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その「違和感」も楽しめる国外最大規模となるマンガの展示会

イギリス人最強のスタンドは?大英博物館のマンガ展に行ってきた

2019年08月25日 11時00分更新

文● 柳谷智宣 写真●柳谷智宣 編集●大谷イビサ

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 5月23日から8月26日まで、イギリスの大英博物館にてマンガ展「The Citi exhibition Manga」が開催されている。国外では最大規模となるイベントで、筆者は6月15日に入ることができた。歴史ある大英博物館で日本の「Manga」が華々しく取り上げられている特別展の模様をレポートする。

大英博物館。看板のビジュアルは野田サトル氏の「ゴールデンカムイ」

マンガを知らない人たちに向けた史上最大級のマンガ展

 大英博物館はイギリスのロンドンにある世界最大級の博物館の一つ。1759年に開館し、800万点以上のコレクションを保有しており、現在では毎年600万人以上が訪れる人気スポットとなっている。

 さて今回のThe Citi exhibition Mangaだが、海外に向けて、文化を発信するというコンセプトで構築されているため、日本の漫画愛好家としては違和感もあるのだが、全体として力が入っており、感動した。大英博物館をテーマにした星野之宣氏の「宗像教授シリーズ」は以前からフィーチャーされていたが、特別展でマンガ全体を取り上げるのはもちろん初めて。以前開催された葛飾北斎の特別展の時よりも広いスペースとなっている。大英博物館の主催を日本の各出版社が総力を挙げて協力しているため、かなり充実した内容と言える。

 入り口から「不思議の国のアリス」だらけ。エントランスにはCLAMP氏の「不思議の国の美幸ちゃん」の巨大なイラストが展時され、通路には星野之宣氏の「アリス」や大友克洋氏の「不思議の国のアリス」のパネルが設置されていた。イギリス文化からマンガの世界へ誘うための仕掛けの1つなのだろう。

ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」

 まずは、最古のマンガと言われることもある「鳥獣戯画」を展示しており、海外の方が顔を近づけて真面目に鑑賞していた。他にも葛飾放哉や河鍋暁斎らの作品も展示され、日本古来の表現という切り口で、マンガにアプローチしていた。海外の人たちは、そういう視点を持ってマンガを見ていると言うことなのだろう。幅17メートル高さ4メートルの「河鍋暁斎画 新富座妖怪引幕」も展示されていた。

鳥獣戯画や北斎漫画も展示されていた

 マンガの読み方を大きく展示してあるところにも人だかりができていた。われわれは言語化するまでもなく自然にマンガを読んでいるが、初めての人はコマ割りをどうやって読んでいけばよいのか混乱してしまうからだ。

読み進める順番や背景による効果などを解説している

約70タイトルの原画が圧巻 現地の人のジョジョ愛がすごい

 壁にはマンガの歴史に欠かせない作品の原画が大きなイラストとともに展示されている。加えて、各ゾーンには約50名の作家による約70タイトルの原画などが並んでおり、圧巻。印刷されることで魅力が最大化するように書いている作者もいるので、必ずしも原画の方が迫力があるとは言えないのだが、実物を目の当たりにしているというエクスペリエンスは格別だ。じっくり時間をかけてすべての原画を堪能した。マンガをプロデュースするというコーナーもあり編集部内の写真やインタビュー映像が流されていた。

当然ではあるが、手塚治虫もフィーチャーされている

 「ジョジョの奇妙な冒険」でフィーチャーされていたのが、東方仗助と岸辺露伴。なんで4部だけなんだと不思議に思っていたところ、イギリスの大柄な男性ガイドが北欧っぽい家族連れに解説をし始めた。仗助のスタンドは最強で、壊れたモノを元通りにできるなどという内容で、あまりにもジョジョ愛にあふれていて、感動して泣きそうになってしまった。英語が流ちょうに話せたら、『いや最強っていうのはちょっと違うぜ……』と割って入っていたことだろう。

 もちろん、日本にもスターウォーズやスタートレックマニアがいるように、全世界にコミック愛好家がいることは知っていたが、スタンドについて熱く語っているのを直接耳にできたのはいい経験だった。

 もちろん、原画以外にもさまざまな展示があった。コスプレやコミケ文化の紹介したり、スタジオジブリに関するコーナーではアニメ映像を流すなど、マンガを取り巻く文化にも触れられるようになっていた。ただし、展示内容は淡泊で、魅力が伝わっているのかは不明だった。

 人気だったのは、立ち読みコーナーと撮影コーナー。展示場の中央部部に本棚が用意され、多数のマンガを手に取って楽しめるようになっている。日本で売っている普通のマンガが多いものの、中には英語になっている本もあり、子供達が熱心に読んでいた。撮影コーナーでは、マンガの1コマに自分を入れて撮影でき、こちらも家族連れが並んでいた。

中央部分にはマンガを手に取って読めるコーナーが用意されていた

一部のコミックは英語版になっていた

展示エリアの奥にはマンガの中に自分を入れて撮影できるコーナーが用意されていた

違和感はあれど、マンガがあの大英博物館に展示されている感動

 もちろん、細かく突っ込むならいろいろと小さな違和感はあった。古代エジプト展のように巨大なオブジェがないので、垂れ幕や「進撃の巨人」の巨人の頭部などで埋めている感があった。原画は小さいので、ちょっとスカスカしている印象のあるエリアもある。また、アニメを流しているところは1カ所しかなかったが、人は集まっていたので、アニメ色をここまで切り離す必要はあったのかな、とも感じた。

 あと、変身(Transformation)のコーナーでは、「進撃の巨人」と「サイボーグ009」が展示されているのだが、同じ石ノ森章太郎氏なら「仮面ライダー」だろうと、突っ込みどころもある。SFなら「超人ロック」はどうした! とか好みの叫びもある。

 しかし、トータルではマンガ好きとしては悶絶するほどうれしい企画だし、見たことのない原画にも多数触れられて大満足。日本のマンガ展ではチョイスに漏れそうな(失礼!)作品がいくつもあり、新鮮でもあった。英国でも賛否両論あるようだが、それはそれで注目度が高い証拠。実際、特別展は有料(大人19.5ポンド、16~18歳16ポンド)なのだが、マンガ展の前売り券の売れ行きも過去5年で最高レベルだという。

分厚い公式図録ももちろん購入。日本でも購入できることを知らず、重い思いをして持って帰って来た

 日本の誇るマンガがあの大英博物館で展示され、海外の人がたくさん見てくれたのは単純にうれしいものだ。もし、この夏にイギリス旅行に行く予定があるなら、ぜひ訪れて欲しい。

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