所得税法に照らせば「譲渡所得」ではないか:

仮想通貨が「雑所得」はおかしい=税理士

高橋 創

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 最近は「コインチェック問題」などでネガティブな話題の仮想通貨ですが、昨年は多額の利益を出した、いわゆる「億り人」と呼ばれるような方も多いようです。

 利益が出たということは当然税金を払うことになるわけですが、仮想通貨のような新しいものはあらかじめ税金についてルールが定まっているわけではありません。そこで昨年12月1日に国税庁から「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」が公表され、「仮想通貨の取引で利益が出た場合には原則として雑所得として課税します」ということや、利益の計算方法のルールが明確になり、一応課税方法は定まりました。

 この取扱いは国税庁の公式見解ですので、皆さんはこれに従って雑所得として申告をするものだと思いますが、ちょっとここで異を唱えてみたいと思います。「仮想通貨の取引に関する利益は『譲渡所得』なのではないか?」ということです(マイニングによる利益は雑所得で良いと思います)。

 そもそも税金は国税庁の見解ではなく所得税法などの法律に従って支払うものです。我々の大事な財産を国に支払うわけですから、ちゃんと私たちの代表者によって国会で定められた法律の裏付けがなければいけません。この考え方を租税法律主義といい、憲法でも定められている税金についての絶対的なルールです。そう考えると、仮想通貨についての確定申告を考えるときにも国税庁の見解ではなく所得税法をベースに考えるべき。私はそう思っています。そしてそう考えた結果、雑所得ではなく譲渡所得なのではないかと今は考えています。

 所得税法上、譲渡所得は「譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう」とされています。例外的に除かれているものはありますが、それは棚卸資産と山林(木のこと)だけ。つまりそれ以外の資産を譲渡した場合には譲渡所得となるはずです。

 にもかかわらず譲渡所得にならないとするのであれば、可能性は2つ。

 1. 仮想通貨が「資産」ではない場合
 2. 仮想通貨の取引は「譲渡」ではない場合

 もともとの定義がシンプルなので、これくらいしか考えられません。

 まず1について。そもそも「資産」の定義は所得税法にありません。その場合、一般的な意味をベースにしても問題ないはず。会計学では資産のことを「貨幣を尺度とする評価が可能で、かつ将来的に会社に収益をもたらすことが期待される経済的価値のこと」と定義しているので、これを使ってみましょう。会計と税務は近い世界ですし。

 まず仮想通貨は日本円で購入できるため「貨幣を尺度とする評価が可能」という条件は満たします。そして値上がりすれば利益が出るため「将来的に会社に収益をもたらすことが期待される」にも合います。国税庁の見解でも「経済的価値のあるものを取得した場合」と明言していますから、これはまごうかたない資産です。

 次に2について。当初はこの「譲渡」でない可能性は個人的には疑っていました。同じ投資による利益であるFXの利益は「譲渡」でなく「差益」として雑所得とされています。それと同様に譲渡ではない概念なのではないかと。ところが国税庁からの情報で一単位ごとに売却するような取扱いとされているのを見て、「なんだ、やっぱり譲渡なんじゃないか」と思うようになりました。

 国税庁のタックスアンサーでも「譲渡とは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいいますので、通常の売買のほか、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれます」と言っていますし、国税庁も売買(≒売却)は譲渡だと考えているように見えます。

 そう考えると、仮想通貨の取引による所得を雑所得にする理由がわからなくなります。雑所得は「他のどの所得にもならないもの」が最後にたどり着く、最後の砦的な区分です。譲渡所得の定義に合致する以上、雑所得に分類されることはありません。でも現状はそういう見解が公表されてしまっている。

 譲渡所得は雑所得と違い、損失が出たときは原則として他の所得と通算することができますから、それをさせたくなかったのではなかろうかと、うがった見方もしたくなってしまいます。まあ利益が出ているときは譲渡所得であれ雑所得であれ結果は変わらないので、あまり目くじらを立てるところではないかもしれませんけど。

 所得税は、個人の経済活動に対して課される税金です。とはいえ経済活動は多岐にわたりますので、なかなかすべてをカバーするのは難しいですし、新しいものが出てきた場合にはバタバタしてしまうこともあると思います。ですが、税法という法律をメシの種にしているものとしては、法律的に説明が付くような納得感のある取扱いであってほしいなと思っています。




著者紹介──高橋創(たかはしはじめ)

1974年東京生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。専門学校講師、会計事務所勤務を経て2007年に新宿二丁目に高橋創税理士事務所を開設。著書に『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』 (中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本17-18年版』(ナツメ社)。コラムに「誰かに話したくなる税金喫茶」(会計人コース)。

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