ていねいにしかけたら結果が出た
── 才覚があったんですね……。当たった企画はどんなものがあったんでしょう?
「10円セール」というのが当たりました。
無料にすると「タダで読めるものだから」ということで、読まれても3~4倍の伸びくらいなんです。あるとき、ストアから「値引きキャンペーンをやります。参加作品を募集しています。値段は10円からつけられます。値引き分は作家、出版社が負担してください」ということで案内が来てたんですけど、ほとんどの出版社は「期間限定で無料キャンペーンをやるとかだったらアリだけど、10円で投げ売りはしたくないよ。値引き分こっちが損するんだろ」ということか、結局は100円とか普段の半額くらいでエントリーしていました。でも10円が最低だから最低額にしてみようと。1巻、2巻だけ10円というのはインパクトがないから全部10円にしようというのでやってみたんです。
── 普段は数百円する電子書籍が10円になっちゃうわけですか。
なっちゃうんですけど、売上は増えるんですよ。SNSで作品に関する話題が拡散されるせいですかね。なぜか値引きしていない他のストアの売上もものすごく伸びるんです。さらには、10円セールに追従して、同じ作品を勝手に10円に値下げするストアも出てきました。勝手に値下げするわけですから、値下げ分の差額はストアが補てんしてくるんです。信じられないことですが。電子書籍はいろんなことが噛み合ったときの爆発力はスゴイですね。
── なるほど……。
あとは去年から山本英夫さん(漫画『ホムンクルス』作者)の旧作『おカマ白書』『のぞき屋』『新のぞき屋』『殺し屋1』を取り扱わせてもらうことになって。
── いわゆる「名著復刻」の電子版ですね。
旧作って大量にあるんです。20~30年前の作品で契約が切れて絶版になっているものも多いですし、大手出版社でも電子化されていない作品は大量にあります。書店だったら売り場の面積が決まってますけど、電子なら何百万点でも扱えます。
そうなると、ぼくらと同じような小さな取次や、電子書籍に積極的な中小出版社が作家さんと直接契約して販売しているケースがすごく多くて。その場合、たとえば30年前の装丁を、ロゴだけ簡単にいじって「権利関係は引っかかっていないですよ」とやっているケースが多いんですよね。それなのに値段は普通に300~400円で売られているんです。
でも、それだと誰も買わないんですよね。昔の本が、昔の装丁で、いかにも古そうな感じで、しかも高い値段で売られている。電子書籍ってサムネールしかパッケージがないので、そこにこだわらないというのはよくないんじゃないかと思って、経費かけて装丁を全部作りなおしたんですよ。
── ただ印刷所から引き上げたデータをパッケージするだけが復刻じゃないだろうと。
流れ作業的に1冊5000円でデータ作るんじゃなくて、コストをかけましょうよと。デザイナーに依頼して装丁をつくって、原稿データをリマスターし、「電子書籍限定版発売!」とうたって、発売と同時に「3巻まで無料、4巻以降半額」とキャンペーンを組んだんです。それが1ヵ月で1000万円以上を売り上げ、コストもすぐに回収できました。
ぼくらは小さな規模の会社をやっているので、毎年数千冊という作品をガンガン出すことはできないんですけど、1つ1つていねいにコストをかけて売っていこうと、ていねいにキャンペーンを組んでみたら、相当結果が出ました。
出版社にはもっと作品をていねいに扱ってほしいな、と思います。旧作は確かに大量にありますし、それより売りたい新刊があるでしょう。だけど、旧作も作家が1枚1枚心血を注いて描いたものですからね。ていねいにキャンペーンを打って装丁などを作りなおせば、十分に商品価値はあるし、それを待ち望んでいる読者はたくさんいるんです。勝手に作品を殺さないでください。
── 電子書籍と電書バトが当たって収入の柱になりました。
Web雑誌はまだ黒字化できていないですね。まもなく創刊3年目に入りますが、累積赤字がちょうど1000万円になりました。想定内と言えば想定内ですが、連載していただいている作家さんには早く利益をお戻しできるように頑張りたいですね。4月頃からWeb雑誌発の電子書籍が出てきます。ぼくの『Stand by me 描クえもん』という作品や、塀内夏子さんの『EVIL~光と影のタペストリー~』という作品があるんですけど、そうした電子雑誌オリジナルでやっていたものが単行本になり、2~3年以内に黒字になればいいなと思っています。
電子コミック雑誌『マンガonウェブ』第8号








