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ガジェット楽器ブームから10年、今年のNAMMに見る成熟感

2017年02月18日 12時00分更新

文● 四本淑三

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Prophet-6をもとに作ったモノフォニックシンセ「Toraiz AS-1」

 パイオニアはDSI(Dave Smith Instruments)と共同開発した初のシンセサイザー「Toraiz AS-1」を送り込んできました。今回のNAMMではAKAIも「MPC X」「MPC Live」という形でMPCを復活させましたが、パイオニアはすでにスタンドアロン型のサンプラー「Toraiz SP-16」もラインナップしており、この分野の製品拡充を図っている様子です。

 AS-1はProphet-6をもとにしたアナログのモノフォニックシンセサイザーで、2VCO(三角波/ノコギリ波)、2VCF(ローパス&ハイパス)、2EG(ADSR)、1LFO(三角波/ノコギリ波/逆ノコギリ波/矩形波/ランダム)の構成。エフェクトは2系統あり、ディレイ、コーラス、フェーザー、ディストーション、リングモジュレーターが使えます。当然ながら設定は保存可能で、495種類のファクトリー・プリセット入り。

 入力はタッチパッド式のキーボードと、エフェクターやLFOのスピードなどのパラメーターをアサインできるスライダー。キーボードは選択した音階に沿ったノートを出力し、ステップ/リアルタイム両対応の64ステップ・シーケンサーとアルペジエーターを内蔵。5ピンDINのMIDI入出力もあります。

 なんとなくmonotribeやVolcaを連想させる仕様ですが、AS-1はデイブ・スミスのDSIが関与している製品であり、Prophetのあの音がこのサイズと価格で手元に置けるとなれば、顔とか紐とかさまざまなものが緩んできます。発売は3月下旬予定。価格は5万9400円ということです。

 ところで、KORGとDSIと言えば、今回のNAMMショーで一番ぐっと来たのがこの動画です。シンセサイザーというのは国境や世代を超えた文化なのだという感慨がひしひしと。言わずと知れたシンセの巨人2人の対話をお楽しみください。

あの革命的だった2007年から10年

 今年のNAMMショー、ネットで見る限りあっと驚くようなものもなく、若干空振り気味にも見えました。が、予想外のとんでもないものが出てこなかっただけで、それ以前から試行錯誤を重ね、経験値を蓄積してきたところは、その結果を製品として出てきています。

 思えば今年は2017年。iPhoneの発売、YouTubeに端を発する動画サイトの盛り上がり、初音ミクの登場、そしてMake自作派の台頭と、いわゆるガジェット楽器ブームが始まった2007年から10年です。学研大人の科学のテルミンminiやSX-150、ニンテンドーDS用ソフトのKORG DS-10など、その後につながってドンドン出てきたあの頃が、もう10年前。

 そろそろゲームチェンジャーの登場が待たれる時期です。日本のオーディオや家電を見てもわかるとおり、市場が飽和すると潜在的ニーズを見ずにマニアックな方向に走り続け、方向性を見失ってやがて衰退するという歴史の繰り返し。シンセもかつてそうでした。

 そこに初音ミクやKAOSSILATORが登場して状況が変わったわけですが、どちらもいきなり現れたわけではありません。初音ミクは長い間、歌声合成を地道に研究してきた結果だし、KAOSSILATORだって、それ以前のKAOSS PADやデジタルシンセの技術がなければ成立していなかったはずです。そして2007年にあんなことが起きるなんて、2006年には誰も予想していなかった。

 次のゲームチェンジはどのようにして起きるのか。とりあえず来年のNAMMショーを待ちたいと思います。家から一歩も出ずに。



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

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