転換期の飲食店ビジネスモデル「紙に勝つ」変革志すトレタ
年中無休・24時間営業の飲食店が2017年になって減少しはじめている。単純な時代の流れと言ってしまえばそれまでだが、それ以上に飲食業界での現場の疲弊、従業員不足が現実的なものとして見えてきている。しかしそのような状況であっても、意識としては「(IT化などをせず) 現在の店舗経営をこのまま続けていくのが当然と思っている飲食店がまだ9割」だと現状を厳しく見ているのは、株式会社トレタの中村仁代表取締役だ。
トレタは、iPadとクラウドを使用した飲食店向け予約/顧客台帳サービスを展開するベンチャー企業だ。ここ数年、ネットで予約できる飲食店が増えてきたが、国内外の多くの店舗を裏側からITで支えている。
2013年12月のサービスリリース以来、現在までに登録店舗は8,000店舗を超え、かつ継続利用率が99%以上と、その使いやすさで定評を受けている。サービス開始から3年経ち、その間の飲食店業界の変化などトレタから見えてくる風景、そしてトレタ自身のサービスの進化、また今後の展開を中村代表に聞いた。
導入店舗数が1年で1.8倍超へ
トレタは2016年12月でサービスリリースから3年経ったが、直近1年間だけで約3600店舗がトレタを新たに導入しており、その伸び率は183%と、現在進行形で急成長をとげている。飲食店向け予約台帳サービスとしては業界シェア38%でNo.1 だという。サービスの使いやすさや機能はもちろんとして、これだけの躍進をとげた重要なキーは何だったのか。
「最初の大きなきっかけは、Yahoo!との提携ということになる。サービスの最初から理想とするネット予約のイメージをYahoo!とは共有できていたところが大きい。その次は、USENが展開する『ヒトサラ』というグルメ媒体との提携。ビジネスモデルとしては飲食店に課金する掲載料モデルのサービスだが、きちんとお店を選んで、良いお店だけを掲載するスタイルで、あえてボリュームを狙わずに、質をきちんと保証するというのが彼らの大きな発明」(中村氏)
「一方で、トレタのプロダクトは『大量の予約管理で悲鳴を上げている繁盛店さまの課題を解決する』ために作られているため、『ヒトサラ』とはとても相性が良い。そこで双方で獲得した繁盛店さん・人気店さんの店舗紹介ページにオンライン予約の機能を付けお互いに価値を高めましょうということで始めた。良いお店は予約が取りにくいが、そんなお店がたくさん見つかり、かつ予約がウェブから取れるということで、エンドユーザーにとっても非常にメリットがある。『ヒトサラ』さんといっしょにできたことで弊社でも人気店の導入がかなり増えてきている」と中村氏。
もともと人気店が多かったトレタだが、この『ヒトサラ』とのメディア提携によってより多くの人気店が獲得できたという。直近の2017年2月には加速度的に利用者を増やしている『Retty』との取次業務および予約機能提携も発表され、着々と既存のグルメサービスとの連携を進めている。(※Rettyとの連携は、トレタが取り次いだRetty加盟店だけに限定されて提供される)
とはいえこれらの提携は、ただつながればそれでいいわけではなかった。中村氏いわく、同社がかかげる「トレタイニシアチブ」が根本として重要の役割を持つという。
「トレタイニシアチブ」とは、トレタが率先して行動する規範を定めたものだ(「イニシアチブ(initiative)」とは「主導権」や「率先して行動する」ことを意味する)。中村代表は、「単にトレタ社内だけで共有される理念ではなく、飲食店IT化に関わるすべての企業の間で共通の価値観として共有できるものにしたかった」との想いで名付けたという。
「トレタイニシアチブ」の項目は次の5つの項目からなる。
1)トレタはフェアなサービスを目指します。
2)トレタは透明性のある経営を目指します。
3)トレタは徹底して現場の味方です。
4)トレタはリーディングカンパニーとして責任あるサービスを提供します。
5)トレタは「三方よし」のサービスを目指します。
(https://toreta.in/jp/initiative)
実際にトレタが提供するサービスにあてはめて簡単に説明すると、(1)は、加盟店を不当に自社サービスに囲い込まず、可能な限り他のサービスやツールとのオープンな連携を追求し、豊富な選択肢を提供する。(2)は、加盟店にはトレタの新しい取り組みや経営方針などについて、最大限オープンにし、料金も、常に明快かつ明朗なものにする。(3)は、現場を深く理解し、現場で働く人々が最先端のテクノロジーを簡単に活用できるように使い勝手を磨き、安心して使い続けられるように万全のサポート体制を構築する。(4)は、最先端のテクノロジーを使いやすい形で提供し、かつ永続的に安心して使えるサービスに育てていくために、無責任な機能追加を行わない。(5)は、トレタは加盟店とその顧客の双方が幸せになれるようなサービスを作り、ともに繁栄していけるよう「三方よし」の精神で事業を進めていく、と定義している。
「私たちも、そろそろただ拡大していけばいいという段階ではなく、しっかりとトレタイニシアチブの方向性を踏まえ、どのサービスと提携して、どのような世界観を作っていけばいいのかを考えていくようにしている。とはいっても、現状の8000店舗では理想を実現するには、まだまだ足りないのはたしか」(中村氏)
続いては、トレタはどのような形で歩みを進めようとしているのかを見てみたい。
海外でもそのまま展開できるトレタのシステム
国内で快進撃を見せるトレタは、2016年、シンガポールに現地法人を設立。年々急激に拡大するASEAN諸国の外食市場を視野に入れた海外展開の嚆矢とした。これまでの国内市場での展開で得られた知見を活かして、アジア地域の飲食店向けにサービスを提供することで、海外でもトレタイニシアチブの世界観を作ろうという試みでもある。ただ、文化が違う海外での展開に障害はないのだろうか。
「海外への展開は以前から考えていた。私たちのサービスは飲食店向けであってコンシューマー向けではない。トレタのような飲食店向けの業務に関しては、文化の差はあまり関係なく効率がすべての世界。そのため日本で効率よく予約管理ができるシステムは、どこの国に行っても効率よく予約ができる。そのうえ私たちのような予約情報と顧客情報を効率よく管理できるようなプロダクトはまだ海外にはほとんどない。現状でも、メニューをローカライズするくらいで、そのまま展開できている」(中村氏)
実際、サービス開始から1年と経たず、シンガポールですでに500店舗の契約を獲得している。現地で営業してもとても反応が良いそうだ。これだけスピード感を持って成長できるということは、飲食店の問題解決へのニーズは海外でも国内同様に存在しているということの証左でもある。飲食店に共通するニーズとは、結局なんなのだろうか。
「結局、紙をベースにしたアナログ・手作業での予約管理や顧客管理が合理的でないというのはどこの国でも一緒。ただ、紙には紙ならではの『トレーニング不要でかつ低コストで運用できる』という強みがあるのも事実で、これまでのITツールはその紙の優位性に勝てなかったために世界的に情報化が遅れてしまった。そこでトレタは創業以来『紙に勝つ』ということを目標にUI/UXを磨いてきて、結果として続々と紙からの乗り換えを獲得しているという状況は、日本も海外も全く同じ。しかし、プロダクトとしてはそのまま通用しても、海外では日本と商習慣やリテラシーが大きく異なる部分もある。我々の営業体制やサポート体制、そして飲食店に対する啓蒙活動などは、まだまだ改善の余地が大きいと考えている」(中村氏)
いまは契約店舗の活用度を高めることを最優先の課題としており、その仕組みの構築が急務となっている。国内外ともに好調に見えるが、明確な課題は残ったままだというが、それは何なのか。