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素材でどう音が変わるのか、ハイレゾ機AK380を徹底比較

2017年02月17日 22時24分更新

文● きゅう 編集●ASCII

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 先週、国内でも正式発表された「Astell&Kern AK380 Stainless Steel Package」。その出荷が本日開始となった。AK380SSは、筐体を標準のジュラルミンからステンレス鋼に変更したバリエーションモデルで、使用するチップや機能、ソフトなどは同等だ。本体(AK380SS)と外付けアンプ(AK380 AMPSS)に、バンナイズ製の専用ケースを組み合わせて実売価格は約65万円となる。販売予定数は世界限定で200台というプレミアム機でもある。

 まあこの価格なので、絶対的な数字として「安い」とは書けない。だが普通に欲しい機種であるのは事実だし、機能と音質を考えるとお買い得なようにも思える。少なくとも、比肩する製品があまり見当たらない。経済的余裕があれば、迷わず買っても損はしないのでは? 残念ながら筆者にそこまでの余裕はないが……。

 そう言い切れる理由は、第一に機能の豊富さ。

 最大384kHz/32bitのPCMや最大11.2MHz DSDのネイティブ再生に対応していたりと、対応するフォーマットはおそらく将来にわたって不安がない。旭化成エレクトロニクス(AKM)のAK4490という高級DAC ICをデュアルモノで搭載していて、3.5mmアンバランスに加え、2.5mmバランス駆動にも対応する。ほかにWi-FiでDLNA対応のNASとつないで音源を再生したり、CD-RIPPERをはじめとした周辺機器が用意されていたりと拡張性も豊富だ。さらにソフトの進化で機能追加もあり、例えば昨年のアップデートで最新BluetoothコーデックのaptX HDにも対応した。強いて言えばMQAへの対応が待たれるが、機能面では現時点でほぼ最強クラスのプレーヤーと言えるのではないだろうか。

 もちろん音もいい。ここは好みもあり、多少は異論をはさむ余地があるかもしれないが、S/N感など客観的に見たクオリティーに限定してみても、やっぱり一歩抜けている存在だと思う。圧倒的な解像度、低域から高域までピンと筋が通ったワイドレンジの表現、そして冷徹なまでの透明感。良質なヘッドフォンと組み合わせることで、その価値が発揮される。

 正直ポータブル機の手軽さでこの音が手に入る時代が来るとは思っていなかった。同じような解像感や情報量を単品のシステムとスピーカーで実現しようと思ったら、いくらかかるかわからない。

 そんな感じで高級プレーヤーの座に君臨しているAK380シリーズの、さらに上位版がAK380 SSである。そのサウンドについては、昨年12月のポタフェスでもちょっとだけ体験できたのだが、できればもう少しじっくり堪能してみたいと思っていたのも確かだ。

 週末開催のポタ研では、試聴可能な実機も登場するそうだが、一足先に既発売のAK380+AK380 AMP、AK380 Copper+AK380 AMP Copperの組み合わせとじっくり聞き比べてみた。そして記事を読んで興味を持った読者は会場に足を運んで体験してみてほしい。

 ちなみに12月の記事では以下のように書いた:

 AK380 SSの音質は一言でいうと、ソリッドで充実したもの。硬質なサウンドという印象だ。標準のAK380と比較すると特に低域の表現に差がある。タイトでぐいっと前に出てくる。一方で高域はよく伸びる。S/N感が高く消え去る間際の微細な情報まで残していた。標準版のもともと精緻な空間表現と比べても別物というほど、より広く、よりクリアーな音場を提供してくれる。

 価格的にはAK380 Copper+AK380 AMP Copperのさらに上なので、位置づけとしては上位かもしれないが、CopperはCopperで販売終了した現在でも、根強い人気があったりするので、その違いは把握しておきたいところだ。

許されるなら、すべて持っておきたい

 というわけで今回試聴ソースに選んだのは下記の3曲だ。全部同じ素材のAMPと組み合わせて聴いている。イヤフォンはミシェルのアンバランス接続。

 宇多田ヒカル『Fantône』から「花束を君に」(FLAC:96kHz/24bit)
 fhána『calling』から「calling」(WAV:96kHz/32bit)
 Yes『Fragile』から「Roundabout」(FLAC:96kHz/24bit)

 まずは昨年非常によく売れた宇多田ヒカルの楽曲から。

 曲自体は、ボーカルを中心にバックも比較的シンプルにまとまっている。声の柔らかさが印象的なフレーズからはじまる。最終的にはドラムなども加わった、密度感や量感を伴った厚みのあるサウンドへと発展していく。

 3モデルの聞き比べでは、まずCopperの音が低重心でふくよか。厚みがあって、このソースにはうまくマッチしていた。スタンダードのAK380は、後半になって音数が増えてくると、少し音が散らかる印象がある。残響の多い部屋で演奏したように気持ち雑然とした印象になるのだ。これはこれでリアルな感じもあるが、トータルで見たまとまり感はCopperに一方譲る印象がある。

 AK380SSでは、ボーカルの線がもっとしキリッと絞り込まれた印象になる。

 高域は厳しく透明で、低域は量感を維持しつつもタイトだ。この解像感と豊富な情報量は個人的には好印象だが、人によっては少し分析的過ぎると感じるかもしれない。曲想まで加味すると、もっと包囲感というか抱擁感みたいなものがあったほうがいい面もあるので、AK380SSとは対照的だが、低重心でふくよかなCopperの方向性も魅力的に思える。

 fhánaの楽曲は最近のアニソン。曲自体、かなり緻密に作りこまれている。こういう楽曲を再生する際には、個人的には再生機器のフラットさ、くせのなさが今まで以上に重要になっているように思う。逆に言うと、ちょっとしたバランスの崩れが、違和感につながったりするので、個性を主張しすぎない機種がいい。

 AK380、AK380 Copper、AK380SSと順に聞く。まずAK380は均整の取れたバランスで解像度も高く、これでも申し分がない。AK380 Copperは宇多田ヒカルとは逆に、低域の強さが気になってしまった。ライブ会場のPAをイメージすると、これぐらい量感があったほうがいいのかもしれないが、演出感が出てくる感じもする。シンプルに解像感だけに注目すると、Copperは標準のAK380よりも緩い感じがあり、再生機自体の個性や色付け感を意識してしまう。

 そしてAK380SS。これは正直にすごいとしかいいようがなかった。十分に広いと思えたAK380のワイドレンジ感がさらに高域方向、低域方向の両方に広がっていく気がする。全帯域に一本筋が通ったような安定感も加わるのだ。音数の多いアニソンこそ、いい機器で聴きたいと改めて思ってしまった。

 最後にYesの楽曲を聴いた。これも三者三様で、冒頭のアコギの鳴り方ひとつだけで、ここまで違うかと思えるほどだった。

 特に注意して聞いたのはS/N感とアタック感の違いだ。

 AK380は硬質で緊張感があり、Copperはニュートラルでより聴きやすい方向。低域が太いためCopperは厚みや安定感がある。これがAK380SSになると、静寂性をより意識するというか、明らかに深いところから音がピンと立ち上がる印象がある。当然のように高域・低域の情報量も増え、録音を通したとは思えない、とにかくアコギの音色のリアルさに舌を巻いてしまう。圧倒的なS/N感の高さはAK380SSの魅力だ。

 当然、クリススクワイアの凶悪なベースラインだったり、リック・ウェイクマンのキーボード演奏だったりと曲自体の見どころもより一層、明晰に伝えてくれる。

 以上、3曲をじっくりと聴いてみた。素朴な感想は、やはり名曲をいい音で聴くというのは満足感が高いという、きわめて当たり前のものだった。3台そろったAK380ファミリーの音はいずれも個性的で、許されるならすべてを手元に置きたい。しかしその中でも、AK380SSは冷徹なまでの端正なサウンドであり、演奏のディティールをあからさまにする凄みがある。その驚異的な音数に圧倒される快感がある。

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