多数が参加するものは「トラストレス」と呼ぶ)。これは、前述したコンソーシアム型ブロックチェーンのメリットである高速な取引処理、つまりはブロックチェーンのビジネス活用に欠かせない要素となる。

 そして、今すぐに企業が実ビジネスで活用できる「ビジネスレディ」性も重視されている。IBMではこの数年間、Watsonが他社に先駆けて「ビジネスレディな技術」であることを、その実績もふまえながら強くアピールしてきた。今後はブロックチェーン領域においても、Watsonと同様に早期のビジネス事例展開を進めていくものと考えられる。

“紛争ダイヤモンド”から個人情報まで、多様なユースケースを披露

 事実ウィーク氏は、InterConnectにおいて、IBMブロックチェーンはすでにグローバルで400以上のプロジェクトで採用されていると紹介した(実証実験段階のものを含む)。金融サービス分野はもちろん、食品トレーサビリティ、ヘルスケアデータや個人情報の安全な共有、グローバルサプライチェーン管理など幅広い業種において、ブロックチェーンを実ビジネスに適用するための試行錯誤が始まっている。

公開されているIBMブロックチェーンの採用事例。日本ではJPX(日本取引所グループ)との実証実験が進められている

 基調講演では、ブロックチェーンスタートアップであるエバーレッジャー(Everledger)の創業者兼CEOのリアン・ケンプ氏が登壇し、同社がIBM HSBN上で開発したブロックチェーンアプリで支援する“紛争ダイヤモンド”排除にむけた取り組みを紹介した。

 紛争ダイヤモンドとは、アフリカの内戦地域において、反政府組織が武器調達の資金源として採掘するダイヤモンドのことである。紛争ダイヤモンドが海外に販売され、資金が流れ込めば内戦が長期化する。また、採掘は占領された鉱山で行われていることも多く、強制労働や児童労働などの倫理的な問題も大きい。そのため国連では、取引可能なダイヤモンド原産国から紛争当事者を排除する「キンバリープロセス認証」制度を敷き、国際的な紛争ダイヤモンドの取引停止に務めてきた。

 ここではダイヤモンドの原産国がどこか、また採掘や加工、輸出入といった作業が倫理的なプロセスで行われたかどうか、個々のダイヤモンドについてその来歴を追跡(トラッキング)可能でなければならない。しかし、従来はこれが紙の鑑定書ベースで運用されており、虚偽申請や鑑定書の改竄なども起きていたという。

 そこでケンプ氏は、このダイヤモンド取引の追跡にブロックチェーンを適用するアイデアを思いついたわけだ。個々のダイヤモンドに関する情報を一カ所に集約し、誰もがその情報を参照/監査することができるが、特権的な参加者がその情報を改竄するようなことはできないという特性が、この目的に適していた。

Everledgerのデモ画面(ダッシュボード)。ダイヤモンド120万個ぶんの情報が登録されており、うち11万件あまりがコンプライアンス上の不備がある

 また、キンバリープロセスなどの規制=取引ルールをスマートコントラクトのプログラムとして実装する部分では、Watsonのコグニティブ能力も活用されている。具体的には、システム上で規制に関するドキュメントをWatsonに“読ませる”ことで、Watsonが自動的にルール(たとえば「取引が許可された原産国のリスト」など)を抽出し、実装する。これにより、ルールに違反する取引を自動的に検出できることができるようになるうえ、規制の変更にも即座に追随できる。

規制の内容を記したドキュメントをWatsonが読み込み、自動的にルールを抽出、実装することができる

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